共同通信社が配信した記事のようですが、神奈川新聞社のサイト「カナロコ」に、昨日(2018年12月6日)の20時15分付で「東京一極集中の是正へ中枢市選定 政府、年内にも80候補公表」(https://www.kanaloco.jp/article/376155)という短い記事が掲載されています。
昨日、内閣官房の「有識者会議」が「政令指定都市や中核市などから地域経済を支える拠点となる『中枢中核都市』を選び、機能強化のため財政、人材両面で支援することを柱とする報告書をまとめた」とのことです。その内容は、政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に明記されるとも書かれています。この「有識者会議」の正式な名称は記事に書かれていませんが、「まち・ひと・しごと創生本部」の中に設けられた「地域魅力想像有識者会議」であり、報告書の案も既にウェブで公表されています(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/chiikimiryoku_souzou/h30-12-06-shiryou1.pdf)。
地方創生という大看板の下に広げられている諸政策は、地方が提案し、政府が選定するという色彩を非常に濃く映し出すものですが、「中枢中核都市」もその一つでしょう。政府がおよそ80市を候補として示すようです。
「政令指定都市や中核市など」の中から「中枢中核都市」を選ぶというのですが、「中核市」と「中枢中核都市」との違いは何でしょうか。記事には書かれていませんので、報告書を見るしかありません。
そこで、ウェブに掲載されている報告書の案を見ることとします。「『地域魅力想像有識者会議』報告書(案)」となっており、欄外に行番号が付されたままというものです。
東京圏(東京都の他、神奈川県、千葉県および埼玉県。概ね南関東と言える地域です)への「一極集中」を防ぐための策ということらしいのです。報告書の案の「3.中枢中核都市の強化等まちづくり」に示されています。この部分の頭は、次のようになっています。
「人口移動の面では、東京一極集中の傾向が継続しており、近年その度合いが強まっている。転出超過数の多い地方公共団体は、政令指定都市や県庁所在市などの中枢中核都市が大半を占め、上位 63 市で全体の約5割を占めている。
都市毎に比較すると、類似の人口規模や立地条件でも、人口移動の状況は異なっており、産業構造や雇用の受け皿、周辺地域との相対的な魅力の差等、様々な要因があると考えられる。
他方、中枢中核都市は、対東京圏以外では転入超過の都市が多くなっており、このように周辺から集めた人口を地域内にとどめる都市力の向上が共通的な課題である。」
現在、政令指定都市は20あります。県庁所在市は、東京圏を除けば43市です。こうしたところで転出超過数が多いと書かれていますから、政令指定都市や中核市という制度の意味が問われかねない事態に陥っている訳です。一方で、「中枢中核都市」の多くにおいては、対東京圏以外について転入超過が進んでいると書かれていますから、二重の問題が存在していることとなります。
すなわち、対東京圏については転出超過、それ以外では転入超過です。
これは、例えば、次のような例があげられるでしょう。A県の県庁所在市であるB市は、A県の中では最も人口が多く、県内の他の市町村から転入する人口が多く、逆は少なくなっています。そのため、A県ではB市への人口集中が起こっています。他方、A県を全体として見るならば、人口は減少し、東京圏に人口が流出しています。そのため、A県のB市以外の市町村では極端な過疎が進行しています。
私が1997年4月から2004年3月まで住んでいた大分県が、まさにこの状況の中にありました。当時、大分県には58の市町村がありましたが、県庁所在地である大分市には県の人口の3分の1以上が居住していました。報告書の案で「中枢中核都市が『ミニ一極集中」となり、周辺市町村が疲弊するようなこと」と書かれている状態が続いていた訳です。これは、他の都道府県についても同様でしょう。九州を例にとれば、各県内では県庁所在市に人口が集中し、九州地方では福岡市に人口が集中する一方で、九州地方全体としては東京圏や京阪神地区に転出する人が多い、というような図式を描けるのではないでしょうか。
こうなると、「地方から東京圏への転入超過」という、長らく続いてきた傾向を改めなければならなくなります。「所得格差や有効求人倍率と高い相関を示しており、地方の所得水準や雇用を支える経済基盤の強化が必要と考えられる」というのはその通りですが、そのために、東京圏のみを悪者扱いするのでは何の解決策にもなりません。私自身、どれほど朝のラッシュ時で混雑し、多少の遅延は当たり前となっているとしても、東京での電車通勤を辞める気は起こりません。車社会の不便さを、7年間の大分県での生活で思い知ったからです。
また、現在、至る所に高速道路網の整備が進められていますし、新幹線、航空便も増えています。このような状況では、わざわざ高いコストをかけて地方に支店網を維持する必要性が、完全にとまではいかないまでも失われてきています。産業構造の転換(報告書の案でも示されています)を進めない限り、東京への一極集中は止まりませんし、むしろ地方に支店網を広げるだけ無駄なコストをかけるのみに終わります。「各都市がシティセールス等により世界と直接つながり、その強みを生かして対内直接投資を呼び込むとともに、海外の成長や需要を取り込んでいくことも求められる」というのであれば、たとえばオリンピック(冬期を除く)や国際万博を東京、大阪で開く意味は全くない訳で、むしろ、国が本気で一極集中の是正に取り組むのであれば、あくまでも一環としてですが、こうした国際的行事を他の都市で開催するようにすればよいのです(先進国首脳会談が参考となります)。
報告書の案によると、「中枢中核都市」は「東京圏以外の政令指定都市、中核市及び施行時特例市並びにその他県庁所在市及び連携中枢都市に該当する市(原則として昼夜間人口比率が概ね 1.0未満の都市を除く。)を中枢中核都市として位置付けることが適切と考えられる」とされています。理由として、「中枢中核都市には、①産業活動の発展のための環境、②広域的な事業活動、住民生活等の基盤、③国際的な投資の受入環境、④都市の集積性・自立性等の機能が備わっていることが求められる」ことがあげられています。
今、手元に詳細な資料がないのでよくわからないところもありますが、「中枢中核都市」の位置づけに既視感(déjà vu)を覚えます。古くは政令指定都市、最近では中核市や特例市についても、同じような位置づけがなされていたように思えるのです。すであるならば、「ミニ一極集中」は止まらず、再び市町村合併の大波が来そうな予感さえします。報告書の案は「中枢中核都市には、活力ある地域社会を維持するための中心・拠点として、近隣市町村を含めた圏域全体の経済、生活を支え、圏域から東京圏への人口流出を抑止する機能を発揮すること、すなわち、圏域住民が、東京圏に行かずとも就業、就学等の自己実現を果たし豊かな生活環境を享受できる、広域的な地域の核としての役割を果たすことが期待される」と述べているのですが、「中枢中核都市」の中にあるショッピングモールが「ミニ東京化」するなどというようなことで終わる可能性もあります。
何故、東京圏への一極集中が止まらないのか、という問題意識は大事です。ただ、そのためには、人々の意識を深く探る必要も出てきますし、何よりも東京圏の魅力なり長所なりを十分に分析することが必要でしょう。東京圏に人が集まるのは、人を惹きつける複数の何かがあるからです。よく「地域おこし」などに失敗した例を示した文献などを見ると、偏狭な「ムラ意識」、若年世代のアイディアを受け入れない、というような閉鎖性が指摘されています。もしかしたら、東京圏には、良くも悪くもこのような閉鎖性がない、とまでは言わなくとも稀薄であるのかもしれません(他の地域と比べれば、ということです)。
私は、時々、プライドは捨てろ、変な誇りは捨てろ、ふるさと意識は捨てろと言い、記します。そのようにしなければ、衰退した地域の再興は難しいと考えるからです。また、プライドは誇りではなく、傲慢さであり、偏狭な性格です。誇りはプラウドです。プラウドが視野を狭くすることは、よく観察されることでしょう。
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