英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

不調なのか、それとも、衰えたのか……「その8・傾向と対策」(終)

2016-07-03 22:03:08 | 将棋
 軽~く触れようとした一昨年の王位戦ですが、思いのほか長~くなってしまいました。そのせいで、他の記事が消化できず、山積状態になっています。
 という訳で、強引にまとめて本シリーズを終結させます。(記事内容が私にとって心地よいものでなく、羽生三冠の現状を思うと辛いものがあります。ご了解ください)

「その1」「その2」「その3」「その4」「その5」「その6」「その7」の続きです。

 一昨年の王位戦で第1局~第3局は星の上では1勝1敗1持将棋でタイだったが、はっきり内容は押されていた。第4局以降建て直し、4勝2敗(1持将棋)で防衛を果たした。その将棋の内容も素晴らしかった。
 その後も、王座戦・羽生四冠3-2豊島七段、棋王戦・渡辺二冠3-0羽生四冠(挑戦失敗)、名人戦・羽生四冠4-1行方八段、棋聖戦・羽生四冠3-1豊島七段、王位戦・羽生四冠4-1広瀬八段、王座戦・羽生四冠3-2佐藤天八段と、棋王位奪取に失敗したものの、5連続で防衛成功を続ける。それ以前に遡ると12連続防衛。(詳しくは「その1」
 このようにタイトル戦の勝敗としては申し分ないが、その内容には蔭りを感じていた。例えば、行方八段との名人戦。勝敗こそ4-1であったが、第1局以外は行方八段が勝利しても不思議ではない将棋だった。
 まあ、「逆転する強さがある」と評価することもできるが、敗れた棋王戦(対渡辺棋王)を含めて、観戦していて、序盤から中盤・終盤まで≪辛いなあ≫と感じる時間が長くなってきていた。さらに銀河戦(対佐藤天八段)、NHK杯戦(対北浜八段・記事はこちら「1」「2」「3」「4」)、日本シリーズ(対豊島七段)では初戦敗退、竜王戦挑戦者決定トーナメント準決勝(対永瀬六段)敗退(本戦においては初戦敗退となる)と不安材料が浮上してきた。
 しかし、難敵揃いの王将リーグを6勝1敗で同率決戦に進出、プレーオフで久保九段に勝利し挑戦権を獲得、朝日杯でも優勝を飾り、不安要素を払拭したかに思えた。

 ところが、前期の王将戦(今年1月~3月)での挑戦失敗で蔭りどころか、暗雲が立ち込め始めた。
 そして、名人戦……

※最近の羽生将棋の傾向(昨期名人戦~今期棋聖戦)
1.序盤で作戦負けに陥ることが多い
 「つまらない将棋にしてしまった」という感想戦の自戒の言葉が増えた。
 渡辺竜王や若手の序盤研究が進んだのではないか(←これは、推測であるが、将棋ソフトの進化により、研究の精度や効率化が進んだことによる結果)羽生三冠が互角と考えて実戦で進めてみると、案外指しにくかった……こういうパターンが多いように思う。

2.局所的な戦いになることが多い
 羽生三冠の探究心によるところもあるかもしれないが、一直線に終盤の入り口に突き進んでしまう将棋が多くなった。
 羽生将棋の特長は、「駒当たりがたくさんある複雑な局面、戦略的に優先すべきものがはっきりしない局面において、柔軟な発想と精密な読みで、部類の強さを発揮する」ことだと考える。≪ああ、将棋ってこうやって勝つモノなのか≫とか≪そんな指し方があるのか≫と感心、驚嘆することが多くい。
 私が羽生将棋に魅了された最大の理由であるが、最近はそういう戦局で戦う将棋が少ない。最近だと、叡王戦の九段戦2局が該当するくらいで、順位戦の深浦戦などは真逆な局地戦であった。
 もちろん、羽生三冠はそういう局地的戦いも強い。しかし、作戦負け気味の局地的戦い(辛抱を強いられる将棋)が、消耗を大きくさせ、これまでの羽生三冠なら容易に発想したであろう“駒損も厭わず玉を美濃囲いの方へ遁走させる”という柔軟な思考に至らせなかった。

3.終盤でかつての正確さがない
 もちろん、過去においても終盤の失着で敗れることはあった。しかし、その失着は読み過ぎて判断を誤ってしまうモノが多かった。
 ところが、最近は読みが足らずに正着を逃がしたり、失着が1度に留まらず、2、3回犯してしまうこともある。

4.時間の使い方がおかしい
 1で作戦負けに陥ることが多いと述べたが、作戦負けに至るまでに十分考慮していない場合が多い。ある程度、作戦や局面を予定していたとしても、以前の羽生三冠なら、その局面局面において新たに思考を重ねていたように思う。最近は、すんなり作戦負けに至ることが多い。
 それと、終盤、残り1時間前後の考慮時間の時、一旦、時間を掛けて読みを入れることが多いが、最近は、読みを入れてもその後の指し手が不安定で逆転されたり、突き放されてしまうことが多い。
 以前は読みの確認という趣が強かったが、最近は本当に勝ち手順が分からず、必死に考えているように思われる。結局、その長考で時間も思考力も消耗して、終盤の精密さが失われているのではないだろうか?


※原因と対策
1.原因
 羽生三冠も45歳。決して若くはない。
 脳の演算能力や持続力に衰えが来ても不思議ではない。しかし、肉体的なポテンシャルと違って、脳の機能に欠陥が生じなければ、急激に衰えるものではないはずだ。
 なので、前項で述べたように、作戦負けなどによる消耗度が大きいことが関連しているとも思われる。
 さらに、体力的、肉体的衰えの影響も関係がないとは言えない。多忙を極める羽生三冠なら、なおのことである。
 現在の不振は、これまでに延べてきた要素が絡み合って、悪循環が起きてしまった。なので、その要素を一つでも解消していけば、良い方向に進みだすのではないだろうか。

2.対策・その1
 やはり、肉体的疲労も抑える必要がある。
 講演や普及活動を少し控えてほしい。
 それと、もう1点。30分だけ早く就寝して欲しい。30分なら日々の生活を変化させる必要はない。
 30分くらいで効果があるのか?と問われると、科学的根拠はない。しかし、私自身の体験だと「相当効果がある」と言う自信がある。

3.対策・その2
 序盤の研究を深めるというのが、まず、思いつく対策である。しかし、それでは、羽生ファンとしては面白くない。
 そこで、羽生三冠の秀逸な大局観で自分が指したい方向を決めて、それに向かって重点的に読みを深くするのはどうだろうか。
 さらに、もう一つの羽生将棋の特長の「将棋の流れに囚われず、将棋を輪切りの局面で見つめ、新たな視点で考える」も同時に実践して欲しい。
 この2点を実践すれば……いや、これでは、これまでの羽生将棋と同じではないのか?
 そう、やはり“羽生将棋は羽生将棋でなければならない”のである。やはり、羽生将棋が観たいのである。
 「頑張ってほしい」と言うしかない。いくらでも応援します。
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不調なのか、それとも、衰えたのか……「その7・一昨年の王位戦を振り返るⅥ」

2016-07-03 11:28:18 | 将棋
一昨年の将棋を振り返っている場合じゃないような状況(A級順位戦の初戦に敗れ、棋聖戦第3局も逆転負け)ですが、エールを兼ねて書きます。
「その1」「その2」「その3」「その4」「その5」「その6」の続きです。

 第7局は相矢倉戦で、第2局の進行を辿った。

 60手目の木村八段の△6五歩で第2局と別れを告げたが、前例はある。
 ちなみに、これよりもう少し前は、先手の角を6八に据えることが多かったが、芳しい展開にはならず5七角が主流となっていた。斯くいう私?も6八角型で嫌な思い出(2013年の名人戦で6八角型で羽生三冠が森内名人に敗れている)がある。しかも、その名人戦の1週間後に木村八段が後手を持って、先手の森内名人に5七角型で敗れているという。(棋譜中継解説の情報)
 第1図より、▲1四歩と垂らしたのが工夫(通常は▲1三歩)。▲1四歩は狙われることの多い2五の桂を、▲1三歩成からいつでも捌けるようにしている。▲1四歩は、この年(2014年)の6月27日の竜王戦昇級者決定戦4組、▲増田裕司六段-△飯塚祐紀七段戦で指されている。以下△2四銀▲1三銀△同桂▲同歩成△同香▲同桂成△同銀▲1五香△2四銀と進んだ。結果は後手勝ち。(棋譜中継解説より)
 これに対し、△2四銀もあったが、木村八段は△3七銀は、▲1三歩型ではよくある手だが、前例の、▲増田-△飯塚戦から離れ、いよいよ未知の局面となった。


 △3七銀(第2図)で封じ手となり、(1)▲1三歩成、(2)▲3九飛、(3)▲6八飛などが考えられたが、羽生王位の封じ手は▲1五香。飛車を捨てて1筋を突破する手だが、少し大胆すぎたようだ。
 以下は、中継サイトの局後の感想。
(1)▲1三歩成は△同桂▲同桂成△同香▲2五桂△3五桂▲1三桂成△同玉▲1五香△2四玉▲1八飛△2六銀成▲2九香△2七桂打が一例。「次に1筋に歩を打たれると後手の入玉がほぼ確定するので、△2七桂打の場面で困ると思いました」と羽生。▲1三歩成の変化はほかにもあるが、いずれも入玉模様になりやすい。
(2)▲3九飛は有力手のひとつ。以下△2六銀不成▲4六角△同角▲同歩△5八角▲1三歩成△同桂▲同桂成△同香▲4五歩△5三銀(△4五同歩は▲7一角)▲3六桂△6六桂。「これはやってみないとわからない」が対局者の感想だった。
「本譜の順は無理でしたね。ここは▲6八飛か、あるいは▲3九飛か。いずれにしても飛車を逃がすべきでした」


 第3図、1筋を突破したものの……

 飛車を取った銀がそのまま遊び駒となるのならともかく、角まで取るという状況。2手前の△6六歩▲6八金引を利かされたのも辛い。(△6六歩▲同金は△4七銀成▲7九角△6八歩を利かされると解説されていたが、以下▲同角△5八成銀▲6七金とした方が角の取られ方としては良かったように思う)

 
 △8六歩▲同銀と利かされ、先手の矢倉は弱体化が激しい。大駒4枚を後手が保持しており(銀香と飛角の交換)で、大差のように見えるが、先手に金香交換の権利があり、後手玉の4三金と4二銀は機能しておらず、見た目より後手玉は危険。意外と形勢差はないようだ。

 第3図以下、△1八飛▲6八歩△2二歩▲3二成香△同玉と進む。
 △2二歩以下形を決めて受けやすくしようとした木村八段だが、▲2一銀成△同玉▲2四桂という手段があり後手玉の危険度は軽減されていない(先手が寄せきれるかどうかは微妙)。
 ≪意外と難しい≫という評価が控室で出てきたとき、▲8三香!


 強引に飛車を三段目に呼び込み、飛車の守備力を除外して寄せやすくしようとした手だが、貴重な戦力を手放すうえ、本譜のように△6二飛とかわされても、その効果ははっきりしない。▲8一香成と桂の入手を可能にしていると言っても、先手で取れるわけではないし、6筋から攻められる懸念もある……
 ともかく、▲8三香に△6二飛▲2一銀不成△同玉▲2四桂と進む。

 ここで、△3二銀が有力で先手が自信のない変化が多かったようだ。
『△3二銀に(1)▲3三歩△同銀右▲同桂成△同銀▲1二銀△3一玉、(2)▲8一香成△3五角、(3)▲1三歩△1一歩、(4)▲1三銀△3五角▲4六歩△6三香などが調べられたが、先手自信なしの変化が多い。「△3二銀でちょっと悪い気がします」と羽生。「そうか、そうでしたか。足りないと思っていましたが、△3二銀を打つべきだった可能性はあります」と木村』(棋譜中継解説より)
 しかし、木村八段は△3三銀!
 木村八段らしい強気の受けだ。≪先手から3三に駒を打ち込んで△同銀と取らせてどうか?≫と考えるところ、自ら3三に銀を上がる……先手にしてみれば、打つ駒の節約と一手の手得である。
 そうまでして銀を上がった木村八段の思惑は2四の桂の除去にあったと思うが、さすがに強気過ぎたようで、△3三銀以下▲1二銀△3一玉▲3三桂成△同金▲5三銀と打たれては、後手玉も危険の領域を超えてしまったようだ。皮肉なことに、6二の飛車当たりになっている。


 木村八段もここで△6九角と鋭手を放つ(2枚の飛車を活かした詰めろ)。
 ここで▲3二歩△同金を決めて▲7九金打(第8図)と手を戻したのが冷静で、 以下△7八角成▲同金△6九銀に▲3二桂成△同飛に再度▲7九金打(第9図)と丁寧に受ける。


 以下△7八銀成▲同金△4三金(第10図)と受けられ、攻めの継続が一見難しそうだが


 ▲3三歩△同飛▲2四銀△3二飛▲4四銀成が幸便の寄せで(△同金なら▲5三角)

 △4二玉▲4三成銀△同玉▲2一角と厳しい追撃。
 ここで△3一金と受ければ、先手が良いもののまだ頑張れるとみられていたが、木村八段は△6九銀と形を作った。



 シリーズ前半の第3局までは完全に木村八段が押していた。
 その後は羽生王位も立て直し、4勝2敗1持将棋で防衛を果たした。
 熱戦が多く、面白いシリーズだった。(最近は、“主観的に”面白くないタイトル戦が続いている)


「その8」に続く
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