ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第29回 行政救済法とは何か/行政不服審査法

2021年02月16日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.行政救済法とは

 まずは「第2回 行政法とはいかなる法か」において記したことを再掲しておく。

 行政活動は、憲法・法律・条例に従って適切に行われなければならない。しかし、常に適法かつ正当に行われるとは限らない。違法または不当な行政活動によって国民の権利・自由が侵害されたり、侵害されるおそれが存在することもある。そこで、このような行政活動から国民の権利・利益を救済し、行政活動を統制するために作られるのが行政救済法である。

 この行政救済法は、さらに行政争訟法国家補償法とに大別される。

 行政争訟法は、主に行政上の法律関係に関する紛争を直接処理するための法である〈塩野宏『行政法Ⅱ行政救済法』〔第六版〕(2019年、有斐閣)5頁を参照〉。問題となるのは違法または不当な行政活動による権利利益の侵害であり、権利利益の侵害を受けた私人の側からすれば、直接的にこのような行政活動を争い、行政活動を取り消し、または行政活動が無効であることを確認することが目的となる。行政争訟法とされるものの代表は行政不服審査法および行政事件訴訟法であり、制度の代表は行政不服審査制度および行政事件訴訟制度であるが、この他に行政審判制度、苦情処理制度、オンブズマン制度も行政争訟法に定められるものとしてあげられる〈個別の法律や条例によって定められる〉

 これに対し、国家補償法は、適法な行政活動によって生じた損失または違法な行政活動によって生じた損害を塡補するための法である〈塩野・前掲書303頁〉。行政活動の効力を直接の対象とするのではなく、行政活動の結果として生じた損失または損害を、主に金銭による補償または賠償の形で埋め合わせることを目的とする。適法な行政活動によって生じた損失を補塡するための制度を損失補償制度というが、これについては一般的な法律が存在せず、個別の法律の定めるところによる。但し、個別の法律に規定がない場合には憲法第29条第3項を根拠として補償を求めることが可能である。一方、違法な行政活動によって生じた損害を補塡するための制度を国家賠償制度といい、一般的な法律として国家賠償法が存在する。

 

 2,行政不服審査制度の意義

 行政不服審査制度とは、行政行為など、行政庁による公権力の行使に対する不服を行政機関に対して申し立てる手続(制度)のことである。一般法として行政不服審査法が存在する。一応は私人の権利利益の正式な救済制度として位置づけられるが、行政事件訴訟制度よりは簡略化された制度である。

 行政不服審査制度は、行政事件訴訟制度と比べ、次のようなメリットがある。

 (1)行政不服審査制度は、行政事件訴訟制度よりも簡易迅速性と経済性が高い。

 (2)行政不服審査制度は、処分の適法性・違法性の問題を扱うことは勿論、処分の妥当性・不当性の問題をも扱うことが可能である。

 行政事件訴訟の場合、処分の適法性・違法性の問題だけが対象となるのであり、妥当性・不当性の問題は扱われない。従って、裁量行為を例にとると、裁判所は、裁量権の逸脱・濫用の有無を審査し、有りと認められるならば当該処分を違法と判断しうるが、無いと認められるならば、当該処分の妥当性・不当性の問題に留まるが故に適法と判断せざるをえない。

 これに対し、行政不服審査の場合は、処分の妥当性・不当性の問題も扱われることとなっているから、行政不服審査を担当する行政庁(審査庁)は不当な行政処分についても取り消すことができる。

 (3)行政不服審査制度が存在することにより、大量になされる処分について、争点を或る程度明確にし、裁判所の過重負担を避けうることである。

 (4)行政にとっても自己統制を図る機会となりうる。

 

 3.行政不服審査制度の特徴

 現行の行政不服審査制度を歴史的に概観する際に、まず取り上げられなければならないのが、1890(明治23)年に制定された訴願法である。この法律は日本国憲法施行下においても存続し続けたが、権利・利益の救済制度としては不十分であり、1962(昭和37)年、旧行政不服審査法の施行とともに廃止された。

 訴願法第1条は、訴願の対象を第1号から第6号までにおいて限定列挙していた〈同第1条は、他に法律や勅令においてとくに訴願を許すものも含めていたが、限定列挙であることに変わりはない〉。これを列挙主義という。その結果として、同法によっては事実行為および行政庁の不作為に対する不服申立てが認められていなかった。また、訴願法には教示制度も定められていなかった。

 これに対し、旧行政不服審査法は、不服申立ての対象を法令で限定しなかった。これを概括主義という(例外は同第4条)。その結果として、事実行為に対する不服申立て(同第2条第1項)および行政庁の不作為に対する不服申立ても認められた(同第2条第2項)。一方、同法は、不服申立ての種類として審査請求と異議申立てを基本に据え、審査請求中心主義を採っていた〈この他、再審査請求も規定されていた(同第3条第1項、同第8条)〉。審査請求と異議申立ての違いは、基本的には不服申立てを審理・裁断する機関の違いによるものであるが(同第3条第2項、同第5条、同第6条などを参照)、この区別が必ずしも一貫しておらず、そのこともあってかなり複雑な制度となっていた。よく、行政法学の教科書などで行政不服審査制度を簡易迅速な救済制度というように表現するが、旧行政不服審査法はそのような制度と言い難い部分も有していた。

 もっとも、訴願法と異なり、旧行政不服審査法には教示制度が定められており(同第57条)、教示すべき場合に行政庁が教示をしなかった場合の不服申立て(同第58条)、誤った教示を受けた場合の救済措置(同第19条、同第20条)も定められていた。

 1993(平成5)年に行政手続法が制定され、2004(平成16)年に行政事件訴訟法が改正されたことにより、旧行政不服審査法もこれらの法律(とくに行政事件訴訟法)に対応したものとなることが求められるようになった。そこで2008(平成20)年4月11日に行政不服審査法案が第169回国会に提出されたが、閉会中審査を繰り返した上で、結局、2009(平成21)年の第169回国会で審議未了のまま廃案となった。その後の紆余曲折を経て、2014(平成26)年の第186回国会に行政不服審査法案が提出され、可決・成立した。

 行政不服審査法も、不服申立ての対象について概括主義を採り(同第7条)、事実行為に対する不服申立ておよび行政庁の不作為に対する不服申立てを認める(事実行為について同第1条第2項および同第2条、行政庁の不作為について同第3条)。しかし、不服申立ての種類については、旧行政不服審査法と異なり、審査請求に一本化した。すなわち、行政不服審査法第2条は処分についての審査請求を定め、同第3条は行政庁の不作為についての審査請求を定める。

 一方、行政不服審査法は、審査請求への一本化に対する例外として、再調査の請求(同第5条および同第54条以下)、再審査請求(同第6条および第62条以下)を定める。

 このうち、再調査の請求は、審査請求の前段階の手続として認められるものであり、私人は再調査の請求と審査請求のいずれかを選択することができるが、再調査の請求を選択した場合には、その際調査の請求についての決定を経なければ、審査請求を行うことができない(同第5条第2項柱書本文)。

 また、再審査請求は、法律が認める場合に、審査請求の裁決に不服がある者が行うことができる。

 

 3.行政不服審査の要件

 〔1〕審査請求書の提出

 旧行政不服審査法第9条は、原則として書面の提出によって審査請求を行う旨を定めていた。書面主義を採用していた訳である。また、同第17条は、処分庁を経由して審査請求を行うことができる旨を定めていた。

 行政不服審査法も書面主義を引き継いだ。すなわち、審査請求は、原則として審査請求書の提出による(同第19条第1項)。

 審査請求書に記載しなければならない事項は、審査請求の内容により異なる。

 まず、処分についての審査請求書については、次の事項を記すこととされている。

 ・審査請求人の氏名または名称、および住所または居所(同第2項第1号)。

 ・審査請求に係る処分の内容(同第2号)。

 ・審査請求に係る処分があったことを知った年月日。当該処分についての再調査の請求に対する決定を経たときには、当該決定があったことを知った年月日(同第3号)。

 ・審査請求の趣旨および理由(同第4号)。

 ・処分庁の教示の有無。教示があった場合には、その教示の内容(同第5号)。

 ・審査請求の年月日(同第6号)。

 ・同第5条第2項第1号に該当する場合で再調査の請求に対する決定を経ないで審査請求をするときには、再調査の請求をした年月日(同第19条第5項第1号)。

 ・同第5条第2項第2号に該当する場合で再調査の請求についての決定を経ないで審査請求をするときには、当該決定を経ないことについての正当な理由(同第19条第5項第2号)。

 ・審査請求期間を経過した後に審査請求をする場合には、同第18条第1項ただし書きまたは第2項但し書きに規定する正当な理由(同第19条第5項第3号)。

行政庁の不作為についての審査請求書については、同第3項により、次の事項を記すこととされている。

 ・審査請求人の氏名または名称、および住所または居所(同第1号)。

 ・行政庁の不作為に係る処分についての申請の内容、および当該申請を行った年月日(同第2号)。

 ・審査請求の年月日(同第3号)。

 審査請求人が法人である場合には、同第19条第2項各号または第3項各号に掲げられる事項の他に、法人の代表者の氏名および住所または居所を記載しなければならない。権利能力なき社団または財団である場合、総代を互選した場合、代理人により審査請求をする場合についても「その代表者若しくは管理人、総代又は代理人の氏名及び住所又は居所を記載しなければならない」(同第4項)。

 また、同条に違反する審査請求書については、審査庁が「相当の期間」を定めた上で審査請求人に補正を命ずる(同第23条)。この期間内に補正が行われなければ、審査庁は却下裁決を下すことができる(同第24条第1項)。

 旧行政不服審査法時代に、提出された書類が不服申立ての申し出なのか陳情書なのかについて問題となることがあった。行政不服審査法においても同様の問題が生ずる可能性もあろう。これについては、次に示す訴願法時代の判決が参考になる。

 ●最二小判昭和32年12月25日民集11巻14号2466頁

 事案:鳥取市内で大火災が発生した後、鳥取県知事が都市計画法施行令第17条(当時)に基づいて土地区画整理施行規程を告示し、土地所有者や関係人の縦覧に供したところ、施行区域内の土地所有者から「都市計画法に基く区画整理異議申立書」が提出された。鳥取県火災復興事務所長は、この文書が同条に基づく異議の申出なのか陳情書なのかについて疑問を抱き、鳥取市長に真意を確認させたところ、提出者は陳情書であると回答した。そこで、Y(鳥取県知事)は、異議申立てがなされていないと判断して都市計画審議会の議決に付さず、施行規程などを認可し、換地予定地指定処分を行った。この処分を受けたXらが手続上の重大な瑕疵を主張し、処分の無効確認を求めた。一審判決(鳥取地判昭和28年5月14日民集11巻14号2466頁)はXの請求を認容したが、二審判決(広島高松江支判昭和29年7月14日行集5巻7号1697頁)はYの控訴を容れてXの請求を棄却したので、Xが上告した。最高裁判所第二小法廷はXの上告を棄却した。

 判旨:「都市計画法施行令17条による異議の申立であるか若くは単なる陳情であるかは、本件の経緯に照すも、当事者の意思解釈の問題に帰するのであつて、施行規程を改めなければ出来ないような事項を含むからと言つて、直ちにこれを施行令17条による異議申立と解すべき理由はない」。

 〔2〕口頭による審査請求ができる場合

 行政不服審査法第19条第1項は、書面主義の原則に対する例外として、法律または条例に特別の規定がある場合には審査請求を口頭で行うことができる旨を定める〈旧行政不服審査法においても同様であった〉

 この場合には、審査請求人が同第2項から同第5項までに規定する事項を陳述し、その「陳述を受けた行政庁」が内容を録取し、審査請求人に読み聞かせて誤りの無いことを確認した上で押印させなければならない(同第20条)。

 〔3〕審査請求の対象としての「処分」

 旧行政不服審査法第2条第1項は、「この法律にいう『処分』には、各本条に特別の定めがある場合を除くほか、公権力の行使に当たる事実上の行為で、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの(以下「事実行為」という。)が含まれるものとする」と定めていた。

 一方、行政不服審査法第1条第1項は「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする」と定め、同第2項は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる」と定める。

 旧法と現行法とで表現は異なり、しかも旧法の規定がややわかりにくい表現を採っているが、いずれも「処分」を審査請求の対象としていることを表しており、その「処分」の意味するところも同じである〈さらに行政手続法第2条第2号、行政事件訴訟法第3条第2項を参照。行政不服審査法第1条第2項の表現は行政手続法第2条第2号と同じである〉。従って、次のようなものが「処分」である。

 a.行政庁が法令に基づき、公権力を行使して(すなわち優越的立場で)、国民・住民に対して、個別的・具体的に法律上の効果を発生させる行為。これは行政行為であり、「処分」の中心となるべき存在である。

 b.公権力の行使にあたる事実行為であり、かつ「人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの」。このようなものは行政行為ではないが、公権力の行使にあたり、しかも名宛人に対する事実上の効果または影響が行政行為と類似するために「処分」に含めている。

 しかし、具体的な「処分」の意味について、行政事件訴訟法第3条第1項と同様の解釈問題が存在する。詳細は「第32回 取消訴訟の対象 処分性の問題」において検討することとする。

 なお、対象としうる「処分」の範囲は、行政不服審査法と行政事件訴訟法で少々異なる。このことにも注意を要する。

 ここで、改めて行政不服審査法第1条第1項をお読みいただきたい。そこには「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」と書かれている。これは、審査請求人が違法と考える「処分」はもとより、違法ではないが不当と考える「処分」についても、審査請求の対象となりうることを示している。従って、裁量行為についても幅広く審査請求の対象としうることとなる〈旧行政不服審査法においても同様であった〉

 これに対し、行政事件訴訟法は、違法な「処分」のみを抗告訴訟の対象とするのであり、不当な「処分」を対象としない。同第30条が「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる」と定めているのがその表れであるが、裁判所の権能を考えれば当然のことでもある。すなわち、裁判所は行政庁の行為または活動が適法か違法かを判断する機関なのであり、妥当か不当を判断する機関ではない。従って、裁判所が当該行為を適法と判断するならば、たとえ妥当性を欠いているとしても適法であることに変わりはないから、当該行為を取り消すことはできないのである。

 行政法学の教科書などにおいて、裁量行為には裁判所の審査権が及ばないと書かれていることが多いが、これは不正確な表現である。裁判所は、行政庁に裁量が認められることを是認しつつ、裁量の行使に逸脱または濫用があるか否かを判断することができるからである。行政庁による裁量の行使に逸脱も濫用もなければ適法なのであるから、そこで裁判所の判断が終わるということである。

 〔4〕審査請求の対象としての「不作為」

 ここにいう「不作為」とは、行政不服審査法第3条により「法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいう」と定義されている〈旧行政不服審査法も行政庁の「不作為」を審査請求および異議申立ての対象としていた〉。「法令」は法律や命令はもとより、条例なども含む。また、「申請」は行政手続法第2条第3号において定義される「申請」と同義である。

 〔5〕審査請求期間

 (1)処分について

 行政不服審査法第18条は、審査請求期間、すなわち処分がなされてから審査請求をなしうる期間を次のように規定する。

 ①主観的審査請求期間については、原則として「処分があったことを知った日の翌日から起算して」3か月以内とされる。また、先に再調査の請求を行った場合については「再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌月から起算して」1か月以内とされる(同第1項本文)。

 旧行政不服審査法第14条第1項は審査請求の期間を、同第45条は異議申立ての期間を、いずれも原則として「処分のあつたことを知つた日の翌日から起算して60日以内」と定めていた。

 ここで「処分があったことを知った日」とは、例えば、処分が名宛人に対して個別に通知される場合は、処分があったことを名宛人が現実に知った日(通知書が名宛人の住居に到着した日、など)のことである。但し、次の判例に注意されたい。

 ●最一小判平成14年10月24日民集56巻8号1903頁(Ⅱ―131)

 事案:群馬県知事は、都市計画法第59条第1項に基づいて、平成8年9月5日に前橋都市計画道路事業3・4・26号県道の認可をし、同月13日に同第62条第1項に基づいてその告示をした。被上告人(原告)は、同年12月2日、建設大臣(当時)に対して県知事の認可の取消しを求める審査請求をしたが、建設大臣は、旧行政不服審査法第14条第1項に定められた審査請求期間はこの認可の告示の日の翌日から起算すると解し、この期間の徒過を理由として審査請求を却下する裁決をした。そこで被上告人が裁決の取消しを求めて出訴した。一審判決(東京地判平成11年8月27日民集56巻8号1936頁は被上告人の請求を棄却したが、二審判決(東京高判平成12年3月23日判時1718号27頁)は「処分があつたことを知つた日」とは現実に知った日を意味するなどとして東京地裁判決を取り消し、建設大臣の裁決を取り消した。建設大臣が上告し、最高裁判所第一小法廷は東京高裁判決を取り消し、被上告人の請求を棄却した。

 判旨:旧行政不服審査法第14条第1項本文にいう「処分があつたことを知つた日」とは「処分がその名あて人に個別に通知される場合には、その者が処分のあったことを現実に知った日のことをいい、その者が処分のあったことを知り得たというだけでは足りない」が、「都市計画法における都市計画事業の認可のように、処分が個別の通知ではなく告示をもって多数の関係権利者等に画一的に告知される場合には、そのような告知方法が採られている趣旨にかんがみて、上記の『処分があつたことを知つた日』というのは、告示があった日をいうと解するのが相当である」。

 ②客観的審査請求期間については、原則として、処分があった日の翌日から起算して1年以内とされる。また、先に再調査の請求を行った場合については、当該再調査の請求についての決定があった日の翌日から起算して1年以内とされる(行政不服審査法第18条第2項本文)。公示送達の場合など、限られた場合にしか適用されない。

 ③主観的審査請求期間、客観的審査請求期間のいずれについても「正当な理由があるとき」には、上記の期間を超えていても審査請求が認められる(同第1項ただし書き、同第2項ただし書き)。

 (2)不作為について

 不作為が続く間であれば、審査請求を行うことが可能である。但し、「申請から相当の期間が経過しないでされた」審査請求であれば、審査庁は却下裁決を下す(同第49条第1項)。この「相当の期間」については、結局のところ個別具体的な検討を待つしかないが、行政庁が標準処理期間を定め、公にしている場合(行政手続法第6条)には、その標準処理期間が参考となる。

 (3)再調査の請求

 行政不服審査法第54条により、原則として、主観的請求期間は「処分があったことを知った日の翌日から起算して」3か月(同第1項)、客観的請求期間は「処分があった日の翌日から起算して」1年(同第2項)とされる。

 (4)再審査請求

 同第62条により、原則として、主観的請求期間は「原裁決があったことを知った日の翌日から起算して」1か月(同第1項)、客観的請求期間は「原裁決があった日の翌日から起算して」1年(同第2項)とされる。

 〔6〕審査請求適格を有する者(不服申立適格を有する者)

 (1)旧行政不服審査法

 旧行政不服審査法第4条は、違法または不当な処分により、直接に自己の権利利益を侵害された者は、不服申立て人となる資格を有すること、また、「直接に自己の権利利益を侵害された」とは言えなくとも 「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある者」も不服申立て人となる資格を有することを定めていた。しかし、実際にいかなる場合が「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある」場合であるかは、必ずしも明確なものではない。そのため、行政事件訴訟法第9条に定められる原告適格と同様に、誰が不服申立てをなすことができるのか、言い換えれば不服申立適格を有する者の範囲という問題があった。

 ●最三小判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁(主婦連ジュース訴訟、Ⅱ―132)

 事案:公正取引委員会は、社団法人日本果汁協会などの申請に基づき、果汁飲料等の表示に関する公正競争規約を認定した。これに対し、主婦連などは、この認定が不当景品類及び不当表示防止法第10条第2項第1号ないし第3号の要件に適合せず不当であるとして、公正取引委員会に不服申立てをした。公正取引委員会は、主婦連などに不服申立て適格がないとして却下審決を出した。そこでこの審決の取消しを求める訴訟が提起されたが、一審判決(東京高判昭和49年7月19日行集25巻7号881頁)は請求を棄却し、最高裁判所第三小法廷も上告を棄却した。

 判旨:不当景品類及び不当表示防止法第10条第6項にいう「公正取引委員会の処分について不服があるもの」とは、一般の「処分」についての不服申立ての場合と同様に「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある者」をいう。そして、「法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であって、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定のものが受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである」。不当景品類及び不当表示防止法の目的は公益の保護であって、一般消費者の受ける利益は「反射的な利益ないし事実上の利益」にすぎ」ない。

 ●最一小判昭和56年5月14日民集35巻4号717頁(Ⅱ―134)

 事案:某市議会議員のXは、同市議会議員のAが当選後の4ヶ月間に同市の廃棄物収集業務を請け負う会社の取締役の地位にあり、地方自治法第92条の2に違反するとして、同第127条第1項によるAの議員資格の有無に関する決定を求めた。市議会はAが議員資格を有するという決定をしたので、Xは知事Yに審査の申立てをしたが、Yは却下裁決を出した。そこで、Xは却下裁決の取消を求めて出訴した。一審判決(長崎地判昭和55年3月31日判時971号46頁)および二審判決(福岡高判昭和55年7月17日民集35巻4号734頁)は請求を認容したが、最高裁判所第二小法廷は二審判決を破棄し、Xの請求を棄却した。

 判旨:地方自治法第127条第1項による決定は「特定の議員について右条項の掲げる失職事由が存在するかどうかを判定する行為で、積極的な判定がされた場合には当該議員につき議員の職の喪失という法律上の不利益を生ぜしめる点において一般に個人の権利を制限し又はこれに義務を課する行政処分と同視せられるべきものであって、議会の選挙における投票の効力に関する決定とは著しくその性格を異に」する。そのため、「不服申立をすることができる者の範囲は、一般の行政処分の場合と同様にその適否を争う個人的な法律上の利益を有する者に限定されることを当然に予定し」ており、その決定によって職を失うことになる当該議員に対して不服申立ての権利を与えたものにすぎない。

 (2)現行の行政不服審査法

 行政不服審査法第2条は「行政庁の処分に不服がある者は、第4条及び第5条第2項の定めるところにより、審査請求をすることができる」と定める。旧行政不服審査法第4条と異なって「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある者」という文言はないが、行政不服審査法第2条は旧行政不服審査法第4条の趣旨を否定したものではないとされている。従って、不服申立適格の問題は審査請求適格の問題として残ることとなった。

 その際に注意しなければならないのが、行政事件訴訟法第9条第2項の存在である。審査請求適格の判断についても、同項が参照されなければならないのである。すなわち、審査請求適格については、次の事項について考慮をしなければならない。

 ・処分の根拠規定の文言

 ・法令の趣旨・目的(当該法令はもとより、関係法令についても参酌しなければならない)

 ・当該処分により侵害される利益の内容・性質、侵害の態様や程度

 

 ▲第7版における履歴:「暫定版 行政救済法 行政争訟法と国家補償法」(2020年10月18日11時25分00秒付)と「暫定版 行政不服審査法(1)」(2020年10月19日00時00分00秒付)を2021年2月16日に統合し、補充の上で掲載。

 ▲第6版における履歴:2017年10月25日掲載(「第21回 行政不服審査制度―2014(平成26)年行政不服審査法の概要―」として)。但し、「1.行政救済法とは」の部分は第6版に該当記事がない。

            2017年12月20日修正。


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