英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

リオデジャネイロ五輪  ~壮絶な初戦敗退~(卓球女子シングルス3回戦・石川佳純)

2016-09-10 15:10:03 | スポーツ
 私がこの試合を観たのは第3ゲームの3-3から。
 石川が強振し、相手選手が受けているシーン。
 ここまで2ゲーム連取しているようだが、“快調”というムードではなく、≪石川が必死に攻めている≫という緊張感が場を占めていた。
 相手は…北朝鮮の選手。北朝鮮は強敵だ。しかし、どうやらエースのリ・ミョンスンではなく、キム・ソンイ。世界ランクは50位(五輪時)。
 この世界ランキング、「レーティングポイント」、「ボーナスポイント」、「ペナルティーポイント」が関係し、出場大会の格付けや対戦相手の強弱によってその増減も異なるが、実力は高くても国際級の大会への出場が少ないとランキングは低くなる傾向が強い。だから、実力者がひしめく中国や、国際大会への参加が少ない北朝鮮の選手は過小評価となる。世界ランク50位は度外視したほうが良い。ちなみに、石川選手の世界ランクは6位、福原選手は8位、伊藤選手は9位。

 このゲームの中盤では、まだ、互いに球筋を掴めていないのか、ラリーにはならず、早めにスマッシュが決まるか、返球ミスで終わることが多かった。
 しかし、このゲームの中盤以降、石川の強打を捌くようになり、打っても打ってもカットで返してくる。徐々に、キム・ソンイが石川の球筋に慣れてきているという感がある。
 キム・ソンイは“カットマン”タイプ。
 強力なスライス回転に対して、強打で(特にフラット)の返球は難しく、擦り上げるようにして返すのが通常の対処だが(“持ち上げる”と言うらしい)、それだけではポイントを上げることはできず、どこかで強打をしなければならない。石川選手の強打は相当なスピードがあるが、キム・ソンイはきっちり返してくる。しかも、強打を織り交ぜて。
 さらに、通常のカットマンに比べて、いきなり強打を仕掛けてくる率が高い。しかも、厄介なことに、攻撃型の選手にひけを取らない強打の持ち主だ。



 石川もその強打によく反応し、ラリーが続く。ぎりぎりの応酬で、どちらかが競り勝ち、ポイントを上げるという一進一退のゲーム展開。
 しかし、7-7から激しいラリーを石川が制し、9-7とリード。このゲームを取れば石川の3-0となり大きく優位に立てる。
 ここで、キム陣営がタイムアウト(1試合に1度だけ取ることができる)。そして、その直後のサーブを石川がレシーブミス。おそらく、この試合始めて繰り出したサーブであろう。
 その後も、プレーの組み立てを変えたのだろう。石川が対応しきれない感じで、このゲーム、9-11で落とす。

 第4ゲーム、序盤リードされたが、石川がキムの球筋や戦術に対応し反撃。9-7とリード。
 しかし、石川のサーブに対し、巧妙なレシーブ(返球コースが絶妙)で石川の体勢を崩し、2点連取。
 さらに、キムのサーブをレシーブミスし、9-10。最後もサーブで崩されて失点。9-11でゲームを落とす。

 第5ゲーム、序盤リードした石川だが、中盤ミスが増え、8-8のタイスコアで終盤へ。
 キムのサーブで始まった第17ポイント目、カット戦から7球目に突如、キムが強打。石川、これをブロックで受け止め、再び、間合いを測るラリーへ。
 14球目、こんどは石川がクロスへ強打。キムが何とかバックハンドでレシーブするが、やや浮き球となり、石川のチャンスボールに。そこで、後方に下がり、石川のスマッシュに備えるキム。
 石川、構わずクロスへ強打。キムはバックハンドでロビングで返す。浮いた球、後方に下がったキムを見て、石川は前に落とそうとするが、ネットに掛けてしまう。
 石川も打つか落とすか迷ったのだろう。その上、おそらく、前に落とすのは相当高度なテクニックが必要なはずで、凡ミスとは言えない。しかし、試合の流れとしては相当痛い失点だ。
 しかし、石川、次のプレーでは、しっかり打ち抜き、ポイント。9-9。
 さらにしっかりとしたスイングで、ラリーを制し、10-9。
 ゲームポイントも、ラリー中から威力十分のスマッシュ。キムが受けきれず、11-9で第5ゲームを奪う。

 第6ゲーム、時折、攻勢を見せるが、守備に専念するキム・ソンイで、石川が攻め切るか、キムが受け切るかの展開。
 4-4から攻防は見事だった。石川の強打を体を捻じってカットで返すかと思えば、一転、強打で反撃、これに、石川がブロックで対応。攻守を変えながら、息詰まるラリー。44本目についに、キムがネットに掛け、石川が5-4とリード。
 しかし、このプレーの後、石川が足を気にする素振り。続くポイントも取り、6-4とするが、やはり、足を気にしている。テレビカメラも、石川の異変に気づき、足をクローズアップする。
 長いラリーを競り負けたキムだが、少しもめげず、7-7と盛り返す。
 石川の攻勢に対し、カットで応戦。ラリーが続く中、石川が身体を開いてフォアで返した際、やや、位置取りが左に寄ったのを見て、キムがストレートに強打。テニスで言えば、“ダウンザライン”だ。7-8。
 この後、早めの勝負を懸ける石川だが、ミスが相次ぎ、7-10とゲームポイントを握られる。
 しかし、石川も踏ん張り、9-10と迫る。特に、直前の9点目のラリーは、41本に及ぶラリーだった。ほとんど、石川の攻め、キムの守りだったが、辛抱強く打ち続けた。
 キムのサーブ、3球目、キムはバックで突っつき、その返球を、逆クロスに強打。これが決まり、9-11でキムがこのゲームを奪い、最終ゲームへ。

 最終ゲーム。
 石川の攻め、キムの守りという図式は変わらない。時折、素晴らしいプレーでポイントを上げるが、戦術的な打開策も見いだせず、石川がキムの守備を突き破れない。4-7と劣勢。
 しかも、ここで足が痙攣したらしく、審判に治療タイムを要求するが認められない(はっきりとした外相があれば認められるが、痙攣などは“疲労の延長”と見なされる)。それでも、審判団の協議で、多少の時が流れ、足の回復が期待される。
 足を気にしつつ、試合再開。ラリーで競り負け、2連続失点で、4-9と窮地に。
 追い込まれて、石川も反撃。2点連取して、6-9。
 次のプレー、ラリー中からキムが強打。これをブロックで対応。続く、キムのスマッシュにもブロックで強く逆襲。好守が変わり、石川の連続強打に、キムが堪えきれず、ミス。7-9。
 続くプレーも、キムの攻勢に、ブロックで反撃。石川の反撃のスマッシュをキムが受けきれず、8-9と1点差!
 しかし、ここでキムのサーブを、石川がミス。解説者曰く、初めて打ったサーブ。
 マッチポイントを握られた石川のサーブ。厳しいサーブだ。これをキムが何とか返球。これがネットに触れ、石川、何とか対応したが、がら空きとなった代の右側に返され、跳びついて返すもネット!……ゲームセット。


「石川、まさかの初戦敗退」
 という見出しが飛び交ったが、これは違う。

 鉄壁な守備、攻撃型に引けを取らないスマッシュ力、多彩なサーブ、戦術(プレー・技)の豊富さ、スタミナ……キム・ソンイは強かった

 解説の宮崎氏
「なかなか国際舞台に出てこない北朝鮮、実力がありますね。びっくりしましたねえ
 いやいや、これも違うだろう。キムが強いのは間違いないが、このキム・ソンイ、この記事を書く際に分かったが、2016年2月末~3月上旬に行われた世界卓球(世界選手権)の団体戦の準決勝で伊藤美誠がキム・ソンイに0-3で完敗を喫している。“びっくりした”はないだろう。
 対戦が決まった後、「戦ったことのない相手。しっかり、カットマン対策を立てる」というコメントがあったが、警戒しているようにも受け取れるし、深刻に考えていないようにも解釈できる。半年前の世界卓球を考えると、「嫌な相手」と思ったはずだが、口に出すわけにはいかなかったのだろう。
 石川の調子は悪くなく、力を存分に出し切った。3回戦ではあるが、準決勝でも全く不思議ではない高レベルの内容だった。とにかく、この試合においては、キムが素晴らしかった。石川にとって、不運だったのは、この試合が初戦だったこと。五輪や会場の雰囲気になじまないうちに、キムとの対戦は厳しかった。準々決勝ぐらいで対戦すれば、キムの技量ももっと把握でき、もっと的確な戦略も立てられたはずだ。ラリーなど試合内容は石川の方が上に感じた。それだけに、初戦で対戦したのは不運だった。


「石川、足を痛める不運」
 という表現も時折なされたが、これも違う。

 「カット」対「持ち上げ+スマッシュ」のラリーが続いたが、「持ち上げ+スマッシュ」の方が消耗が大きい。
 フルセットにもつれ込み、石川の筋肉が耐えられなくなったのだ。
 練習量豊富な石川にとって、足が攣るなど有り得ないが、このゲームでは、そこまで消耗させられてしまった。
 中継の解説によると、「第3ゲームから、人が変わったように攻め始めた」ようだ。言い換えると、「第2ゲームまでは全く攻めてこなかった」となる。
 つまり、「ひたすら粘って、石川の消耗を誘った」のだ。

 足が攣ったのは「不運」ではなく、攣ったことが「敗北」だったのだ。


 キム・ソンイはこの後も勝ち進み、準決勝で丁寧(中国)と対戦。
 1-4で敗れた。ネットでのハイライトでしか見られなかったのは残念だが、勝利を決めた時の丁寧の表情からは、スコア以上に大変な試合だったのだろう。
 3位決定戦では、福原に4-1で勝利し、銅メダルに輝いた。
 福原も今大会、充実しており、準々決勝までの3試合は1ゲームも落とさなかった。準々決勝の馮 天薇(フォンティエンウエイ)にも快勝していた。
 しかし、バックハンドが武器で、スマッシュ力がそれほどではない福原にとって、キムは相性が悪く、勝機がなかった。
 
コメント (4)
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