ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第45回 行政組織法その3 公務員法

2021年10月10日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.公務員法とは

 (1)日本国憲法の下における公務員法制の一応の原則

 日本国憲法において、公務員法制は、次の三つの原則から構成されなければならない。

 ①民主的な公務員法制の原理

 ②基本的人権の尊重

 これは「第5回 行政法上の法律関係において扱った特別権力関係からの脱却を目指す。

 ③能率性および公正性の原則(科学的人事行政の原則)

 この原則があるために、政治的任用の許容性という問題がある。

 (2)公務員とは?

 「公務員」は、日本の法制度上、一義的に決められている訳ではない。

 ①憲法第15条の「公務員」

 これだけで「公務員」の範囲が明確になる訳ではない。同条は民主的な公務員法制度の原理を明らかにするが、だからと言ってすべての公務員を国民が選挙するということにはならない(通説である)。また、同条によると、公務員の勤務形態などは民間企業の勤務形態と異なるということが導き出されうることになる。憲法上の基礎が異なるということになるが、そのことから直ちに具体的な差異(とくに絶対的な差異)が導かれる訳でもない。実際には両者が近似化する傾向にあるし、昨今の経済情勢などにより、公務員法制にも徐々に変化がもたらされている。

 ②刑法の「公務員」

 刑法第7条第1項によると、国家公務員法および地方公務員法の「公務員」の他、議員、委員なども含まれる。

 なお、最三小判昭和35年3月1日刑集14巻3号209頁は、一般論ではあるが、最二小決昭和30年12月3日刑集9巻13号2597頁を参照しつつ、「法令により公務に従事する(中略)職員」について「公務に従事する職員で、その公務員に従事することが法令の根拠にもとづくものを意味し、単純に機械的、肉体的労務に従事するものはこれに含まれない」(原文を一部修正)とした。その上で、当時の郵便局の外務担当事務員の公務員性を認めている。

 また、個別の法律によって公務員とみなされる者が存在する。この場合には刑法上、公務員とみなされる(日本銀行の職員、一部の独立行政法人の職員など)。但し、国家公務員法や地方公務員法の適用を受けない。

 ③国家賠償法第1条の「公務員」

 これは、不法な行為を行った者の身分に着目するのではなく、その行為が公権力の行使であるか否かで決せられる。「第39回 国家賠償法の構造/国家賠償法第1条」を参照されたい。

 ④国家公務員法および地方公務員法の「公務員」

 これが一般的なものとも考えられるが、いくつかの点に注意すべきである。

 まず、国家公務員法第2条第1項は国家公務員を一般職と特別職に分類するが、「別段の定がなされない限り、特別職に属する職には」国家公務員法を適用しないと定める。

 同様に、地方公務員法第3条第1項は地方公務員を一般職と特別職に分類するが、第4条第2項は、地方公務員法に「特別の定がある場合を除く外、特別職に属する公務員には適用しない」と定める。

 一方、警察は都道府県の組織であり、地方公務員法における一般職に該当するはずであるが、都道府県警察の職員のうち、警視正以上の階級にある警察官は一般職の公務員であるとされ(同第56条第1項)、その他の都道府県警察の職員は地方公務員法における一般職とされる(同第2項)。

 なお、独立行政法人のうち、国の特定独立行政法人の職員の役職員は国家公務員である(このうち、役員は特別職の国家公務員である。独立行政法人通則法第51条、国家公務員法第2条第3項第17号)。

 また、地方特定独立行政法人の役職員は地方公務員である。このうち、役員は特別職の地方公務員である(地方公務員法第3条第1項・第3項第6号)。

 ⑤一般職と特別職

 国家公務員法および地方公務員法は、原則として一般職の公務員にのみ適用される。

 a.特別職に該当しないとされるものが一般職である。

 b.特別職については、裁判所法、防衛庁設置法、自衛隊法など、個別の法律に規定を置く(内閣法、国会法なども該当する。規定を見ていただきたい)。

 c.特別職については、人事院の人事行政に服しない(このことくらいしか共通点がない)。

 d.一般職と言ってもその職務内容などは雑多であるが、一律に適用するのが原則である。但し、労働基本権については差異が設けられているし、任用についても特別の扱いがなされることがある。

 (4)公務員法の法源

 国家公務員についての法令としては、国家公務員法の他、人事院規則(国家公務員法の委任立法)、国家公務員の職階制に関する法律、一般職の職員の給与に関する法律、一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律、国家公務員退職手当法などがある。また、特例法として、教育公務員特例法、外務公務員法、国営企業労働関係法などがある。

 地方公務員についての法令としては、地方公務員法の他、地方自治法、地方公務員等共済組合法、地方公務員災害補償法がある。また、地方公務員の給与や勤務時間、分限や懲戒の手続、定年、などについては条例で定められることとなっている。なお、特例法として、教育公務員特例法、地方公営企業法、地方公営企業労働関係法などがある。

 (5)公務員の人事を担当する機関

 例外も多いが、一般的に、政治的中立性の確保と科学的人事管理の観点から、次のようなシステムが採用されている。

 ①国家公務員(一般職)の場合

 a.個々の公務員の任免、服務監督などについては、各省各庁の長が行う。

 b.独立の人事行政機関として、国家公務員法第3条により、内閣の所轄の下に、補助部局として人事院を置く。

 人事院は人事官3人(任期は4年)による組織で、次のような機能を有する。

 行政的機能:給与に関する勧告(同第28条第2項)、試験の実施(同第42条)、研修計画の樹立(同第73条第1号)、兼業の承認(同第103条第3項。同第1項および第2項も参照のこと)。

 準立法的機能:人事院規則の制定(第16条)。

 準司法的機能:職員の意に反する降給などの処分に対する不服申立ての審査機関(同第90条)、株式所有の関係などに関する人事院の通知に対する異議申立ての審査機関(同第103条第6項・第7項)

 c.内閣総理大臣は、人事院の所掌に属しない部分について、人事行政機関としての地位を有する(同第18条の2。なお、補佐する機関は総務省である)。

 ②地方公務員(一般職)の場合

 a.個々の公務員の任免、服務監督などについては、知事、市町村長、議会の議長、選挙管理委員会、教育委員会など、地方公務員法第6条に列挙された機関が、地方公務員法、条例などによって行う。

 b.独立の人事行政機関として、地方公務員法第7条により、人事委員会または公平委員会を置く(地方自治法第180条の5により、執行機関の一つとされる)。

 都道府県、指定都市(同第259条の19第1項):人事委員会

 指定都市を除く人口15万人以上の市、特別区:人事委員会または公平委員会(いずれにするかは条例による)

 人口15万人未満の市、町、村:公平委員会

 人事委員会と公平委員会は、ともに人事行政機関であるが、権限に多少の違いがあり、人事委員会の権限のほうが広い(同第8条を参照)。

 

 2.公務員の勤務関係

 (1)公務員の勤務関係

 大日本帝国憲法時代には、公務員の勤務関係は特別権力関係であるとされていた。しかし、日本国憲法の下において、特別権力関係説が妥当する余地はない(仮にあったとしてもごくわずかである)と解すべきであろう。このため、現在においても特別権力関係説を維持する見解は存在しない。

 現行の公務員に関する法律は、勤務条件法定主義を採用する。これに対し、行政法学には労働契約関係説も存在する。しかし、或る種の部分社会の存在を否定できないのではないか、と思われる。

 (2)勤務関係の成立

 公務員の勤務関係の法的性質については、包括的に考えるのではなく、段階あるいは場面に応じて考察すべきであろう。まずは勤務関係の成立、すなわち、国家または地方公共団体が或る人を公務員として任用するところから検討する。

 公務員の場合は採用といわず、任用という。

 公務員の任用行為の性質については、公法上の契約説と、相手方の同意に基づく行政行為説とがある。公法上の契約説は大日本帝国憲法以来の説であるが、現在では少数に留まっている。これに対し、相手方の同意に基づく行政行為説は、相手方の同意がない限りは公務員の勤務関係が成立しないとする点においては公法上の契約説と同じであるが、勤務関係の内容について当事者間の合意による形成の自由が存在しないことから、公務員の任用行為を行政行為(特許)と捉える。

 相手方の同意に基づく行政行為説が通説である。ちなみに、現在の日本の法制度において、勤務関係の消滅については、契約ではなく、行政行為としての処分が行われることが前提である。

 なお、通説・判例は、勤務関係の成立の時期を、辞令書の交付またはこれに準ずる行為の時点とする。採用内定およびその取り消しは、採用発令の手続のための準備手続であり、事実上の行為であって、勤務関係成立の時期とは考えられていない(最一小判昭和57年5月27日民集36巻5号777頁)。

 勤務関係の成立にも要件がある。次の3点である。

 ①欠格条項に該当しないこと(国家公務員法第38条、地方公務員法第16条)。

 ②能力主義(成績主義)の原則により、受験成績や勤務成績などにより行われること(国家公務員法第33条、地方公務員法第15条・第17条第3項)。

 ③国籍については、外務公務員法を除いて明文の規定がないので争いがあるが、国家公務員であれ地方公務員であれ、政府の公定解釈によれば「公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とする」。但し、実際には法律の制定により、どのようにでもなりうる(例.国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法)。

 (3)勤務関係の変更

 勤務関係の変更として、昇任、転任、配置換え、降任が考えられる。これらはいずれも行政行為としての性格を有すると考えるべきであろう。いずれも能力主義の原則が妥当するのであるが、実際には勤務成績による場合が多い。

 また、実際に多用されているものとして、派遣がある。これは、公務員としての身分を持ちつつ、他の団体などの職に従事するというものであり、地方自治法第252条の17や災害対策基本法などに規定されている。また、国家公務員に関する国と民間企業との間の人事交流に関する法律、公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律が制定されている。

 (4)勤務関係の消滅

 勤務関係も法的関係であるから、成立、変更があれば消滅もある。一般的な消滅原因は公務員の離職であり、失職、免職、辞職などがある。

 失職とは、法律の規定により、とくに処分などを必要とせず、当然に退職となる場合のことである。欠格事由に該当する場合の他、定年、公職選挙に立候補した場合がある。

 免職とは、公務員本人の自発的な意思に基づかない退職のことであり、分限免職と懲戒免職とに分かれる。懲戒免職については、対象となる公務員に懲戒処分が到達することにより、その効力を生じる。

 辞職とは、公務員の自発的な意思に基づく退職のことである。但し、公務員の辞職願を任命権者が承認しなければ、離職の効果は生じない。

 ●最二小判昭和34年6月26日民集13巻6号846頁(Ⅱ―128)

 事案:或る村の小学校に勤務していた講師Xは、当時出されていた方針(55歳以上の教員に退職を求めるというもの)に従い、昭和29年3月31日付で退職する旨の辞職願を提出した。しかし、周囲に55歳以上で退職しない者が存在することを知り、同月26日になって退職願の撤回を申し出た。Xは3月31日以降も引き続いて勤務していたが、4月20日、教育委員会から3月31日限りでの解職を内容とする辞令の交付を受けた。そこで、Xは免職処分の取消しを求めて出訴した。仙台地方裁判所はXの請求を棄却したが、仙台高等裁判所は逆に認容したので教育委員会が上告したが、最高裁判所第二小法廷は次のように述べて教育委員会の上告を棄却した。

 判旨:「退職願の提出者に対し、免職辞令の交付があり、免職処分が提出者に対する関係で有効に成立した後においては、もはや、これを撤回する余地がない」。退職願の撤回は原則として自由である(退職願そのものが独立して法的な意義を持つ訳ではないので)。しかし、「免職辞令の交付前においても、退職願を撤回することが信義に反すると認められるような特段の事情がある場合には、その撤回は許されない」。本件については「特段の事情」が存在しない。

 

 3.公務員の権利および義務

 (1)公務員の権利

 身分保障と分限について、国家公務員法第74条・第75条、地方公務員法第27条の規定がある。いずれも、分限事由について限定列挙としている。

 分限は官職の移動を伴うが、責任追及の要素は含まれない。

 免職および降任は国家公務員法第78条、地方公務員法第28条第1項に定められた事由による。

 休職は、国家公務員法第79条、地方公務員法第28条第2項に定められた事由による。

 この他、人事院規則や条例で定めることがある(職員の意に反するとは言えないものもある)。

 分限処分は行政行為であり、不服申立て前置主義が採られている(国家公務員法第89条、地方公務員法第49条)が、任命権者には要件裁量も効果裁量も認められている。

 定年は、国家公務員法第81条の2、地方公務員法第28条の2に規定される(いずれも昭和56年に追加された)。国家公務員の場合は60歳であり、地方公務員の場合は条例で定められた年齢である。なお、定年との関係で任期つきの任用を定める特別法がいくつか存在する。

 研修は、国家公務員法第73条第1項第1号、地方公務員法第39条に定められている。いずれも、任命権者に研修の実施の義務を課する。また、特別法で特例が定められている。

 財産的な権利として、給与、退職金、退職年金、公務災害補償等がある。国家公務員法および地方公務員法に規定があるが、個別法により、具体的に定める。また、給与法定主義(国家公務員法第63条、地方公務員法第25条)が妥当しており、基本的には職務給の性格である。なお、俸給請求権の放棄は許されるか、という問題がある。これについては、公権であるから放棄は許されない、とする説もある。

 公務員の基本的人権については、問題がある。公務員も勤労者であって、労働基本権の享有主体であるはずである。そして、基本的人権の享有主体であるはずである。但し、制約が課される。

 公務員は、保障請求権、勤務条件の措置要求権(国家公務員法第86条以下、地方公務員法第46条以下)を有する。これは、公務員については労働組合法の適用がなく、団体協約締結も否定されるためである。対象は、対象は、あらゆる勤務条件(給与など)とされており、不利益な処分に関する人事院、人事委員会・公平委員会への不服申立ても認められている。

 (2)公務員の義務

 憲法第15条第2項が公務員を「全体の奉仕者」と位置づけることから、国家公務員法第96条、地方公務員法第30条にも「服務の根本基準」が示されている。

 ①服務の宣誓義務(国家公務員法第97条、地方公務員法第31条)

 これは、新たに任用された職員が行うべきものとされている。但し、宣誓を行わなかったからといって、任命行為に直ちに何らかの影響が及ぶものではない。

 ②職務専念義務(国家公務員法第101条、地方公務員法第35条)

 基本的な義務であるが、それだけに問題もある。

 ●最三小判昭和52年12月13日民集31巻7号974頁(目黒電報電話局事件)

 これは国家公務員法が適用されたものではなく、日本電信電話公社法および日本電信電話公社就業規則が適用されたものであるが、参考までに紹介しておく。事案は、目黒電話局内で勤務時間中に組合活動の一環としてベトナム戦争反対のプレートを着用していた被上告人が懲戒処分を受けた、というものである。最高裁判所は、プレート着用行為が職場の同僚に対する訴えかけという性質を有することから、身体活動の面では職務の遂行に特段の支障が生じなかったとしても、精神的活動の面では注意力のすべてが職務の遂行に向けられなかったものと理解される、などとして、電話局内の規律秩序を乱すものであると判示している。

 職務専念義務については、別に、私企業からの隔離(国家公務員法第103条、地方公務員法第38条)もあげられる。また、国家公務員の天下り規制(国家公務員法第103条第2項)も、私企業からの隔離の一つである(十分ではないが)。

 ③法令遵守義務および上司の命令に服従する義務

 国家公務員法第98条第1項、地方公務員法第32条に定められる。いずれも法治主義の実現のためであるが、上司の命令に服従する義務は、行政組織の統一的かつ効率的な運営の確保のために課されるので、両方の義務が抵触する可能性も高い。

 職務命令について、 職務に関するものであれば、服装などを含めて対象となる。また、違法な職務命令についても、その違法性が重大かつ明白なものでない限り、職員は服従義務を負うとするのが通説である。

 ④争議行為等の禁止

 現行の法制度においては、次のようになっている。

  団結権((職員団体を結成する権利)) 団体交渉権 争議権
警察職員、消防職員、自衛隊員、海上保安庁職員、警察施設職員 × × ×
国家公務員のうちの非現業職員(上記以外)
地方公共団体の非現業職員
△(団体交渉そのものは認められるが、団体協約締結権は認められない) ×
行政執行法人職員
地方公共団体の現業職員
○(団体協約締結権も含む) ×

 このような法制度について、最大判昭和28年4月8日刑集7巻4号775頁(政令201号違反事件)は、公務員が「全体の奉仕者」であり、公共の利益のために勤務することから、こうした制限は当然であるとしている(公共の福祉による制約と言えるか)。

 このような、一律的かつ全面的な制限は合憲なのであろうか。日本国憲法制定当初から現在に至るまで激しく争われている。そして、最高裁判所の判例は、二度にわたって変更されている(いずれも、憲法判例としても重要)。

 まず、最大判昭和41年10月26日刑集20巻8号901頁(全逓東京中郵事件)は、現行法による制限そのものを合憲としつつも、合憲限定解釈を採用し、争議行為であっても刑事罰の対象にならないものが存在するとしている。続いて、最大判昭和44年4月2日刑集23巻5号305頁(都教組事件)は、合憲限定解釈を明確に採用したものであり、「きわめて短時間の同盟罷業または怠業のような単純な不作為のごときは、直ちに国民全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがとは必ずしも言えない。地方公務員の具体的な行為が禁止の対象たる争議行為に該当するかどうかは、争議行為を禁止することによって保護しようとする法益と、労働基本権を尊重し保障することによって実現しようとする法益との比較較量により、両者の要請を適切に調整する見地から判断することが必要である」と述べている。また、最大判昭和44年4月2日刑集23巻5号685頁(全司法仙台事件)も合憲限定解釈を明確に採用した。

 しかし、最大判昭和48年4月25日刑集27巻4号547頁(全農林警職法事件)は、全逓東京中郵事件、都教組事件および全司法仙台事件以来の流れを覆したという意味において重要な判決であり、合憲限定解釈を否定し、再び、現行法の一律的かつ全面的な制限を完全に合憲と判断している。この判決は、公務員の地位の特殊性と職務の公共性一般を強調しており、国民全体の利益への影響を重視している。その上で、完全に合憲とされるべき理由として、勤務条件法定主義(争議行為が議会制民主主義と抵触する、という趣旨)、財政民主主義、市場の抑制力の問題、人事院の勧告などによる代償措置の存在をあげている。

 ⑤政治的行為の制約(国家公務員法第102条および人事院規則14-7、地方公務員法第36条)

 これに対する違反は懲戒処分の対象となる。また、国家公務員については刑事罰の対象となる(国家公務員法第110条第1項第19号。地方公務員法には規定がない)。最高裁判所判例は、行政の中立的運営の担保と考えているようである。例えば、「第6回 行政立法その1:行政立法の定義、法規命令」において取り上げた最大判昭和49年11月6日刑集28巻9号393頁は、禁止される政治的行為の具体的な中身について大幅に人事院規則14-7へ委任していることが問題となった国家公務員法第102条第1項を合憲と判断した。しかし、法律の授権が包括的にすぎる、白紙委任であるとして、批判も強い。

 ▲この他、政党などのために寄付金などの利益を求めたりすること、公選による候補者となること、政党などの政治的団体の役員などになることが禁じられる。

 候補者となれば、公職選挙法第90条により、当然に失職する。

 ⑥守秘義務(秘密保持の義務。国家公務員法第100条、地方公務員法第34条)

 公務員である者に課されるもので、違反する者は懲戒処分の対象となる他、刑事罰の対象ともなる。この義務は公務員の退職後にも引き続いて課されるが、懲戒処分が及ばないため、刑事罰による(国家公務員法第109条第12号、地方公務員法第60条を参照)。

 この場合の秘密とは、職務上知りえた秘密(職務との関係で知りえた秘密全般のこと)である。そして、職務上の秘密(職務に直接関係のある秘密)は、いずれにしても、単に形式的に秘密とされることではなく、実質的に、秘密として保護されるに値するものであることが求められる(最二小決昭和52年12月19日刑集31巻7号1053頁)。但し、現在は、秘密文書の取り扱いなどについて統一的な基準が定められており、所轄行政庁の秘密指定の判断が先行する。

 守秘義務については、情報公開法との関係という問題もあるが、情報公開法による情報の適法な開示がなされている限りは、守秘義務違反などによる責任は課されない。

 ⑦信用失墜行為(国家公務員法第99条、地方公務員法第33条)

 直接職務に関係する非道徳的な行為(例.収賄行為)の他、直接職務に該当しないが公務全体の信頼を損なう行為も対象となる(個別的に判断するしかないが、飲酒運転が該当するという扱いがある)。

 ⑧公務員倫理の保持

 国家公務員については国家公務員倫理法が存在する。これは、一般職の公務員を対象とする。

 第3条:職務に関する倫理原則として、情報についての差別的取り扱いの禁止、公私の区別(私的利益の追求の禁止)、贈与の受け取りなど国民の疑惑や不信を招く行為の禁止を定める。

 第5条:国家公務員倫理規程の制定について、政令に委任する。

 第6条ないし第9条:贈与等の報告(本省課長補佐級以上)、株取引等の報告(本省審議官級以上)、所得等の報告(本省審議官級以上)、報告書の保存および閲覧。

 第10条以下:人事院に設置される国家公務員倫理審査会に関する規定。

 第39条:各行政機関に倫理監督官1名ずつを置く旨の規定。

 (3)公務員の責任

 ①懲戒責任

 懲戒事由についても法定主義が採用される(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。しかし、職務命令違反も懲戒事由になる。

 懲戒の種類:正式なものとして、免職、停職、減給、戒告がある。これらについては、不利益処分として不服申立てと訴訟が認められる(但し、行政手続法の適用はない)。なお、これらの処分と刑罰を併科することは可能である。

 懲戒処分と裁量:「第9回 行政裁量論その1:裁量の種類」において扱ったおいて扱った最三小判昭和52年12月20日民集31巻7号1101頁(神戸税関事件、Ⅰ―83)を参照。

 ②弁償責任

 国家公務員については、会計法、物品管理法、予算執行職員等の責任に関する法律がある。また、会計検査院法第32条の規定を参照のこと。いずれも、出納官吏、物品管理職員、予算執行職員に適用される。

 地方公務員については、地方自治法第243条の2に、出納長など一定の職員に関する特別の規定がある。その他の職員については、民法が適用されると考えられる。

 ③刑事責任

 刑事罰(刑法に規定されている)と行政罰(公職選挙法や国家公務員法、地方公務員法などに規定されている)

 

 ▲第7版における履歴:2021年10月10日掲載。

 ▲第6版における履歴:2017年10月30日掲載(「第31回 行政組織法その3 公務員法および公物法」として。以下同じ)。

                                    2017年11月1日、第32回に繰り下げ。

            2017年12月20日修正。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第44回 行政組織法その2  ... | トップ | 第46回 行政組織法その4 ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

行政法講義ノート〔第7版〕」カテゴリの最新記事