ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

青函トンネルとJR北海道

2018年03月14日 01時53分28秒 | 社会・経済

 実質的に経営破綻状態とも言われるJR北海道の話題を、このブログでも何度か取り上げています。これまでは、同社が単独での維持を困難と判断した在来線の存廃について記してきましたが、JR北海道が抱える問題は、実のところ北海道新幹線にもあります。考えようによってはそちらのほうが問題として大きいかもしれません。

 先週のことですが、3月8日10時9分付で、朝日新聞社のサイトに「青函トンネル30年、老いと戦う」という記事が掲載されました(https://digital.asahi.com/articles/CMTW1803080100001.html)。

 昨日(3月13日)は、青函トンネル開業30周年という日でした。「もうそんなに時間が経ったのか」とも思いましたが、この青函トンネルがJR北海道の今後にとって厄介な問題になる(否、既に厄介な問題ではあるはず)とも考えられました。

 構想は古くからありましたが、1954年の青函連絡船洞爺丸沈没事故が建設のきっかけとなりました。着工は1964年、貫通は1985年です。当初から新幹線車両の走行が想定されていましたが、実際には在来線(海峡線)のために長らく使用されてきました。北海道新幹線の車両が運行され始めたのは2016年3月であり、貫通から30年以上、開業からでも28年が経過しています。

 どこまで本当かどうかわかりませんが、1980年代の大蔵省主計局には昭和三大馬鹿査定なる言葉があり、戦艦大和および武蔵(これでひとまとまり)、伊勢湾干拓とともに青函トンネルが含まれていました。当時は昭和三大馬鹿査定という表現またはその意味するところが批判されたそうですが、30年も経過してみると、少なくとも青函トンネルについて昭和三大馬鹿査定という表現は正しかったのかもしれない、と評価される方もおられるでしょう。それどころか、JR北海道にとっても、そして日本国民にとっても「負動産」のようなものとなる可能性は否定できません。

 理由は簡単です。多くの人が建設だけに関心を持ち、維持・管理に関心を持たないのです。予算には関心を持つが決算には関心を持たない、という日本の悪弊の典型とも言えます。

 何でもよいのですが、或る物を建設しなければ、維持・管理の必要もないので費用も不要です。しかし、建設してしまえば、維持・管理が必要ですから費用が必要です。下手をすれば建設費用より維持費用のほうが多くなるかもしれません。長短はあれ、ほとんどの物には寿命があります。

 青函トンネルも、残念ながらこの部類に入るかもしれません。つまり、建設してしまったばかりに、維持・管理のための莫大な費用と手間がかかる訳です。

 既に記したように、開業から30年が経過しています。貫通してからということであれば33年が経過しています。従って、着工年を考慮すれば40年、50年が経過している部分もあります。そもそも、設計は1950年代か1960年代のものでしょう(もしかしたら設計に修正された部分があるかもしれません)。

 設計の年代を脇に置くとしても、過酷な環境です。海底トンネルであるため、湧水から逃れることはできません。上記朝日新聞社記事には「岩盤から毎分20トンもの水が間断なく湧き出ており、北海道側と青森県側の複数のポンプでくみ上げている。ポンプに冷却水を送る配管約1100メートルはさびがひどくなり、全て取り換えた」と書かれています。湧水にどの程度の塩分が含まれているかは書かれていませんが、濃度によっては、塩害として配管に相当のダメージを与えることでしょう(あとは配管の材質などに左右されます)。

 上記朝日新聞社記事には「JR北や国はこれまで設備更新などに300億円のお金を投じてきた」と書かれています。記事のスペースなどの関係もあってなのか、これ以上のことは書かれていませんが、少なくとも開業から今まで300億円ということでしょう。1年平均で約1億円の費用が必要であるということになります。但し、トンネルも減価償却資産であるということを念頭に置いてください。実際には年数の経過とともに維持費用が増える、と考えるのが妥当なところです。

 しかも、2016年から北海道新幹線が運行されています。最高速度が140キロと制限されているのですが、それでもかつての海峡線よりは速いでしょう。さらに最高速度が引き上げられるかもしれませんが、いずれにしても、最高速度が上げられるほど、線路の規格は高くなります。例えばレールの規格です。新幹線のレールは1メートルあたり60キログラムというものです。在来線のレールは1メートルあたり50キログラムや40キログラムという場合が多く、それより低い物もあります。重くなればなるほど、列車の運行速度を上げることもできる訳ですが、それだけ費用もかかります。

 当たり前のことですが、速度を高めるためにはレールの品質だけを高めても意味がありません。地盤が強固である必要もあります。他に信号など、様々な施設が必要となります。ただではできません。安価に済ませることができればよいのですが、そういう訳にはいきません。高速道路も新幹線も同じようなもので、スピードを求めるには上物(自動車、鉄道車両)も下物(道路、軌条)も上質なものでなければならないのです。そうなれば、費用が高くなるに決まっています。まして、年数が経過すれば、です。トンネルであれば風圧なども考慮に入れなければなりません。

 もう一つ、現在の青函トンネルでは貨物輸送も行わなければならず、そのためには三線軌条とせざるをえません。これも厄介な問題です。新幹線の軌間は1435ミリメートルですが在来線の軌間は1067ミリメートルです。新幹線では貨物輸送を行えないので、在来線の規格を残さざるをえません。コストが高くなることは自明です。

 青函トンネルを高速度で走行するためのコスト、貨物運送をするためのコスト、そして構造物自体を維持するためのコスト。これらがJR北海道の背に負わされるのです。1988年に青函トンネルの区間には300万人程の輸送人員があったということですが、時間の経過とともに減って200万人を割り、2016年度になってようやく200万人台を回復したとのことです。今後の伸びはあまり見込めないでしょう。

 そればかりでなく、今の政策、世論などを総合すれば、JR北海道が赤字を計上している在来線の廃止を進めることはできるとしても、北海道新幹線の廃止を行うことはできないでしょう。JR北海道には、常に、自社の意思のみではどうにもならない重しが課せられていることになります。

★★★★★★★★★★

 私自身のことを振り返ってもそうですが、「あの時、こうしておけばよかった」よりも「こんなことをしなければよかった」ということのほうが多いのです。逆のことを言っていた馬鹿なCM(そういう理論を唱えた学者がいたそうです)がありましたが、「あの時、こうしておけばよかった」よりも「あの時、こんなことをしなければよかった」のほうが、後悔の度合いは高いのです。徳川家康は「及ばざるは過ぎたるに勝れり」と言ったとか言わないとか。


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