英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

不調なのか、それとも、衰えたのか……「その6・一昨年の王位戦を振り返るⅤ」

2016-07-01 21:37:30 | 将棋
「その1」「その2」「その3」「その4」「その5」の続きです。

 一昨年の王位戦・第6局 Part2

 △3六歩~△3七歩成が手厚く、▲2三歩~▲2一馬が上部に逃がす攻めなので、後手玉には入玉へのレッドカーペットが敷かれているように思えたが、▲4三銀と絡みつかれてみると、カーペットには歪みやうねりがあり歩きづらいことが分かった。
 ▲4三銀に羽生王位は△同金と応じ、▲同馬に一旦△7九銀▲9八玉を決めて、△3三歩と凌ぐが、▲4二銀と数を足されて、振りほどくのは容易ではない局面になった。
 ただ、△2一桂と受けて▲3二金と数を足させることにより先手の攻め駒を消費させ、攻め足を遅らせ攻め合い勝ちを狙えるかもしれない。
 実戦も△2一桂(第11図)。

 しかし、この手が問題の一手だった。

 この件については、一旦、置いておくとして、本当に歪んだカーペットだったのだろうか?
 第9図の▲4三銀に対しては、相手にせず△3三金とかわす手も有力だ。しかし、「▲4二銀打△3二歩▲3三銀成△同玉▲5五桂(変化図1)△4七と▲1一馬△2二銀▲3六香△1一銀▲3五香△2二玉▲3二銀不成で先手勝勢」(中継解説&将棋世界観戦記:古川徹雄氏)とある。

 変化図1で△4七とが必然かは疑問だが、▲5五桂と4三の銀を支える手が好手で後手がまずそうだ。

 また、▲4三銀と打たれると厄介なので、その前に△3四玉と逃げだす手も考えたくなる(具体的には▲2一馬に△3七歩成とせずに△3四玉)。

 △3四玉以下、▲2七桂△3七歩成▲3五桂△同玉▲5九金打(変化図2-2)△同竜▲同金△4七と▲1一馬(変化図2-3)
 が想定されるが、ここで△3三歩、△5七馬、△3六銀などが考えられ、非常に難解。(中継解説、将棋世界を参考)
 この変化、先手からすると▲2七桂△3七歩成▲3五桂や△4七とを許す指し手は後手玉に響きが弱く入玉を助長するようで抵抗を感じるが、先手としても強い防御駒である3五の金があまり役に立たずに取られて、その金を4九に打たれ龍を捕獲されるという皮肉な展開だ。後手の龍・馬・金の配置に悲運を感じる。
 ちなみに、戻って▲2三歩△同玉▲2一馬としたところで、△同玉とせず△3三歩とかわす手も考えられるが、以下▲2一馬に△3四玉▲2七桂△3七歩成▲3五桂△同玉▲5九金打△同竜▲同金△4七と▲1一馬と変化図2-3とほとんど同じ変化を辿ると考えられている(違いは2三の歩の有無…先手の歩が2三に残ると歩が2筋に立たなくなる。反面、入玉将棋になった場合は先手の駒数が1枚多いという得がある)
 ともかく、いろいろ変化が多く、対局者は大変だっただろう。

 実戦の▲2三歩△同玉▲2一馬△3七歩成▲4三銀(第9図)△同金▲同馬△7九銀▲9八玉△3三歩▲4二銀の手順は最善だったと言われている。しかし、問題の一着……▲2一桂が敗着となった。この手では▲4一桂とこちらから打つのが正着だった。

 後手玉は1筋に追われることが確実なので1筋に利かせて2一から桂を打つのが普通というか、当然に思えるが、その違いは数手後に現れる。
 本譜は△2一桂(第10図)以下、▲3二金△9五歩▲3三銀成と進んだが、△4一桂ならここで△1二玉が成立した。△1二玉▲3四馬△同金▲同成銀に△3二飛が先手玉への詰めろとなり後手の勝ちとなる。

 △2一桂の場合、桂が玉の退路を塞いで(変化図3-2で2一に桂がある)、▲2三金で詰んでしまう。

 なので、10図以下▲3二金△9五歩▲3三銀成には△1三玉と逃げるよりなく、ここで▲2五桂が妙手で決め手となった。


 △2五同歩に▲3四馬が炸裂した。

 この時、▲2五桂△同歩を利かしてないと△3三桂と金を取られて受けきられてしまう(▲3三同馬なら△3二飛、▲3三同金には△同桂がそれぞれ詰めろ。また、▲3五馬も2四に歩があり王手とならず△3二飛で後手勝ち)。
 なので、▲3四馬(第12図)には△同金と取るよりなく、以下▲2四同成銀△3一桂▲2四金△1二玉▲3一金△2二玉▲4三桂と必死に粘ったものの投了となった。

 さて、ここで気になる点がひとつ。
 序盤からやや苦しく、第7図(△6九飛)~第8図(▲7四馬)辺りも先手がリードしていたはず。なのに、終盤は後手の羽生王位が勝ちになっていた。これは、どういうことなのか?

 図より△8二飛▲6五馬△3六歩▲2三歩と進んだが、▲6五馬では▲6四馬と一回飛車の動向を訊いておくべきだったのではないだろうか?▲6四馬には△8四飛が最善のようだが、そうしておいて▲6五馬としておけば、本譜と同じように進んだ場合、飛車の二段目の防御もなく、△3二飛という切り札も存在しなかった。

 難解極まる将棋で、終盤の△4一桂と△2一桂の優劣など不運としか言いようがない。しかし、そういうぎりぎりの違いを読み切るのが羽生将棋じゃあないだろうかと、残念に思った記憶がある。

「その7」に続く
コメント
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