英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2016王座戦 第2局 その1「えぇ~!藤井システムぅ?」

2016-09-22 17:12:38 | 将棋
羽生ファンにとって、4~7月は悪夢だった。

 4月23日の名人戦第2局の大逆転負けから始まる6連敗。
 この間、名人戦では良いところなく負け星を3つ重ね失冠。棋聖戦も永瀬六段に第1局に敗れる。
 棋聖戦第2局(6月18日)に勝ち、ようやく連敗を止め、叡王戦の九段戦を勝ち上がり復調かと思えたが、名人復位を目指すA級順位戦初戦の深浦九段戦を落とし、棋聖戦第3局も敗れて追い込まれ、王位戦第1局も木村八段に敗れるという暗雲が立ち込める状況。「不調」「スランプ」どころか「衰えた」という声のボリュームも大きくなってしまった。
 その後、棋聖戦第4局、第5局に連勝、順位戦も森内九段に快勝するなど、立ち直りを感じさせたが、棋王戦トーナメント初戦(2回戦)で佐々木勇気五段に完敗(らしい?)、王位戦も2勝3敗とカド番に追い込まれ、日本シリーズ2回戦(初戦)も深浦九段に敗れるなど、不安を解消できないでいる。
 ただ、A級順位戦(対行方八段)、王座戦第1局(対糸谷八段)に勝利し、上昇機運にあると言ってよいだろう。


 本局の第2局を制し、優位を確保しておきたい。
 強弱のムラがあるとはいえ、糸谷八段の剛腕は脅威である。羽生王座も二年前の竜王位挑戦者決定三番勝負で苦杯を喫しており、糸谷八段が森内竜王から竜王位を奪ったシリーズでの破壊力、NHK杯戦で渡辺竜王が苦笑いするしかなかったシャットアウト力、NHK杯戦の対井上九段戦や順位戦の対鈴木大介八段戦で見せた逆転力はの凄まじさが脳裏をよぎる。



振り飛車?……しかも、“藤井システム”!………大丈夫なのか…………


 先手の糸谷八段は▲3六歩と突いて△6二玉を強要し、“急戦構えで牽制、機を見て穴熊”の戦術。
 そして、△6四歩に▲5五角と出て、△6三銀を強いる。
≪う~ん、この戦型、振り飛車が勝ったのを見た記憶が少ないなあ≫
 この後、角を3三方面に利かせたまま、▲3五歩の仕掛けを含みに進めるのも有力だが、糸谷八段は▲6六歩と突き、角を3七に引く持久戦(穴熊)指向。
 しかし、羽生王座は▲8八玉に対し△4五歩と、隙あらば△6五歩の構えを見せる。

 この手法は割と珍しいらしいが、事前の研究ではないだろうか。羽生王座自身「(△4五歩では)△3二飛がよく指されている形です」と説明していた。
 糸谷八段は▲6七金~▲7八銀と左美濃に組む。振飛車(藤井システム)から見ると、居飛車穴熊に囲わせなかった意義はあると言えるが、△6三銀と自陣の美濃囲いを崩しているのが不満。かと言って、△7二銀と戻すのは▲6四角と歩を取られてしまうし、2手損するのも立ち遅れる可能性もある。それらを避けて△7二金と締まるのも美濃囲いよりも弱い(このままでは将来▲6一銀の割打ちも残るし、玉頭も不安)。
 なので、この局面を主導した羽生王座には、何か思惑があると思われる。それが、△3五歩なのだろう。

 この△3五歩は△4四銀型四間飛車の狙い筋ではあるが、自らの角頭の歩を突くので、その反動を覚悟しなければならない。
 図で▲3五同歩と取ってくれれば△同銀と進出できて話が早いが、▲2六角とあらかじめ▲2六角とかわし、△3六歩に▲3八飛と迎え撃つのが常套の手筋。
 振飛車も△3二飛と対抗するが……


 この第6図、後手・振飛車の3三の角と4四の銀の組み合わせが重く、さらに3四の地点が空いており、いつでも▲3四歩を利かされるマイナスがある。そのうえ、後手玉の囲いに不備があり、不安がいっぱい。
 ちなみに、この△3二飛では△2四歩▲同歩△2二飛が有力とされていた。△2四歩▲同歩△2二飛に▲3六飛△3五歩▲3八飛の順は、実戦の△3二飛▲3六飛△3五歩▲3八飛△2四歩に▲同歩△2二飛と進めた時より、△3二飛と途中下車しない分、1手得だというのだ。ただ、この△2四歩▲同歩△2二飛は“欲張った手順”なので、どこかで破綻する危険性もある。具体的手順は分からないが、後手の囲いに不備があるので、欲張ると良くないことになるような気がする。
 ともあれ、実戦は△3二飛▲3六飛△3五歩▲3八飛△2四歩と進む。

 ここで「控室では▲2四同歩△2二飛に▲4六歩△2四飛▲2七歩△6五歩▲4五歩△同銀▲3五飛が検討されている。最後の▲3五飛で銀取りが受けにくく、後手はどこかで変化する必要があるようだ」と中継解説には記されていた。しかし、「最後の▲3五飛で銀取りが受けにくい」とされているが、△3四銀で持ちこたえているように思う。途中の△2四飛に▲2七歩と受ける手の交換は、かなり先手の損だろう。

 糸谷八段、29分の考慮で▲2八飛。
 △2五歩と角当たりで歩を取られ、▲5九角と引かされるので思考から除外しそうだが、以下△2二飛に▲1七桂と跳ね2筋逆襲を狙うのが巧い手順。
羽生王座も局後に「いやぁ、うまい手順でした」と感心の言葉。

 2五の歩を守れない後手は△3六歩に活路を求める(△1三桂と対抗しても▲1五歩△同歩▲1四歩で困る。▲1五歩に△同角も▲同角△同歩▲1四歩)。
 以下▲2五飛△2四歩(囲いの差で飛車交換はできない)に▲2七飛で第9図。


 先手の不満は、1七の端桂(桂頭の弱点と中央での活躍は不可能)と後手の3六歩の存在。
 しかし、後手の不安材料はもっと大きい。
 飛、角、銀が重い形の上、いつでも▲3四歩を利かされる爆弾を抱えている(このマイナスは“4四銀型△3五歩の仕掛け”の宿命)。更に、玉形の不備。(これら、何度も言ってきた気がする)

 この戦いに主導した羽生王座だが、私には≪失敗している≫としか思えなかった

「その2」に続く
コメント (4)
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