【10月26日の記事の後半部分が欠落していたので、改めてアップしました】
10月12日の『清水女流王将×あから2010戦に思う』
10月21日の『清水女流王将×あから2010戦に思う その2』の続きです。
ここまで、
①清水女流王将の地位と棋力
②「完敗」ではない
③今回の対局の横に見えるもの
について述べました。
今回は
④対局の公平性とソフトの妥当性を考えます。
この対局の棋譜が女流棋士ファンクラブ 駒桜で一般公開されたようです。
(直接、そのページにリンクを張るのはどうかと思ったので、『駒桜』のトップページの『あから2010 VS 清水市代女流王将』をクリックし、さらに『棋譜中継』をクリックすると棋譜(解説)が見られます)
このトップページのバナーですが、『あから2010 VS 清水市代女流王将』の「あから2010」の横に「コンピュータ側代表」、清水市代女流王将の横に「人間側代表」とあります。
この表現が不適当と感じました。まず「コンピュータ側」「人間側」の「側」と言う表現に俗っぽいイメージがあります。なにか少年が使う「良いもん(正義)」「悪いもん(悪者)」を連想しました。
それに、「コンピュータ代表」「人間代表」ではいけないのか?人間とコンピュータの中間的存在があるのなら「側」をつける意味もあるのですが、そんな中間存在、ないですよね。
さらに「コンピュータ(側)代表」と言うと、「ハード」の代表、つまり、NASAのコンピュータ、東京大学のコンピュータとか、○○社製のコンピュータというような捉え方になるような気がします。
「人間(側)代表」というのも、「全人類の代表を勝手に選ぶなよ」と思いました。「人間(側)代表対コンピュータ(側)代表」と言った方が衆目を集められると言う意図はわかりますが、それなら「人間対コンピュータ」でいいでしょう。「代表」という言葉を使うのなら「将棋連盟代表」で良いです。しかし、それだと①で述べた誤認を生むので、「女流棋士代表」とすべきですね。
と、本題に入る前に、思わぬところで長くなってしまいました。いつもの「揚げ足取り」です。では本題に入ります。
Ⅰ SPEC面での公平性
コンピュータではなく、機械と人間を考えた場合、かなり昔から人間を超える機械は存在しています。自動車はもちろん飛行機に至っては空を飛びますし、重機類は人間の何人分に相当するのか想像もつきません。
馬力だけでなく、精密さにおいても人間を凌駕するものはたくさん存在します。もちろん、機械を寄せ付けない名人芸、職人芸もありますが。
飛行物体の軌道計算など人間は遠く及びません。(フラッシュ暗算という暗算の達人は、ものすごいもと思います)
あとは、人間の滑らかな動きや臨機応変な動きをロボットが越えられるかです。すでに走ったり簡単なダンスを踊るという動きはできるようです(人類より速く走るようになる火は近いかもしれません。人間対ロボットの100m競走のイベントもなされるかもしれませんね)。しかし、人間的な動きで坂道や階段や崖を上ったりはまだ難しいようです。
さて、今回の対局相手のコンピュータは、
-東京大学クラスターマシン:
Intel Xeon 2.80GHz, 4 cores 109台
Intel Xeon 2.40GHz, 4 cores 60台
合計 169台 676 cores
-バックアップマシン:4プログラムそれぞれについて1台ずつ
-CPU: Xeon W3680 3.33GHz 6cores
-Memory: 24GB (DDR3 UMB ECC 4GBx6)
だそうです。
詳しいことはわかりませんが、計算力は1台のノートパソコンでも遠く及ばないのに、これだけのマシンを総動員するのはフェアじゃないです。自転車対ロケット以上の差があるような気がします。
「コンピュータは回路が集積したもの」と定義すれば、何台繋げても1つの集合体としてのコンピュータと考えられますが、やはりフェアじゃないです。
『人間対ロボット』と考え、使用するマシンはノートパソコン、あるいは清水女流王将の体重以下の重量マシンと限定すべきでしょう。
Ⅱ 合議アルゴリズム(多数決合議法)はフェアか(妥当か)?
「あから2010」の合議アルゴリズム(以下合議法)は、「激指」「GPS将棋」「Bonanza」「YSS」の4ソフトの多数決で指し手が決定され、票が同数の場合はリーダーの「檄指」の候補手が優先されるというシステム。実際は、票が割れた場合や相手の指し手が予測と違う場合は慎重に再検討するそうで、多数決と言うとおおざっぱにおもえますが、かなり慎重派です。票の割り振りも「檄指」29票「檄指しクラスタ」1票」「GPS将棋」10票」「GPS将棋クラスタ」10票」「Bonanza」19票」「Bonanzaクラスタ」1票「YSS」19票「YSSクラスタ」1票というものらしいです。
それはともかく、これでは4つのソフトの合議ですから、連合軍と言って良いでしょう。もちろん、1×4=4というような単純なものではないでしょう。人数が多いほど有利な陸上競技のリレーにしろ綱引きにしろ息が合わないと、その利点が充分に発揮されません。
その意味で、4つのプログラムを統括することは非常に難しいと考えられますが、それは、将棋のプログラムと言うよりは、システム管理プログラムの分野だと思います。
【以下は、消えてしまった文章を思い出しながら書いているので、文面はもちろん、文意も微妙に前回とは違っているかもしれません】
4つのソフトが合議して手を決めるのは、統合する難しさはあるとはいえ、直感的には「1対4」の感があります。私には、合議法は一つのプログラムには思えません。
では人間も同じように合議するほうがフェアのような気がしますが、それはソフト以上に難しいように思います。棋士のプライドもあるでしょうし。
実際、羽生+森内を考えた場合、単独で指したほうが強い気がします。逆に羽生+渡辺ならある程度補完しあう面もあると思います。が、それでも、なかなか、効率よく強さを発揮するのは難しいと思います。
横道にそれますが、将棋連盟が総力を挙げるとしたら、攻撃担当を佐藤九段、藤井九段(ガジガジ攻め)、守備担当を森内九段、木村八段、寄せ担当を谷川九段、詰み担当を宮田五段、戦力担当を渡辺竜王、捌き担当を久保二冠、穴熊戦担当を広瀬王位、総合判断(着手決定)を羽生名人なんていうのはどうでしょう。
合議法は、4つのプログラムが足を引っ張り合う可能性、統合するシステム的な負荷がありますが、一番の利点は悪手が減ることで、相対的には棋力がアップするもよう。悪手が減ることは、序中盤でリードしなければならない清水女流にとって大変そうです。(詰みの有無など、読みの範囲が限られる終盤においては、合議法のデメリットは生じない)
とにかく、悪手を指そうとしたソフトを他のソフトが止める、そんな情景が浮かんでしまい、合議法はフェアじゃないと思うのです。
Ⅲ 事前研究は清水女流にとって不利
対戦相手を研究するのは、勝負に勝つ有効な手段なので否定するものではありません。
しかし、今回の場合、事前研究においては(も)、清水女流にとって不利だといえます。
清水女流は長年女流のトップに君臨し、その実戦棋譜はかなりの量です。しかし、コンピュータにとってはその量は膨大とは言えず、却って、解析するのに十分なデータ量といえます。もちろん、コンピュータ自身がそれを解析することは現段階ではできないと思われます。しかし、プログラミング側に優秀な参謀がいれば、清水女流の指し手の傾向や苦手な戦型や指し手をプログラミングに組み込むことは可能でしょう。ただ、組み込んだ結果、棋力が落ちる可能性もあります。
清水女流も「あから2010」を研究することは可能です。ただ、清水女流の棋力や棋風はそう変化するものではないのに対して、「あから2010」は1、2週間で大きく変化・進化する可能性はあります。また、合議法によって、棋風を捕らえにくくなっていると考えられます。
次回は、一般公開された棋譜・解説を読んでの感想を述べたいと思います。
……そう思いましたが、4手目(後手にとっては2手目)の△3三角についての解説を見て、これだけは先に述べておきたいと思ったことがあります。
この4手目△3三角は最近確立されつつある戦法ですが、どちらかと言えば奇策です。ありえる手ですが、正道な指し手ではないように思います。将棋の強さを追求する将棋ソフトが指すような手ではないと考えられます。
しかし、実戦で採用した。それについて、解説文では
「どうやら、あから2010は4手目△3三角を仕込んできたみたいですよ。角交換振り飛車。清水女流王将が最新型の振り飛車対策を苦手としていると踏んだようです」(勝又清和六段)
実際、「あから2010」の合議サーバログを見ると、「激指」「GPS将棋」「Bonanza」は△3三角以外の手を推奨し、△3三角を推していたのは「YSS」だけでした。それでも、△3三角と指したのは「YSS」による3三角定跡指定によるものみたいです。
確か、挑戦状には、
修行に継ぐ修行 研鑚に継ぐ研鑚を行い
漸くにして名人に伍する力ありと
情報処理学会が認める迄に強い
コンピューター将棋を完成致しました
と書いてあったはず。
名人を目指すモノが、4手目(2手目)から変化球ですか?
アンフェアです。
10月12日の『清水女流王将×あから2010戦に思う』
10月21日の『清水女流王将×あから2010戦に思う その2』の続きです。
ここまで、
①清水女流王将の地位と棋力
②「完敗」ではない
③今回の対局の横に見えるもの
について述べました。
今回は
④対局の公平性とソフトの妥当性を考えます。
この対局の棋譜が女流棋士ファンクラブ 駒桜で一般公開されたようです。
(直接、そのページにリンクを張るのはどうかと思ったので、『駒桜』のトップページの『あから2010 VS 清水市代女流王将』をクリックし、さらに『棋譜中継』をクリックすると棋譜(解説)が見られます)
このトップページのバナーですが、『あから2010 VS 清水市代女流王将』の「あから2010」の横に「コンピュータ側代表」、清水市代女流王将の横に「人間側代表」とあります。
この表現が不適当と感じました。まず「コンピュータ側」「人間側」の「側」と言う表現に俗っぽいイメージがあります。なにか少年が使う「良いもん(正義)」「悪いもん(悪者)」を連想しました。
それに、「コンピュータ代表」「人間代表」ではいけないのか?人間とコンピュータの中間的存在があるのなら「側」をつける意味もあるのですが、そんな中間存在、ないですよね。
さらに「コンピュータ(側)代表」と言うと、「ハード」の代表、つまり、NASAのコンピュータ、東京大学のコンピュータとか、○○社製のコンピュータというような捉え方になるような気がします。
「人間(側)代表」というのも、「全人類の代表を勝手に選ぶなよ」と思いました。「人間(側)代表対コンピュータ(側)代表」と言った方が衆目を集められると言う意図はわかりますが、それなら「人間対コンピュータ」でいいでしょう。「代表」という言葉を使うのなら「将棋連盟代表」で良いです。しかし、それだと①で述べた誤認を生むので、「女流棋士代表」とすべきですね。
と、本題に入る前に、思わぬところで長くなってしまいました。いつもの「揚げ足取り」です。では本題に入ります。
Ⅰ SPEC面での公平性
コンピュータではなく、機械と人間を考えた場合、かなり昔から人間を超える機械は存在しています。自動車はもちろん飛行機に至っては空を飛びますし、重機類は人間の何人分に相当するのか想像もつきません。
馬力だけでなく、精密さにおいても人間を凌駕するものはたくさん存在します。もちろん、機械を寄せ付けない名人芸、職人芸もありますが。
飛行物体の軌道計算など人間は遠く及びません。(フラッシュ暗算という暗算の達人は、ものすごいもと思います)
あとは、人間の滑らかな動きや臨機応変な動きをロボットが越えられるかです。すでに走ったり簡単なダンスを踊るという動きはできるようです(人類より速く走るようになる火は近いかもしれません。人間対ロボットの100m競走のイベントもなされるかもしれませんね)。しかし、人間的な動きで坂道や階段や崖を上ったりはまだ難しいようです。
さて、今回の対局相手のコンピュータは、
-東京大学クラスターマシン:
Intel Xeon 2.80GHz, 4 cores 109台
Intel Xeon 2.40GHz, 4 cores 60台
合計 169台 676 cores
-バックアップマシン:4プログラムそれぞれについて1台ずつ
-CPU: Xeon W3680 3.33GHz 6cores
-Memory: 24GB (DDR3 UMB ECC 4GBx6)
だそうです。
詳しいことはわかりませんが、計算力は1台のノートパソコンでも遠く及ばないのに、これだけのマシンを総動員するのはフェアじゃないです。自転車対ロケット以上の差があるような気がします。
「コンピュータは回路が集積したもの」と定義すれば、何台繋げても1つの集合体としてのコンピュータと考えられますが、やはりフェアじゃないです。
『人間対ロボット』と考え、使用するマシンはノートパソコン、あるいは清水女流王将の体重以下の重量マシンと限定すべきでしょう。
Ⅱ 合議アルゴリズム(多数決合議法)はフェアか(妥当か)?
「あから2010」の合議アルゴリズム(以下合議法)は、「激指」「GPS将棋」「Bonanza」「YSS」の4ソフトの多数決で指し手が決定され、票が同数の場合はリーダーの「檄指」の候補手が優先されるというシステム。実際は、票が割れた場合や相手の指し手が予測と違う場合は慎重に再検討するそうで、多数決と言うとおおざっぱにおもえますが、かなり慎重派です。票の割り振りも「檄指」29票「檄指しクラスタ」1票」「GPS将棋」10票」「GPS将棋クラスタ」10票」「Bonanza」19票」「Bonanzaクラスタ」1票「YSS」19票「YSSクラスタ」1票というものらしいです。
それはともかく、これでは4つのソフトの合議ですから、連合軍と言って良いでしょう。もちろん、1×4=4というような単純なものではないでしょう。人数が多いほど有利な陸上競技のリレーにしろ綱引きにしろ息が合わないと、その利点が充分に発揮されません。
その意味で、4つのプログラムを統括することは非常に難しいと考えられますが、それは、将棋のプログラムと言うよりは、システム管理プログラムの分野だと思います。
【以下は、消えてしまった文章を思い出しながら書いているので、文面はもちろん、文意も微妙に前回とは違っているかもしれません】
4つのソフトが合議して手を決めるのは、統合する難しさはあるとはいえ、直感的には「1対4」の感があります。私には、合議法は一つのプログラムには思えません。
では人間も同じように合議するほうがフェアのような気がしますが、それはソフト以上に難しいように思います。棋士のプライドもあるでしょうし。
実際、羽生+森内を考えた場合、単独で指したほうが強い気がします。逆に羽生+渡辺ならある程度補完しあう面もあると思います。が、それでも、なかなか、効率よく強さを発揮するのは難しいと思います。
横道にそれますが、将棋連盟が総力を挙げるとしたら、攻撃担当を佐藤九段、藤井九段(ガジガジ攻め)、守備担当を森内九段、木村八段、寄せ担当を谷川九段、詰み担当を宮田五段、戦力担当を渡辺竜王、捌き担当を久保二冠、穴熊戦担当を広瀬王位、総合判断(着手決定)を羽生名人なんていうのはどうでしょう。
合議法は、4つのプログラムが足を引っ張り合う可能性、統合するシステム的な負荷がありますが、一番の利点は悪手が減ることで、相対的には棋力がアップするもよう。悪手が減ることは、序中盤でリードしなければならない清水女流にとって大変そうです。(詰みの有無など、読みの範囲が限られる終盤においては、合議法のデメリットは生じない)
とにかく、悪手を指そうとしたソフトを他のソフトが止める、そんな情景が浮かんでしまい、合議法はフェアじゃないと思うのです。
Ⅲ 事前研究は清水女流にとって不利
対戦相手を研究するのは、勝負に勝つ有効な手段なので否定するものではありません。
しかし、今回の場合、事前研究においては(も)、清水女流にとって不利だといえます。
清水女流は長年女流のトップに君臨し、その実戦棋譜はかなりの量です。しかし、コンピュータにとってはその量は膨大とは言えず、却って、解析するのに十分なデータ量といえます。もちろん、コンピュータ自身がそれを解析することは現段階ではできないと思われます。しかし、プログラミング側に優秀な参謀がいれば、清水女流の指し手の傾向や苦手な戦型や指し手をプログラミングに組み込むことは可能でしょう。ただ、組み込んだ結果、棋力が落ちる可能性もあります。
清水女流も「あから2010」を研究することは可能です。ただ、清水女流の棋力や棋風はそう変化するものではないのに対して、「あから2010」は1、2週間で大きく変化・進化する可能性はあります。また、合議法によって、棋風を捕らえにくくなっていると考えられます。
次回は、一般公開された棋譜・解説を読んでの感想を述べたいと思います。
……そう思いましたが、4手目(後手にとっては2手目)の△3三角についての解説を見て、これだけは先に述べておきたいと思ったことがあります。
この4手目△3三角は最近確立されつつある戦法ですが、どちらかと言えば奇策です。ありえる手ですが、正道な指し手ではないように思います。将棋の強さを追求する将棋ソフトが指すような手ではないと考えられます。
しかし、実戦で採用した。それについて、解説文では
「どうやら、あから2010は4手目△3三角を仕込んできたみたいですよ。角交換振り飛車。清水女流王将が最新型の振り飛車対策を苦手としていると踏んだようです」(勝又清和六段)
実際、「あから2010」の合議サーバログを見ると、「激指」「GPS将棋」「Bonanza」は△3三角以外の手を推奨し、△3三角を推していたのは「YSS」だけでした。それでも、△3三角と指したのは「YSS」による3三角定跡指定によるものみたいです。
確か、挑戦状には、
修行に継ぐ修行 研鑚に継ぐ研鑚を行い
漸くにして名人に伍する力ありと
情報処理学会が認める迄に強い
コンピューター将棋を完成致しました
と書いてあったはず。
名人を目指すモノが、4手目(2手目)から変化球ですか?
アンフェアです。