英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2016年王位戦 第1局 羽生王位ー木村八段

2016-07-06 23:11:33 | 将棋
王位戦……初戦を落としてしまったが、まだ始まったばかり
棋聖戦……第3局は敗れて1勝2敗。連勝すれば防衛
順位戦……出だしでつまづいたが、まだ8局も残っている

 局地的視野では、まだまだ希望がある状況だが、これだけ並ぶと暗くなる。
 もう勝てないのでは……下手をすると、無冠、B級に陥落……

 いやいや、そんなことはないぞ。一時的なスランプで、あとしばらくで復活するはず。
 根拠薄弱の希望的観測は後に述べるとして、第1局を振り返ってみる。


 またしても“横歩取り”。避けないのが王者の将棋というものだ。
 ただ、他の箇所の違いはあるが、この▲2四歩(第1図)~▲2六歩(第2図)の手法はあまりいい想い出はない。嫌な予感……
 とは言え、若干指しやすさを維持していた。

 第3図は、木村八段の“桂頭を攻めてみろ”の△8一飛に、羽生王位が“ならば”と▲7五歩と突っ掛けたところ。
 以下、△7五同歩▲7四歩△6五桂▲3三角成△同桂▲5六角(第4図)。

 アマチュアだったら、≪してやったり!≫と得意顔になるところだろう。
 しかし、プロ、しかも、タイトル戦なので、当然“承知の上”の展開だろう。でも、“承知の上”だが“やむを得ない”と言う場合もある。羽生王位も誘われて踏み込んだのだから成算があるはずだ。
 第4図以下、△2五歩▲4六飛に△4五角!……≪2枚換えを厭わず≫の強手。

 ≪2枚換えで悪いはずはない≫と羽生王位も▲4五同角△同桂▲同飛と応じる。
 ここで、△4四角が木村八段の用意の一着。

 3五への飛車の転回を防ぎつつ、角の成り込みを見せた手だ。
 実戦は▲8八銀と受けたが、▲4四飛と激しくいく手はなかったのだろうか?(後に△4四銀に▲同飛と斬らざるを得ない将棋になったので、受けに回らず、ここで切ってしまった方が率が良いように思う)
 以下、△4四同歩▲2三歩成△同金▲3二角と金桂両取りが掛かり、更に駒得が大きくなる。それに、3二の金を2三に引っ張り出す利もある(こういう手法は若手が得意)。実戦は2四の歩が残ってしまったのも痛かったように思う。
 ただ、両取り(▲3二角)に対し、△5七桂成と捨てる手が巧手で、一筋縄ではいかなそうだ。
 △5七桂成▲同銀△3三金▲6五角成の進行は、▲3二角に対して単に△3三金と応じて▲6五角成となった変化より、後手が1歩得して、先手玉の脇が空いている。

 これは飛車を渡した先手にとって大きなマイナスで、次に△2六歩と伸ばして△2七歩成が、かなり早い手になる(▲2七同金△3八飛がある)。
 変化図1の形勢はどうなのか?……どなたか強い方、ご教授ください。

 実戦は、△4四角▲8八銀に△8六歩と進む。

 ▲8六同歩が普通だが、その他にも手段があるとのこと。
 中継解説では
「先手が指せると思います。いまの局面は▲8六同歩のほかに▲2三歩成、▲4四飛、▲5五桂と手段が多いです。その中で先手がよくなる順がありそうですね。羽生王位としては、時間を使って考えたい局面です」(by北浜八段)
 とある(▲5五桂は△8七歩成▲同銀△3四角▲4四飛△同歩▲2三銀に△8七飛成▲同金△7八飛で後手良し)。
 羽生王位も57分考えていて、あれこれ比較検討しているのだろう。
 で、結局、素直に▲8六同歩。
 やはり、≪良い時には普通に応じるのが良いのだろう≫
 でも、≪△8六同飛に▲8七歩(銀)だと△2六飛と転回されてしまうぞ。2四に歩があるので▲2七歩は打てない(8七に歩を打った場合は歩切れ)。▲2三歩成が利くのかなあ≫などと考えていたが……

 △8八角成!

 ここで?……なるほど、△8八角成▲同金として△8六飛なら▲8七歩と打つしかない。
 そうして△2六飛と回れば2七には桂を打つしかない。桂を打たせておいて△7六飛。

 飛成を受けるのに桂の利きに打つ▲7七銀も悔しい。6五の桂は4五の飛車で当たりが掛かっていたうえ、例の▲2三歩成~▲3二角の両取りで取るチャンスもあった。
 角を切られて、先手の4五の飛車も置き去りの感があるし、2四の垂れ歩も成り捨てる機を逃してしまったように思える。

 戻って、△8六歩(第7図)の時、角を切られる前に▲4四飛と切らなければならなかった。
 ▲4四飛△同歩▲8六歩(変化図2)なら

 「先手十分だった。(1)△2六飛は▲2三歩成△同金▲2七歩△8六飛寄▲8七銀打△8四飛▲3二角で「つらすぎると思った」と木村。(2)△4五角は▲4六歩△3四角▲2三銀△同金▲同歩成△同角▲2四歩△1二角▲3二角で先手よし。(3)△6四歩も▲5五桂でいい」
 とある(中継解説より)

 第9図以下、△7七同桂成▲同金△4四銀▲同飛△同歩▲7六金△8八飛▲4九玉△7六歩▲2一飛と互いに飛車を打ち込む展開となったが、後手の飛車打つの方が強力。5八に金を打つ手もあるし、王手で8九の桂を取ることもできる(しかも合駒を強要できる)。
 最近、自陣に厳しい飛車を打たれて劣勢が決定的になるパターンが多いなあ。
 さらに、▲2一飛に△1二角が強い手。

 ▲1一飛成△6七角成▲3九玉△2二銀▲9一龍△8一歩で

 先手の頼みの龍は封じ込められ、後手の1二の角は馬となり盤上を支配する……

 以下、先手も▲2八玉~▲3九銀の粘り腰から、桂香を駆使し勝負手を捻り出す。

 しかし、図から△4五歩▲同香(△同馬には▲6七角がある)△4三歩が巧みな受けで、糠喜びとなってしまった。


 投了図、後手の2六の桂が先手陣の急所に突き刺さっている。
 ≪2七の駒が歩だったら……≫

 △8八角成(第8図)が顎を捉え、ぐらつき、負けるようにできていたかのような将棋になってしまった。
 もちろん、木村八段の指し手が見事だったのは間違いない。



 巷では、「木村八段に敗れるようでは、羽生も終わったか」という声も聞こえるが、木村八段の評価が低すぎる。
 「木村八段は強いぞ!」
 一昨年の王位戦を長々と調べて、木村八段の強さを実感した私が言うのだから、間違いない。
 相手が強ければ強いほど、力を発揮するタイプだ。
 A級に復帰できないのは、強くない相手にも合わせてしまうからかもしれない。

 敗れたが、序盤の造りはよかった。
 △8八角成食らっただけで、その後は、どうしようもなかったように思える。
 しかし、△8八角成を見落としていた事が問題なのかもしれない。
 局後の
「△2六飛(60手目)と回られた局面は何かもう自信がなくなってしまったので。その前に何か問題があったのかもしれません」
という感想も、敗因を掴めていないようだ。
    …………………………やはり、不安。
コメント (8)
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