ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

これを言ってしまったら話が止まるか、相手を怒らせるか…

2025年03月08日 00時00分00秒 | 国際・政治

 兵庫県議会の百条委員会が、3月4日に調査報告書を全会一致で可決しました。そして、5日には兵庫県議会がこの調査報告書を了承しました。

 これに対する形で、兵庫県知事が5日の定例記者会見で、次のように発言しています。

 「議会側からの文書問題に関する一つの見解が示された。しっかり受け止めていきたい。そして改めるべきことは改めていく。例えば、物品受領のルール作り。それからハラスメント研修をしっかりやっていく。斎藤県政にとって大事なことなので、議会からの声を受け止めて、県政を進めていきたいと考えている。」

 「県としては、文書問題に関する初動対応、懲戒処分の対応も、弁護士とも相談しながらやってきた。文書については誹謗(ひぼう)中傷性が高い文書ということで、作られた方を調査したということ。四つの非違行為も判明したので、懲戒処分した。内容、手続きともに問題なかったと考えている。」

 「公益通報の関係については、有識者の中でも様々な見解がある。違法性があると指摘する方も百条委にいたが、違法性がなかったとおっしゃる方もいる。県としては違法性の問題はなく、適切だったと考えている。」

 「違法性についての可能性ということを言っているので、可能性というからには他の可能性もあるということだと思う。」

 〈以上は、朝日新聞社のサイトに2025年3月5日20時50分付で掲載された「斎藤知事、処分の元局長に『不服申し立てしなかった』 会見一問一答」(https://digital.asahi.com/articles/AST353GF3T35PIHB003M.html?iref=pc_extlink)より引用しました。この後の引用も同じです。〉

 記事を見て「いやあ、これを言っちまったか」と思いました。百条委員会の調査報告書を「一つの見解」というあっさりとした、というより冷ややかな表現で切り捨てています。しかもこのフレーズが繰り返されたとのことです(似たような単語が使われることによって結果的な繰り返しになったのかもしれません)。妻とも話したのですが、こんな言葉を口に出されたら、話が止まるか、火に油を注ぐかのどちらかでしょう。後にも発言は続いていますが、「そして改めるべきことは改めていく」や「議会からの声を受け止めて、県政を進めていきたいと考えている」の意味が薄められています。

 それに、「一つの見解」が流行したら困ったことになるでしょう。例えば、子供が悪いことをして親なり教師なりが叱ったとして、子供が「それは一つの見解だよね」なんて言うかもしれません。これでは躾も教育も成り立ちません。ただ、有名な誰かが多用したことで人口に膾炙した「それはあなたの意見ですよね」、「それはあなたの感想ですよね」と根は同じです。これらも話、議論などを止めてしまいます。コミュニケーションを断ち切ってしまいかねません。

 まあ、「それは一つの見解だよね」、「それはあなたの意見ですよね」、「それはあなたの感想ですよね」の応用範囲は広いのかもしれません。あまり使って欲しくないのですが……。

 もう一つ、この定例記者会見で、次のようなやりとりがありました。元県民局長への救済、具体的には「処分の撤回」(と上記記事には記されていますが、行政法学の観点からすれば、懲戒処分が違法であるならば取消、当初は適法であったなら撤回です〕や名誉回復はあるのかという質疑に関連するものです。

 質疑:「知事は亡くなった県民局長をあえて毀損(きそん)しようとしている。今日の記者会見での県民局長へのプライバシー情報に対する言及を取り消さないのか。」

 応答:「倫理上極めて問題のある文書というものは、これまでも申し上げてたし、その内容について申し上げるということ。」

 質疑の言葉をどなたが発したのかはわかりませんが、憤怒、義憤の念がかなり強く表されています。これに対し、応答は、おそらく、良く言えば冷静沈着という感じでなされたのでしょう。要するに「死人に口なし」または「死者に鞭打つ」ということでしょうか。

 以上を見てすぐに思い出したのが森友問題です。近畿財務局の職員が自死に追い込まれたことがわかった時の政府の反応がまさにこれでした。言葉などは全く違っていますし、たしか森友問題の際には何ら積極的反応が示されなかった、あるいは「トカゲの尻尾切り」のような対応であったと記憶していますが、それらが「死人に口なし」または「死者に鞭打つ」という態度の表明でした。

 しかも、「倫理上極めて問題のある文書」を御本人は目にしていないことも明言されています。私は「確認してないのに、よく断言できるな」と感心しました。また、「倫理上極めて問題のある文書」は百条委員会の調査報告書で問題とされた公益通報と全く関係のない事柄であり、懲戒処分を正当化することはできないと考えられます。

 兵庫県政の混乱が続いていますが、百条委員会の調査報告書を了承した以上、兵庫県議会は知事への不信任決議を行うべきでしょう。私がここに記すよりも前に少なからぬ方々が指摘されているはずですが、不信任決議が筋です。昨年の秋に知事選が行われましたが、議会議員選挙は行われていませんし、昨年9月に兵庫県議会は不信任決議を行いました(勿論、可決です)。これに対して知事が県議会を解散するかもしれませんが、地方自治法が想定しているのですから、法律上の問題は全くありません。むしろ、このままゴタゴタを抱えて続けるほうが問題です。


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