ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

日本版ベーシックインカム導入法案(?) その2

2017年02月26日 00時00分00秒 | 国際・政治

 一日おいて、第193回国会法律案(「格差是正及び経済成長のために講ずべき給付付き税額控除の導入その他の税制上の措置に関する法律案」)です。

 第3条は「個人所得課税に関する措置」という見出しの下、政府が「次に掲げる措置その他の個人所得課税の改革について早急に検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする」として、事項を列挙しています。

 第一が「基礎控除について、税額控除とすること」(第1号)です。これは、基礎控除のあり方として検討に値すると考えられます。現在は38万円の所得控除ですが、金額の根拠が明確でなく、所得控除では計算によって得られた所得から該当事項に従って一定の額を引くだけであり、税額算出の途中で行われるにすぎません。そのため、減税などの効果としては弱いと言えます。まして、所得再分配の効果は非常に薄いと言わざるをえません。

 現在の所得控除は、とにかく種類は多いものの、存在意義が問われるものもあるでしょうし、金額の根拠が不明なものもあります。基礎控除の額を増やす代わりに他の所得控除を減らすなり廃止するなどして統合することが求められるのではないでしょうか。

 第二が「配偶者控除及び扶養控除を廃止し、これらに代わるものとして、世帯の構成、生計の事情等に応じた税額控除を導入すること」です(第2号)。一見すると平成29年度税制改正大綱に似ていますが、全く違っており、むしろ、政府税制調査会による中間報告が示した選択肢の一つを延長させたようなものとなっています。配偶者控除を廃止することは、かなり前から民主党・民進党などが主張していたところですから、当然、配偶者特別控除も廃止されることになります。その上で扶養控除の廃止も打ち出されています。これはどうなのか、とも思います。「世帯の構成、生計の事情等に応じた税額控除」というものが、設計次第ではどのようなものにでもなりうるからです。

 第三が「給与所得控除について、前条第一項第二号の給付付き税額控除の導入と併せて抜本的な見直しを行うこと」(第3号)です。正直なところ、これはいただけません。給与所得控除は、その名称とは裏腹に、所得控除ではないからです。

 私は、講義において、所得税法における所得の基本形として

 〔所得(の金額)〕=(収入金額)−(必要経費)

と教えています。この形に最も忠実であるのが不動産所得と事業所得、そして雑所得のうちの公的年金等以外のものです。給与所得控除は、上の基本形に示されている必要経費に相当するものなのですが、給与所得者の場合は必要経費を具体的にあげることが困難であるために

 〔給与所得(の金額)〕=(給与収入金額)−(給与所得控除)

となるのです(所得税法第28条第2項)。従って、給与所得控除を基礎控除などの所得控除(同第72条に規定される雑損控除など)と混同してはならないのです。

 給与所得控除の見直しを行うというのであれば、第193回国会法律案の上掲第3号のようにするのでは、試験の答案にたとえれば落第と言ってもよいでしょう。給与所得控除を見直すということは、必要経費の概念を見直すということと結局のところは同じ意味であると言ってもよいのです。従って、所得の分類そのものを見直すべきです。給与所得と事業所得との区別に関する判例を見ても、両者を区別することが困難である、あるいは不適切と思われるものが少なくありません。相当に崩れてしまっているとはいえ、日本の所得税法は、まだ一応の原則として総合課税制度を維持しています。その上で所得を分類しているために無理をしている部分があることも否定できません。

 その意味において、第四の「金融所得課税に係る所得税並びに個人の道府県民税及び市町村民税を合わせた税率を百分の二十五に引き上げること」も不徹底であると言えます。これは、利子所得、配当所得について実際に採られている分離課税をそのままにして、現行よりも若干税率を高める程度に終わっているからです。また、「金融所得課税」については源泉徴収+分離課税の路線が強化されているので、所得控除が登場する余地はほとんどありませんし、比例税率が採用されていることから超過累進税率の適用がなく、高所得者であればあるほど得をするものとなっています。「社会経済情勢の急激な変化に伴い国民の間に生じている経済的格差その他の格差を是正し、及びその固定化を防止する」こと(第1条)が第193回国会法律案の目的の一つですから、所得税制の見直しを言う以上は所得控除や税額控除のみで終わらせるべきではないのです。所得の分類そのものを見直すべきであり、総合課税制度の再強化も検討すべきです。


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