4.審査請求などの提起先
〔1〕審査請求の提起先
行政不服審査法第4条が規定するが、旧行政不服審査法と比較しても複雑なものと言いうる。法律(または条例)に別段の定めがなければ、次に示すとおりである(同第4号が原則である)。
・処分庁または不作為庁に常住行政庁がない場合〈例、人事院、都道府県知事、市町村長〉:当該処分庁または不作為庁(第1号)
・処分庁または不作為庁が主任の大臣である場合:当該処分庁または不作為庁(第1号)
・処分庁または不作為庁が宮内庁長官である場合:当該処分庁または不作為庁(第1号)
・処分庁または不作為庁が内閣府設置法第49条第1項に規定される庁の長である場合〈例、公正取引委員会、国家公安委員会〉:当該処分庁または不作為庁(第1号)
・処分庁または不作為庁が内閣府設置法第49条第2項に規定される庁の長である場合〈現在は該当する組織がない〉:当該処分庁または不作為庁(第1号)
・処分庁または不作為庁が国家行政組織法第3条第2項に規定される庁〈各省の外局として設置される庁を指す〉の長である場合:当該処分庁または不作為庁(第1号)
・宮内庁長官が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合:宮内庁長官(第2号)
・内閣府設置法第49条第1項に規定される庁の長が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合:当該庁の長(第2号)
・内閣府設置法第49条第2項に規定される庁の長が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合:当該庁の長(第2号)
・国家行政組織法第3条第2項に規定される庁の長が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合:当該庁の長(第2号)
・主任の大臣が処分庁または不作為庁の上級行政庁である場合:主任の大臣(第3号)
・上記以外の場合:当該処分庁または不作為庁の最上級行政庁〈国であれば各省大臣、地方公共団体であれば都道府県知事または市町村長である〉(第4号)
なお、同第21条第1項により、「審査請求をすべき行政庁が処分庁等と異なる場合における審査請求は、処分庁等を経由してすることができる」(同前段。後段も参照)。
また、地方自治法第255条の2第1項は、法定受託事務に係る処分および不作為についての審査請求について特例を定める。
・都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分または不作為:当該処分に係る事務を規定する法律又はこれに基づく政令を所管する各大臣(第1号)
・市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の処分または不作為:都道府県知事(第2号)
・市町村教育委員会の処分:都道府県教育委員会(第3号)
・市町村選挙管理委員会の処分:都道府県選挙管理委員会(第4号)
〔2〕再調査の請求
処分庁に対して行う(行政不服審査法第5条)。なお、不作為は再調査の請求の対象とならない。
〔3〕再審査請求
別に法律の規定がある場合に行いうるものであるため、その法律に定められた行政庁に対して行うこととなる(同第6条)。
〔4〕教示制度
(1)必要的教示
旧行政不服審査法第57条以下においても教示制度が定められていたが、現行の行政不服審査法においては第82条以下に定められている。同第82条第1項に定められるのが必要的教示であり、行政の決定通知書の末尾に、必ず、不服申立てのできること、不服申立てをすべき行政庁、不服申立期間が記載されなければならない旨が規定される。
(2)利害関係人の請求による教示
同第2項および第3項には、利害関係人の請求による教示が定められる。
(3)教示すべき場合に行政庁が教示を行わなかった場合の不服申立て
同第82条による教示を行政庁が行わなかった場合には、処分について不服がある者は当該行政庁に不服申立書を提出することができる〔同第83条第1項。この場合には、同第2項により同第19条(同第5項第1号および同第2号を除く)が準用される〕。
また、当該処分が処分庁以外の行政庁に対して審査請求をすることができる処分であるときは、処分庁が「速やかに、当該不服申立書を当該行政庁に送付しなければならない(同第83条第3項)。これにより不服申立書が送付されたときには「初めから当該行政庁に審査請求又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみな」され(同第4項)、同第83条第1項によって不服申立書が提出されたときには「初めから当該処分庁に審査請求又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみな」される(同第3項の場合を除く。同第5項)。
(4)誤った教示と救済措置
①審査請求をすることができる処分について、処分庁が誤って審査庁でない行政庁Aを審査庁として教示した場合に、行政庁Aに審査請求がなされたときには、行政庁Aは審査請求書を処分庁または審査庁となるべき行政庁に送付し、審査請求人に通知しなければならない(同第22条第1項)。また、処分庁に審査請求書が送付されたときは、これを審査庁となるべき行政庁に送付し、審査請求人に通知しなければならない(同第2項)。
②再調査の請求をすることができない処分について、処分庁が誤って再調査の請求をすることができる旨を教示した場合に「当該処分庁に再調査の請求がなされたとき」には、処分庁は、速やかに再調査の請求書または再調査の請求録取書を「審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を再調査の請求人に通知しなければならない」(同第3項)。
③再調査の請求をすることができる処分について、処分庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示しなかった場合に「再審査の請求人から申立てがあったとき」には「処分庁は、速やかに、再調査の請求書又は再調査の請求録取書及び関係書類その他の物件を審査庁となるべき行政庁に送付しなければならない。この場合において、その送付を受けた行政庁は、速やかに、その旨を再調査の請求人及び第61条において読み替えて準用する第13条第1項又は第2項の規定により当該再調査の請求に参加する者に通知しなければならない」(同第22条第4項)。
④以上の場合に該当し、審査請求書または再調査の請求書もしくは再調査の請求録取書が審査庁となるべき行政庁に送付されたときには、初めから審査庁となるべき行政庁に審査請求がなされたものとみなされる(同第5項)。
⑤処分庁が審査請求期間を教示しなかった場合には、審査請求人が他の方法で審査請求期間を知りえなかったならば、同第18条第1項ただし書きにいう「正当な理由」に該当し、法定の審査請求期間内に審査請求がなされたものとして扱う。
⑥処分庁が誤って法定の期間よりも長い期間を審査請求期間として教示した場合:その教示された期間内に審査請求がなされたならば、やはり同第18条第1項ただし書きにいう「正当な理由」に該当し、法定の審査請求期間内に審査請求がなされたものとして扱う。
5.審査請求の審理手続
〔1〕行政不服審査制度と行政事件訴訟制度との関係
処分の違法性もしくは不当性または不作為を争う場合、先に行政不服審査制度を利用し、審査庁が出す裁決に不服がある場合には行政事件訴訟制度を利用するか、行政不服審査制度を利用せずに行政事件訴訟制度を利用するかについては、原則として自由選択主義が採られている(行政事件訴訟法第8条第1項本文、同第38条第4項)。但し、個別法により、先に行政不服審査制度を利用してから行政事件訴訟制度を利用することが義務づけられることがある(不服申立前置主義)。
〔2〕審理員
現行の行政不服審査法は、審査請求の審理手続について新たに規定を置き、旧行政不服審査法よりも審理の独立性および中立性を高めている。
まず、行政不服審査法第9条第1項により、原則として、審査請求がされた行政庁、すなわち審査庁は、その審査庁に所属する職員のうちから審理員を指名し、その旨を処分庁または不作為庁および審査請求人に通知する。但し、同項各号のいずれかに該当する機関が審査庁である場合、または同第24条の規定により審査請求を却下する場合には、審理員を指名する必要がない。
次に、同第9条第2項は、審理員の指名要件を掲げる。同項は、各号に該当しない者、単純化すれば審理の対象となる処分に関与しない者が審理員となりうる旨を定める。例えば、次のような者が審理員に指名されてはならない。
・審査請求に係る処分についての決定に関与した者
・再調査の請求についての決定に関与した者
・審査請求に係る不作為に関与した者
・審査請求人本人
・同第13条第1項に掲げられる利害関係人
以上から、審理員は、審査庁から「一定の独立性」を有する。すなわち、審理員は、審査庁から相対的に独立していることとなる。
審査庁となるべき行政庁は、審理員の名簿を作成し、公にする(同第17条)。名簿の作成は努力義務であるが、公にするのは行為義務である。
審理員の権限は、同第9条第1項において「審理手続を行う権限」、すなわち審理の主宰者としての権限が定められる他、次のようなものが認められる。
・物件の提出要求(同第33条)
・参考人の陳述および鑑定の要求(同第34条)
・検証(同第35条)
・審理関係人に対する質問(同第36条)
・審理手続に関する意見の聴取(その前提の招集も含む。同第37条)
・審理手続の併合または分離(同第39条)
・審査庁に対して執行停止をすべき旨の意見書の提出(同第40条)
・審理手続の終結(同第41条)
〔3〕標準審理期間
審査庁となるべき行政庁は、審査請求が事務所に到達してから裁決まで通常要すべき標準的な期間を定め、公にする(同第16条)。標準審理期間の設定は努力義務であるが、公にするのは行為義務である。なお、標準審理期間が経過したからと言って直ちに不作為の違法や裁決の瑕疵が導かれる訳ではないことには、注意を要する。
〔4〕執行不停止の原則
審査請求の対象とされた処分の効果をどのように扱うかは、立法政策の問題であるとしても重要な課題である。行政不服審査法第25条第1項は、旧行政不服審査法を引き継ぎ、執行不停止の原則を採る。すなわち、審査請求がなされても、原則として処分の効果は維持されるのであり、処分の効果は停止しない。もっとも、常に執行不停止の原則が貫徹される訳ではなく、例外的ではあるが執行停止がなされる場合もある。
同第2項は、「処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁」が執行停止を行うことができる場合を定める。この場合の執行停止は「処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置」とされる。
同第3項は、「処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない審査庁」が執行停止を行うことができる場合を定める。この場合は「処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止」に限られる。
同第4項本文は、審査庁が執行停止を義務として行わなければならない場合として、「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認めるとき」をあげる。
同第5項は、同第4項に規定される「重大な損害」についての判断に際して、「損害の回復の困難の程度を考慮」し、「損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する」と定める。
同第6項は、処分の効力の停止を行うことができない場合を定める。
同第7項は、「執行停止の申立て」または「執行停止をすべき旨の意見書」が出された場合について定める。この場合に、執行停止をなすかなさないかについては、審査庁の裁量に委ねられる。
〔5〕弁明書の提出
同第29条第2項は、審理員が処分庁または不作為庁に対して弁明書の提出を求める旨を定める。弁明書に記載すべき事項は、同第3項に掲げられている。
〔6〕反論書等の提出
処分庁または不作為庁による弁明書に対し、審査請求人は反論書を提出できる(同第30条第1項)。また、参加人は、審査請求に係る事件に関する意見書を提出できる(同第2項)。
〔7〕口頭意見陳述
行政不服審査法は、原則として書面審理主義を採用するが、審理員は、審査請求人または参加人の申立てがあった場合には、口頭による意見陳述の機会を与えなければならない(同第31条第1項本文)。これは、審理員の職権で行うことができず、職権審理主義(例、同第33条、同第34条、同第35条)の例外でもある。
口頭意見陳述は、全ての審理関係人を招集して行う(同第2項)。また、口頭意見陳述に際しては、申立人(口頭意見陳述を申し立てた者)が、審理員の許可を得て処分庁または不作為庁に対して質問を発することができる(同第5項。質問権)。
〔8〕審査請求人または参加人による提出書類等の閲覧等(同第38条)
〔9〕審理手続の終結および審理員意見書
審理員は、必要な審理を終えたと認めるときには審理手続を終結する(同第41条第1項)。また、審理員が提出を求めた弁明書などの書類、証拠書類その他の物件が期間内に提出されなかったとき、申立人が正当な理由無く口頭意見陳述に出頭しないときには、審理手続を終結することができる(同第2項)。
審理員が審理手続を終結したときには、速やかに、審理関係人に対して審理手続を終結した旨を通知しなければならず、同第42条第1項に規定する審理員意見書および事件記録を審査庁に提出する予定時期を通知しなければならない(同第3項。予定時期の変更についても同じである)。
そして、審理員は、審理手続の終了次第、遅滞なく、審理員意見書(審査庁が行うべき裁決に関する意見書)を作成し、速やかに事件記録とともに審査庁に提出しなければならない(同第42条)。
〔10〕行政不服審査会等への諮問
審理員による審理手続とともに、行政不服審査会等への諮問も旧行政不服審査法にはなく、現行の行政不服審査法において初めて設けられた手続である。
審理手続が終結し、審理員意見書が審査庁に提出されたら、審査庁が国の行政機関である場合には原則として行政不服審査会(同第67条)に諮問しなければならず、審査庁が地方公共団体の長である場合には同第81条に規定される機関に諮問しなければならない(同第43条)。
〔11〕行政不服審査委員会等からの答申、裁決(同第44条)
〔12〕裁決の種類
行政不服審査法は、4種類の裁決を定める。
(1)却下裁決
審査請求が要件を欠き、不適法である場合になされる(同第45条第1項、同第49条第1項)。
(2)棄却裁決
審査請求が理由のないものである場合になされる(同第45条第2項、同第49条第2項)。
(3)事情裁決
処分が違法または不当であっても、取消や撤廃が公の利益に著しい障害を生じる場合に、処分が違法または不当であることを宣言しつつ、審査請求を棄却する場合になされる(同第45条第3項)。
(4)認容裁決
同第46条および同第49条第3項に定められる。
第46条に該当する場合には、次のような内容となる(同第2項)。
・処分の一部または全部を取消す。
・処分の一部または全部を変更する(できない場合もある)。
・申請に対する一定の処分を行うよう、処分庁に命ずる。
第49条に該当する場合には、次のような内容となる(同第3項)。
・不作為が違法または不当である旨を宣言する。
・当該不作為に係る処分を行うよう、不作為庁に命ずる。
6.行政不服審査会
行政不服審査法により設置される行政不服審査会は、総務省に置かれる機関(国家行政組織法第8条に基づく審査会等)であり(行政不服審査法第67条第1項)、9人の委員により組織される(同第68条第1項)。委員の任期は3年であり(再任も可能)、両議院の同意を得て総務大臣が任命する(第69条。詳細については同条各項を確認すること)。
行政不服審査会の会長については同第70条に、専門委員については同第71条に規定されている。
行政不服審査会の調査審議は、原則として3人の委員からなる合議体で行う。但し、同審査会が定める場合においては、全委員からなる合議体で調査審議を行う(同第72条)。
この他、行政不服審査会の調査権限が同第74条に、行政不服審査会における審査関係人の意見陳述の機会が同第75条に、行政不服審査会への審査関係人の主張書面等の提出が同第76条に、行政不服審査会の委員による調査手続が同第77条に、行政不服審査会への審査関係人の提出資料の閲覧請求などが同第78条に、行政不服審査会の答申の写しの送付および公表が同第79条に、それぞれ規定されている。
▲第7版における履歴:「暫定版 行政不服審査法(2)」として2020年10月20日00時00分00秒付で掲載し、修正の上、2021年2月17日に掲載。
▲第6版における履歴:2017年10月25日掲載(「第21回 行政不服審査制度―2014(平成26)年行政不服審査法の概要―」として)。
2017年12月20日修正。
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