再び大阪の金剛自動車の話です。昨日(2023年10月26日)に協議会が開かれました。昨日の18時45分付で毎日放送が「運行終える『金剛バス』自治体が費用負担して『主要路線以外の一部路線』も存続が決定」(https://www.mbs.jp/news/kansainews/20231026/GE00053264.shtml)として、19時57分付で、産経新聞社が「全路線廃止の金剛バス、10路線は継続運行へ 南海、近鉄や関係自治体が継承」(https://www.iza.ne.jp/article/20231026-JD5G25ZDLBPWHJVB6Z3GRHUQ34/)として報じています。
これらの記事によると、金剛自動車のバス路線のうち、10路線については他の事業者が継承する方向で合意がなされたということです。上記毎日放送記事には書かれていないのですが、上記産経新聞社記事のほうには「今後、関係者間の負担金などを協議し国土交通省に申請をする」とのことであり、「比較的利用の多い主要5路線は近鉄バス(東大阪市)と南海バス(堺市)のほか関係自治体が、過疎地域などで認められる『自家用有償旅客運送制度』を利用し、大型バスを運行する。全体の便数は現在より3~4割減少する見込み」であるとのことです。一方、残りの10路線はそのまま残る訳でなく、5路線のみを残すようです。詳細はわかりませんが、統廃合を行うということであり、地方自治体(おそらく、富田林市、太子町、河南町および千早赤阪村を指すのでしょう)が運行主体になるというのでしょう。上記毎日放送記事は「主要路線以外の路線について協議が続いていましたが、沿線の自治体などでつくる協議会は10月26日、一部については自治体が費用を負担して運行を続けることを決めました」と記しており、「住民の生活を守るという視点では一定の支出はやむを得ない」という松田貴仁氏(公共交通活性化協議会会長)の言葉も載せています。
いずれの路線についても、程度の差はあれ減便が避けられません。上記毎日放送記事によれば、残りの10路線については「車両は金剛バスの路線バスを引き継ぐことなどを検討していて、運賃は変わらず、これまでの6割~7割程度の便数を補える見通しだということです」が、運賃水準をいつまで維持できるかという点も気になるところでしょう。
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路線バスの減便は全国的な問題ですが、とくに近畿地方で目立つように思われます。これが単に私の目に付くことが多いのが近畿地方のニュースであるだけなのか、近畿地方のマスコミが積極的に報じているからなのかはわかりませんが、毎日放送のサイトには2023年10月25日19時20分付で「『バスあるから住んだのに』奈良で人口3番目の市で路線バス再編案…存続求め住民訴え」(https://www.mbs.jp/news/kansainews/20231025/GE00053228.shtml)という記事も掲載されています。
これは、人口10万人超を抱える生駒市における路線バスの再編協議の問題についての記事です。生駒市といえば、近鉄奈良線、近鉄けいはんな線などが通り、大阪市の難波、森ノ宮などに直接行ける、さらに兵庫県尼崎市、西宮市、神戸市にも直接行ける場所ですから、路線バスの需要もありそうなものです。しかし、同市内の4路線、しかも主要駅などを連絡するバス路線を減便や廃止にするという再編案が奈良交通から提案されています。
理由はいくつもあるのでしょうが、まずは少子高齢化でしょう。これにより、利用者はピーク時(これがいつなのかは不明です)の半分まで減ったといいます。次に、やはりCOVID-19の影響が大きかったようです。問題の4路線の赤字額は2021年度で1億200万円ほどであるそうなので、再編は避けられないということでしょう。記事には4路線について具体的なことが書かれていませんが、「あすか野団地口」というバス停が例としてあげられていることから、ニュータウンあるいは新興住宅地ではないかと考えられます。このような場所は少子高齢化の影響をまともに受けやすいのです。上記毎日放送記事によると、このバス停を通る便は平日で107とのことですが「再編されるとバス停が廃止になる可能性があります」。おそらく複数の運行系統が「あすか野団地口」を通るであろうとは言え、107便というのはかなり多いように思われますので、バス停が廃止されたら通勤通学など住民生活に少なからぬ影響が出ることでしょう。
一方、上記毎日放送記事には、生駒市役所建設部事業計画課課長の話も載せられています。同課長は、複数の市町村に跨がるバス路線については国や県の支援があるのに対し、生駒市の場合には同市内で完結してしまう路線が非常に多く、こうした路線は国や県の支援の対象にならないという趣旨を語っていました。生駒市の財政状況にもよりますが、全路線の赤字を税収で補塡することはできないということでしょう。こうした状況であれば、滋賀県で検討された交通税の導入なども検討されなければならないかもしれません(私自身は慎重に検討すべきであるという立場をとります。仮にかつての道路特定財源のようなものであるとするならば、法律による税収の使途の限定によって財政の硬直化を招くおそれがありますし〔拙稿「地方目的税の法的課題」日税研論集46号『地方税の法的課題』(2001年、日本税務研究センター)284頁を参照してください〕、逆に一般財源とするならば交通税による収入のどの程度の割合が公共交通機関の維持・発展のために支出されるのかがわかりにくくなります。これについては消費税を想起してください。消費税法第1条第2項は「消費税の収入については、地方交付税法(昭和25年法律第211号)に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」と定めていますが、消費税そのものは特定財源でも目的税でもないとされるため、実際に消費税の収入のうち、どの程度の割合が「制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充て」られているのか、明確にされていません。
今回は大阪府と奈良県の話題を取り上げましたが、首都圏、とくに京浜地区でもバス路線の減便が多く取り上げられることになるであろうと容易に想像できるため、何度でも扱うこととしています。
生駒市内路線の赤字が1億円と報道されていますがこれは2021年のもので、直近の2022年度は3千万円に大幅に減少しています。
https://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000032/32933/r51s7to2
ボトムの年を挙げてこれだけ赤字だから再編やむなしと思わせる奈良交通の思惑を感じます。
この度は関西バス事情にご関心持ってくださり、ありがとうございました。引き続きご関心お持ちくだされば幸いです。
こちらこそ、お読みいただき、まことにありがとうございます。
私は行政法学の研究者であり、長らく公共交通機関に対する関心を持ち続け、少しずつではありますが研究を進めています(2023年11月12日には日本地方自治学会において報告も行いました)。今は神奈川県川崎市に住んでおりますが、車社会で過ごした経験もありますから、路線バスの利便性の低下には危機感を抱いております。
今後も公共交通機関の話題を取り上げていきます。御指導などを賜ることができれば幸いです。