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第34回 取消訴訟の原告適格(2)

2021年02月19日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 3.判例の傾向―従来の傾向と、法律上保護された利益説の拡大傾向(続)

 (2)周辺住民等の利益

 前掲最大判平成17年12月7日、前掲最二小判平成元年2月17日および前掲最三小判平成4年9月22日の他に、次のような判決がある。周辺住民等が原告となった訴訟については、原告適格を認めた判決と認めなかった判決がある。相違が何に起因するのかを考察していただきたい。

 ●最三小判平成9年1月28日民集51巻1号250頁

 事案:業者Aは、川崎市内の急傾斜地にマンションを建築する計画を立て、都市計画法第29条に基づく開発行為の許可の申請を行い、市長Yが許可処分を行った。これに対し、この開発区域の近隣に居住するXらは、開発行為によってがけ崩れや地滑りなどによる生命や身体および生活に関する基本的権利などが侵害されるとして、この許可処分の取消しを求めて出訴した。一審判決(横浜地判平成6年1月17日訟月41巻10号2549頁)および控訴審判決(東京高判平成6年6月15日民集51巻1号284頁)はXらの原告適格を否定したが、最高裁判所第三小法廷は控訴審判決の一部を破棄し、事件を横浜地方裁判所に差し戻した。

 判旨:①都市計画法第33条第1項第14号は「開発許可をしても、許可を受けた者が開発区域等について私法上の権原を取得しない限り開発行為等をすることはできないことから、開発行為の施行等につき相当程度の見込みがあることを許可の要件とすることにより、無意味な結果となる開発許可の申請をあらかじめ制限するために設けられているものと解され、開発許可をすることは、右の権利に何ら影響を及ぼすものではない。したがって、右の規定が右の権利者個々人の権利を保護する趣旨を含むものと解することはできない」。

 ②都市計画法第33条第1項第7号は「開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地であるときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていることを開発許可の基準としている。この規定は、右のような土地において安全上必要な措置を講じないままに開発行為を行うときは、その結果、がけ崩れ等の災害が発生して、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ、そのような災害を防止するために、開発許可の段階で、開発行為の設計内容を十分審査し、右の措置が講ぜられるように設計が定められている場合にのみ許可をすることとしているものである。そして、このがけ崩れ等が起きた場合における被害は、開発区域内のみならず開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想される。また、同条2項は、同条1項7号の基準を適用するについて必要な技術的細目を政令で定めることとしており、その委任に基づき定められた都市計画法施行令28条、都市計画法施行規則23条、同規則(平成5年建設省令第8号による改正前のもの)27条の各規定をみると、同法33条1項7号は、開発許可に際し、がけ崩れ等を防止するためにがけ面、擁壁等に施すべき措置について具体的かつ詳細に審査すべきこととしているものと解される。以上のような同号の趣旨・目的、同号が開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、同号は、がけ崩れ等のおそれのない良好な都市環境の保持・形成を図るとともに、がけ崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命、身体の安全等を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、開発区域内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たる場合には、がけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である」。

 ●最三小判平成13年3月13日民集55巻2号283頁(Ⅱ―163)

 事案:業者Aは、岐阜県内の山林をゴルフ場として造成するための開発行為を計画し、Y(岐阜県知事)に森林法第10条の2に基づく林地開発許可を申請した。Yは許可処分をした。これに対し、Xらがこの隣地開発許可処分の取消を求めた。一審判決(岐阜地判平成7年3月22日民集55巻2号304頁)はXらの原告適格を認めなかったが、控訴審判決(名古屋高判平成8年5月15日判タ916号97頁)はXらの原告適格を認めて事件を岐阜地方裁判所に差し戻した。Yが上告し、最高裁判所第三小法廷は前掲最三小判平成4年9月22日および前掲最三小判平成9年1月28日を引用しつつ、立木等所有者や営農者であるX1、X2、X3、X4およびX5については原告適格を認めず、控訴を棄却したが、居住者であるX6およびX7については原告適格を認め、Yの上告を棄却した。

 判旨:①森林法第10条の2第2項第1号および同項第1号の2は「森林において必要な防災措置を講じないままに開発行為を行うときは、その結果、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が発生して、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ、開発許可の段階で、開発行為の設計内容を十分審査し、当該開発行為により土砂の流出又は崩壊、水害等の災害を発生させるおそれがない場合にのみ許可をすることとしているものである。そして、この土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が発生した場合における被害は、当該開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想される。以上のような上記各号の趣旨・目的、これらが開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、これらの規定は、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害防止機能という森林の有する公益的機能の確保を図るとともに、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である」。

 ②「森林法10条の2第2項1号及び同項1号の2の規定から、周辺住民の生命、身体の安全等の保護に加えて周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることは困難である。また、同項2号は、当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないことを、同項3号は、当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがないことを開発許可の要件としているけれども、これらの規定は、水の確保や良好な環境の保全という公益的な見地から開発許可の審査を行うことを予定しているものと解されるのであって、周辺住民等の個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない」。

 ●最三小判平成26年7月29日民集68巻6号620頁

 事案:宮崎県知事は、平成15年11月5日、Aに対して産業廃棄物処理施設設置許可を行い、Aは平成17年8月23日に産業廃棄物処理施設を北諸県郡高城町(現在は都城市の一部)に設置した。また、宮崎県知事は、Aに対し、平成17年10月25日に産業廃棄物処分業の許可処分、同年11月30日に特別管理産業廃棄物処分業の許可処分を行い、平成22年10月25日に産業廃棄物処分業許可更新処分を、同年11月30日に特別管理産業廃棄物処分業許可更新処分を行った。高城町などの地域に居住するXらは、宮崎県に対し、上記各許可処分の無効確認およびその取消処分の義務づけ、ならびに上記各許可更新処分の取消を求めて出訴した。一審判決(宮崎地判平成23年10月21日判自388号74頁)はXらの請求を却下し、控訴審判決(福岡高宮崎支判平成24年4月25日判自388号79頁)もXらの控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷は、Xらのうちの1人について上告を棄却したが、その他については事件を宮崎地方裁判所に差し戻した。

 判旨:①「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項)」(前掲最大判平成17年12月7日を参照)。そして、行政事件訴訟法第36条にいう「当該処分の無効等の確認を求めるにつき『法律上の利益を有する者』についても、上記の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するのが相当である」(前掲最三小判平成4年9月22日を参照)。さらに、行政事件訴訟法第37条の2第3項にいう「当該処分の取消処分の義務付けを求めるにつき『法律上の利益を有する者』についても(中略)取消訴訟の原告適格の場合と同様の観点から判断すべきものと解するのが相当である」。

 ②「廃棄物処理法においては、産業廃棄物等処分業の許可の要件に関しても、産業廃棄物等処分業を行おうとする者がその事業の用に供する施設として上記の技術上の基準に適合している最終処分場を有していることにつき、周辺地域の生活環境の保全という観点からもその審査を要するとされているものと解するのが相当である」ことなどからすれば、「産業廃棄物等処分業の許可及びその更新に関する廃棄物処理法の規定は、産業廃棄物の最終処分場から有害な物質が排出されることに起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等によって、その最終処分場の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し、もってこれらの住民の健康で文化的な生活を確保し、良好な生活環境を保全することも、その趣旨及び目的とするものと解される」。

 ③「産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等によって当該最終処分場の周辺地域に居住する住民が直接的に受ける被害の程度は、その居住地と当該最終処分場との近接の度合いによっては、その健康又は生活環境に係る著しい被害を受ける事態にも至りかねないものである。しかるところ、産業廃棄物等処分業の許可及びその更新に関する廃棄物処理法の規定は、上記の趣旨及び目的に鑑みれば、産業廃棄物の最終処分場の周辺地域に居住する住民に対し、そのような最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるのであり、上記のような被害の内容、性質、程度等に照らせば、この具体的利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわなければならない。

 ④「産業廃棄物等処分業の許可及びその更新に関する廃棄物処理法の規定の趣旨及び目的、これらの規定が産業廃棄物等処分業の許可の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば、同法は、これらの規定を通じて、公衆衛生の向上を図るなどの公益的見地から産業廃棄物等処分業を規制するとともに、産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して、そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である」。そのため、「産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民のうち、当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物等処分業の許可処分及び許可更新処分の取消し及び無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟及び無効確認訴訟における原告適格を有するものというべきである」。

 以上の3判決は周辺住民等の原告適格を認めたものである。これに対し、次の3判決は原告適格を認めなかったものである。

 ●最二小判平成12年3月17日集民197号661頁(大阪府墓地経営許可事件)

 事案:大阪府知事Yは、宗教法人Aに対し、墓地経営の許可処分を行った。大阪府の「墓地等の経営の許可等に関する条例」(本件条例)は住宅等から300メートル以上という距離制限を原則としていたが、Xらは300メートル以内に居住しており、この許可処分が本件条例に反するとして取消を求めて出訴した。一審判決(大阪地方裁判所。判決年月日は不明、判例集未登載)および控訴審判決(大阪高判平成9年10月23日判例集未登載)はXらの原告適格を否定した。最高裁判所第二小法廷もXらの原告適格を否定した。

 判旨:墓地、埋葬等に関する法律第10条第1項は「墓地等の経営が、高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件等に依存する面を有し、一律的な基準による規制になじみ難いことにかんがみ、墓地等の経営に関する許否の判断を都道府県知事の広範な裁量にゆだねる趣旨に出たものであって、法は、墓地等の管理及び埋葬等が国民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とする法の趣旨に従い、都道府県知事が、公益的見地から、墓地等の経営の許可に関する許否の判断を行うことを予定しているものと解される」。そのため、同第10条第1項が「当該墓地等の周辺に居住する者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い」。また、本件条例第7条第1号は「その周辺に墓地及び火葬場を設置することが制限されるべき施設を住宅,事務所、店舗を含めて広く規定しており、その制限の解除は専ら公益的見地から行われるものとされていることにかんがみれば、同号がある特定の施設に着目して当該施設の設置者の個別的利益を特に保護しようとする趣旨を含むものとは解し難い」から「墓地から300メートルに満たない地域に敷地がある住宅等に居住する者が法10条1項に基づいて大阪府知事のした墓地の経営許可の取消しを求める原告適格を有するものということはできない」。

 ●最一小判平成10年12月17日民集52巻9号1821頁(Ⅱ―166)

 事案:東京都公安委員会Yは、Aに対し、パチンコ店の営業許可処分を行った。これに対し、近隣住民のXらは、このパチンコ店の駐車場が第一種住居専用地域(都市計画法第8条第1項第1号。東京都風俗営業適正化法施行条例により、風俗営業所の設置禁止区域に指定されていた)にはみ出しており、違法であるとして、営業許可の取消しを求めて出訴した。一審判決(東京地判平成7年11月29日行集46巻10・11号1089頁)および控訴審判決(東京高判平成8年9月25日行集47巻9号816頁)はXらの原告適格を否定した。最高裁判所第一小法廷も、前掲最三小判平成4年9月22日および前掲最三小判平成9年1月28日を引用しつつ、Xらの原告適格を否定した。

 判旨:①風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第1条は「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び風俗関連営業等について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする」ことを定めており、「法の風俗営業の許可に関する規定が一般的公益の保護に加えて個々人の個別的利益をも保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることは、困難である」。

 ②風俗営業の許可の基準を定める法第4条第2項第2号は「具体的地域指定を条例に、その基準の決定を政令にゆだねており、それらが公益に加えて個々人の個別的利益をも保護するものとすることを禁じているとまでは解されないものの、良好な風俗環境の保全という公益的な見地から風俗営業の制限地域の指定を行うことを予定しているものと解されるのであって、同号自体が当該営業制限地域の居住者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い」。

 ③風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令第6条第1号ロおよび第2号は「当該特定の施設の設置者の有する個別的利益を特に保護しようとするものと解されるから」、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例第3条第1項第2号は「同号所定の施設につき善良で静穏な環境の下で円滑に業務をするという利益をも保護していると解すべきである」。しかし、同施行令第6条第1号イは「『住居が多数集合しており、住居以外の用途に供される土地が少ない地域』を風俗営業の制限地域とすべきことを基準として定めており、一定の広がりのある地域の良好な風俗環境を一般的に保護しようとしていることが明らかであって、同号ロのように特定の個別的利益の保護を図ることをうかがわせる文言は見当たらない」のであり、「施行令6条1号イの規定は、専ら公益保護の観点から基準を定めていると解するのが相当である。そうすると、右基準に従って規定された施行条例3条1項1号は、同号所定の地域に居住する住民の個別的利益を保護する趣旨を含まないものと解される。したがって、右地域に居住する者は、風俗営業の許可の取消しを求める原告適格を有するとはいえない」。

 ●最一小判平成21年10月15日民集63巻8号1711頁(サテライト大阪訴訟。Ⅱ−167)

 事案:経済産業大臣は、平成17年9月26日付で、訴外Aに対し、大阪市中央区に場外車券発売施設(サテライト大阪)の設置許可処分を行った。これについて、近隣に居住し、事業を営み、また病院などを開設するXらは、設置許可処分が場外車券発売施設の設置許可要件を満たさない違法なものであると主張し、その取消を求め、国を被告として出訴した。一審判決(大阪地判平成19年3月14日判タ1257号79頁)はXらの請求を却下したが、控訴審判決(大阪高判平成20年3月6日判時2019号17頁)は一審判決を破棄した。国が上告し、最高裁判所第一小法廷は、控訴審判決のうちX1に関する部分を破棄し(同人の死亡による)、X2、X3およびX4に関する部分を破棄して大阪地方裁判所に差し戻し、その他の控訴を棄却した。

 判旨:①「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。/そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである」(前掲最大判平成17年12月7日を参照)。

 ②「一般的に、場外施設が設置、運営された場合に周辺住民等が被る可能性のある被害は、交通、風紀、教育など広い意味での生活環境の悪化であって、その設置、運営により、直ちに周辺住民等の生命、身体の安全や健康が脅かされたり、その財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定し難いところである。そして、このような生活環境に関する利益は、基本的には公益に属する利益というべきであって、法令に手掛りとなることが明らかな規定がないにもかかわらず、当然に、法が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解するのは困難といわざるを得ない。

 ③自転車競技法および同法施行規則が「位置基準によって保護しようとしているのは、第一次的には、上記のような不特定多数者の利益であるところ、それは、性質上、一般的公益に属する利益であって、原告適格を基礎付けるには足りないものであるといわざるを得ない。したがって、場外施設の周辺において居住し又は事業(医療施設等に係る事業を除く。)を営むにすぎない者や、医療施設等の利用者は、位置基準を根拠として場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有しないものと解される。/もっとも、場外施設は、多数の来場者が参集することによってその周辺に享楽的な雰囲気や喧噪といった環境をもたらすものであるから、位置基準は、そのような環境の変化によって周辺の医療施設等の開設者が被る文教又は保健衛生にかかわる業務上の支障について、特に国民の生活に及ぼす影響が大きいものとして、その支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を禁止し当該医療施設等の開設者の行う業務を保護する趣旨をも含む規定であると解することができる。したがって、仮に当該場外施設が設置、運営されることに伴い、その周辺に所在する特定の医療施設等に上記のような著しい支障が生ずるおそれが具体的に認められる場合には、当該場外施設の設置許可が違法とされることもあることとなる。」

 ④「位置基準は、一般的公益を保護する趣旨に加えて、上記のような業務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者において、健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を、個々の開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきであるから、当該場外施設の設置、運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は、位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有するものと解される。そして、このような見地から、当該医療施設等の開設者が上記の原告適格を有するか否かを判断するに当たっては、当該場外施設が設置、運営された場合にその規模、周辺の交通等の地理的状況等から合理的に予測される来場者の流れや滞留の状況等を考慮して、当該医療施設等が上記のような区域に所在しているか否かを、当該場外施設と当該医療施設等との距離や位置関係を中心として社会通念に照らし合理的に判断すべきものと解するのが相当である。」

 ⑤「周辺環境調和基準は、場外施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置が周辺環境と調和したものであることをその設置許可要件の一つとして定めるものである。同基準は、場外施設の規模が周辺に所在する建物とそぐわないほど大規模なものであったり、いたずらに射幸心をあおる外観を呈しているなどの場合に、当該場外施設の設置を不許可とする旨を定めたものであって、良好な風俗環境を一般的に保護し、都市環境の悪化を防止するという公益的見地に立脚した規定と解される。同基準が、場外施設周辺の居住環境との調和を求める趣旨を含む規定であると解したとしても、そのような観点からする規制は、基本的に、用途の異なる建物の混在を防ぎ都市環境の秩序ある整備を図るという一般的公益を保護する見地からする規制というべきである。また、『周辺環境と調和したもの』という文言自体、甚だ漠然とした定めであって、位置基準が上記のように限定的要件を明確に定めているのと比較して、そこから、場外施設の周辺に居住する者等の具体的利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を読み取ることは困難といわざるを得ない。」

 なお、事案の性質は異なるが、最三小判平成6年9月27日集民173号111頁は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律4条2項2号、風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律施行令6条2号及びこれらを受けて制定された風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律施行条例(昭和59年神奈川県条例第44号)3条1項3号は、同号所定の診療所等の施設につき善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営するという利益をも保護していると解すべきである」と述べて、パチンコ店営業許可の取消しを求める開業医の原告適格を認めた。但し、結局は請求を棄却した。

 (3)消費者や利用者の利益

 ●最三小判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁(Ⅱ―132)

 「第29回 行政救済法とは何か/行政不服審査法において取り上げた。一般消費者に原告適格を認めない判例の代表例でもある。

 ●最一小判平成元年4月13日判時1313号121頁(近鉄特急事件。Ⅱ−168)

 事案:近畿日本鉄道(近鉄)は、昭和55年2月16日にY(大阪陸運局長)および名古屋陸運局長に対し、特急料金改定(値上げ)のための認可申請を行った。これに対し、Yは同年3月8日、当時の地方鉄道法第21条第1項に基づき、近鉄に対して認可処分を行った。近鉄の大阪線、奈良線、南大阪線の特急を通勤のために利用するXらは、この認可処分が違法であるとして取消訴訟を提起するとともに、国を被告とする損害賠償請求訴訟も提起した。一審判決(大阪地判昭和57年2月19日行集33巻1・2号118頁)は、原告の請求を棄却したものの、Yの処分を違法と宣言した。X、Yの双方が控訴し、控訴審判決(大阪高判昭和59年10月30日行集35巻10号1772頁)は一審判決を取り消し、XのYに対する請求を却下した。最高裁判所第一小法廷は、Xの上告を棄却した。

 判旨:「地方鉄道法(大正8年法律第52号)21条は、地方鉄道における運賃、料金の定め、変更につき監督官庁の認可を受けさせることとしているが、同条に基づく認可処分そのものは、本来、当該地方鉄道利用者の契約上の地位に直接影響を及ぼすものではなく、このことは、その利用形態のいかんにより差異を生ずるものではない。また、同条の趣旨は、もっぱら公共の利益を確保することにあるのであって、当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することにあるのではなく、他に同条が当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することを目的として認可権の行使に制約を課していると解すべき根拠はない。そうすると、たとえ上告人らが近畿日本鉄道株式会社の路線の周辺に居住する者であって通勤定期券を購入するなどしたうえ、日常同社が運行している特別急行旅客列車を利用しているとしても、上告人らは、本件特別急行料金の改定(変更)の認可処分によって自己の権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるということができず、右認可処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである」。

 以上の2つの判決は、消費者や利用者について原告適格を否定したものである。しかし、最近では原告適格を認める判決も出されつつある。その代表例が次の判決である。

 ●東京地判平成25年3月26日訟務月報60巻6号1304頁(北総線運賃訴訟)

 事案:国土交通大臣は、平成22年2月19日付で、鉄道事業法第15条第1項に基づき、北総鉄道および千葉ニュータウン鉄道が京成電鉄との間で成田空港線(京成高砂〜成田空港)のうち、京成高砂〜小室(北総鉄道)および小室〜印旛日本医大(千葉ニュータウン鉄道)の使用について設定した各使用条件(線路使用料や旅客運賃収入の配分方法などを定めたもの)を認可する旨の各処分(以下、各使用条件認可処分)を行い、また同第16条第1項に基づき、京成電鉄が申請していた成田空港線の旅客運賃上限の設定を認可する旨の処分(以下、上限設定処分)を行った。これに対し、北総鉄道北総線の沿線住民であるXらは、各使用条件が北総鉄道のみに不利益であって同鉄道およびその利用者の利益を害するなどとして各使用条件認可処分が鉄道事業法第15条第3項に違反するとして取消を求めるとともに、国土交通大臣に対して同法第23条第1項第4号に基づき、北総鉄道と京成電鉄との間の鉄道線路使用条件を変更するように命ずることの義務づけを求め、さらに、北総鉄道の旅客運賃が非常に高額であって同鉄道に対する旅客運賃変更認可処分が鉄道事業法第16条第2項に違反するとして取消を求める、などの訴訟を提起した。東京地方裁判所は、Xらの請求を一部却下し、その余については棄却した。

 判旨:①「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定しているところ、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するというべきである」(前掲最大判平成17年12月7日を参照)。また、「行政事件訴訟法36条は、無効確認訴訟の原告適格について規定しているところ、同条にいう無効確認を求めるにつき『法律上の利益を有する者』の意義についても、取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するのが相当である」(前掲最三小判平成4年9月22日を参照)。そして、「行政事件訴訟法9条2項は、裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について同条1項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとし、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする旨規定している。」

 ②鉄道事業法第1条および第16条第1項は「旅客運賃上限認可処分について利用者が特別の利害関係を有することを前提に、国土交通大臣が上記処分を行うに当たり、鉄道利用者に一定の手続関与の機会を付与しているものということができ」、「鉄道の利用は、法的には利用者が鉄道事業者との間で運送契約を締結して行われるものであり、更に定期券による鉄道利用に至っては継続的契約関係を生じさせるものであると解されるが、その運送の対価である旅客運賃は鉄道事業者の約款により一方的に定められており、利用者としては、一方的に定められた旅客運賃を支払って鉄道を利用するか、それともそもそも鉄道を利用しないかの自由しか与えられていないものであ」るから、「旅客運賃認可処分が違法にされ、違法に高額な旅客運賃が設定された場合、日々の仕事や学業等を行うための通勤や通学等の手段として当該鉄道を反復継続して日常的に利用する者は、その違法に高額な旅客運賃を支払って、引き続き鉄道を利用することを余儀なくされることになるし、また、その経済的負担能力いかんによっては、当該鉄道を日常的に利用することが困難になり、職場や学校等に日々通勤や通学等すること自体が不可能になったり、住居をより職場や学校の近くに移転せざるを得なくなったりすることになりかねない」。そのため、「鉄道事業法が、旅客運賃認可処分が違法にされた場合に、およそいかなる鉄道利用者であっても、その違法性を一切争うことはできないものとしたと解さなければならない合理的理由はない」。従って、「『利用者の利益の保護』を重要な理念として掲げ、その具体的な確保のための条項を置いている鉄道事業法が、上記のような重大な損害を受けるおそれがある鉄道利用者についてまで、違法な旅客運賃認可処分がされてもその違法性を争うことを許さず、これを甘受すべきことを強いているとは到底考えられないというべきであるから、改正前鉄道事業法16条1項及び鉄道事業法16条1項は、これらの者の具体的利益を、専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいると解すべきであ」り、「改正前鉄道事業法16条1項又は鉄道事業法16条1項に基づく旅客運賃認可処分に関し、少なくとも居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者が有する利益は、『法律上保護された利益』に該当するというべきである」。

 ③Xらが「北総線区間内(京成高砂駅と印旛日本医大駅の間)でのみ日々列車に乗車しており、北総線と成田空港線が重なり合っていない区間(印旛日本医大駅と成田空港駅の間)では列車に乗車していないことが認められる」ことからすれば、Xらは「北総鉄道に対して、北総運賃変更認可処分により認可された旅客運賃を支払うことにより、北総線区間内において、北総鉄道の運行する列車又は京成電鉄の運行するアクセス特急のいずれかに乗車しているものであるから、北総運賃変更認可処分の取消し又は無効確認を求めるにつき『法律上の利益』を有するということはできるものの、京成電鉄に旅客運賃を支払っているわけではないから、成田空港線について認可された京成運賃上限認可処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益』を有するものではないというべきである」。

 ④「鉄道事業法16条1項に規定する旅客運賃認可処分は、旅客運賃を支払って日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者の具体的利益を、専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいると解されることからすれば、同法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令についても、上記のような鉄道利用者の具体的利益を、専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいるものと解するのが相当である」。

 ⑤「鉄道線路使用条件は、旅客運賃や鉄道施設の変更等のように鉄道利用者に直接影響を及ぼすものではなく、飽くまでも鉄道事業者相互間の関係を規律するものであることから、鉄道事業の適正な運営を阻害しない限り、鉄道線路使用条件の内容を原則として鉄道事業者相互間の調整に委ねたものであ」り、「鉄道線路使用条件設定認可処分が違法にされた場合、そのことによって直ちに旅客運賃上限に影響が生じ、鉄道利用者に損害が及ぶことになるものではない」から「同法に規定するあらゆる処分について、鉄道利用者が当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有すると解することができるわけではな」く、「鉄道事業法15条1項が、鉄道利用者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできないといわざるを得ない」のであり、「鉄道事業法15条1項に基づく鉄道線路使用条件設定認可処分によって、鉄道利用者が『法律上保護された利益』を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあるとは認められないから、鉄道利用者は、上記処分の取消訴訟における原告適格を有しないものというべきである」。

 注意:Xらは控訴したが、東京高判平成26年2月10日訟務月報60巻6号1367頁はXらの控訴を棄却した。そして、最三小決平成27年4月21日判例集未登載は、Xらの上告が民事訴訟法第312条第1項・第2項に規定する事由に該当せず、上告受理申立てについても同法第318条第1項により「受理すべきものとは認められない」として、上告を棄却した。

 (4)学術研究者の利益

 ●最三小判平成元年6月20日判時1334号201頁(伊場遺跡訴訟。Ⅱ−169)

 事案:浜松市にあった伊場遺跡は、浜松駅に近く、駅前再開発および鉄道高架工事のための代替地の候補となっていた。そのため、静岡県教育委員会は、同県文化財保護条例に基づき、伊場遺跡の史跡指定解除処分を行った。これに対し、学術研究者Xらが指定解除処分の取消しを求めて出訴した。一審判決(静岡地判昭和54年3月13日行集30巻3号592頁)はXらの請求を却下し、控訴審判決(東京高判昭和58年5月30日行集34巻5号946頁)もXらの控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷もXらの上告を棄却した。

 判旨:史跡指定解除処分の根拠である静岡県文化財保護条例(本件条例)第30条第1項、および同条例の第1条、第29条第1項などの規定ならびに文化財保護法に「県民あるいは国民が史跡等の文化財の保存・活用から受ける利益をそれら個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を明記しているものはなく、また、右各規定の合理的解釈によっても、そのような趣旨を導くことはできない。そうすると、本件条例及び法は、文化財の保存・活用から個々の県民あるいは国民が受ける利益については、本来本件条例及び法がその目的としている公益の中に吸収解消させ、その保護は、もっぱら右公益の実現を通じて図ることとしているものと解される。そして、本件条例及び法において、文化財の学術研究者の学問研究上の利益の保護について特段の配慮をしていると解しうる規定を見出すことはできないから、そこに、学術研究者の右利益について、一般の県民あるいは国民が文化財の保存・活用から受ける利益を超えてその保護を図ろうとする趣旨を認めることはできない。文化財の価値は学術研究者の調査研究によって明らかにされるものであり、その保存・活用のためには学術研究者の協力を得ることが不可欠であるという実情があるとしても、そのことによって右の解釈が左右されるものではない」。

 

 ▲第7版における履歴:「暫定版 取消訴訟の原告適格(2)」として2020年11月11日00時00分00秒付で掲載し、修正の上、2021年2月19日に再掲載。

 ▲第6版における履歴:2017年10月25日掲載(「第24回 取消訴訟の訴訟要件その2―原告適格および狭義の訴えの利益を中心に―」として)。

              2017年12月20日修正。


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