英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

渡辺竜王の発言「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪(はくだつ)されても構わない」について ~伝達力と読解力~

2016-11-03 13:40:45 | 将棋
一部で渡辺竜王へのバッシングが激しい

 渡辺竜王の動きを整理すると、
・三浦九段の指し手や離席について他の棋士から指摘され疑念に感じ、島理事に相談
・極秘七者会議を開き、三浦九段への疑念が深まった
・三浦九段聴取の常務会に同席

となる。
(今回の騒動全体については「三浦九段不正疑惑、出場停止問題 その1その2その3」を参照ください)

 この一連の行動について憶測や非難がされており、渡辺竜王が弁明したが、これについて世間(バッシング派)がさらに非難を強めている。
 渡辺竜王へのバッシングについては誤解による処がかなりあると思われる。それについて考察したいが、あまりにもポイントがあり過ぎて、どこから手を付けてよいものか……


(渡辺竜王の弁明について時系列に沿って考察するのが常道だが、ポイントが絞れないので、まず、)
★渡辺竜王が弁明(自分の真意と世間の認識にズレがある)を発した記事の考察
『三浦九段の将棋不正疑惑に渡辺竜王が初言及…「三浦さんを処分してほしいとは言っていない」』
(2016年11月1日1時22分 スポーツ報知)より引用(抜粋)
 10月12日に連盟から出場停止処分を受けた(12月31日まで)三浦九段は、挑戦者として同15日開幕の竜王戦7番勝負に出場することが決まっていた。複数の報道では、タイトル保持者として迎え撃つ立場だった渡辺竜王が自ら主導し、三浦九段の処分を連盟側に強く進言したと伝えられてきた。
 これに対し、当の渡辺竜王は「三浦さんを処分してほしいとは全く言っていないですし、ファンの皆さんや棋士の間にも本意とは違う形で間違って伝わってしまっています」を否定。また「(三浦九段を処分しないなら)竜王戦は指さない(出場しない)。タイトルを剥奪されても構わない」などと発言したとされることについても、事実ではないとした。


 上記『「当の渡辺竜王は「三浦さんを処分してほしいとは全く言っていないですし、ファンの皆さんや棋士の間にも本意とは違う形で間違って伝わってしまっています」を否定。』となっていますが、『~」と否定』だと思われます。


 渡辺竜王の言葉は、10月31日に連盟が開いた「不正疑惑に関する報告会」終了後のインタビューのものと思われるが、記者会見や声明文やブログ記事と違い、状況を整理し言葉を吟味して発したものではないので、主旨が正確に伝わらない危険性がある。
 例えば、「三浦さんを処分してほしいとは全く言っていないですし」は、≪「三浦さんを処分してほしい」とは言っていない≫という意味だけでなく、≪「処分してほしい」と解釈された言動すべてを否定≫したと受け取られる可能性もあり、実際そう解釈した人も多いようだ。
 この言葉の中で、問題と特に感じるのは“全く”という言葉。渡辺竜王は、「処分してほしい」と言っていないことを強調したかったのだろうが、“全く”を入れてしまうと、≪「処分してほしい」と解釈された言動すべてを否定≫と思われてしまう可能性が高くなってしまう。

 こういった「“発信者”と“受信者”のズレ」がこの記事の主題であり、後述するつもりであるが、一旦、それについては脇に置いて於き、“処分要請発言”の真偽について調べてみよう。


 渡辺竜王の“処分要請発言”が表に出たのは、棋士への臨時説明会が開かれた10月21日。
将棋連盟、来週中に調査委発足 強く対応求めていた渡辺竜王「タイトル剥奪されても構わない」
『産経ニュース』より)
 将棋の三浦弘行九段(42)が対局中に将棋ソフトを不正使用した疑いが浮上し、出場停止処分になった問題で、日本将棋連盟の谷川浩司会長(54)は21日、来週中に顧問弁護士を中心とした調査委員会を発足させ、本格的な調査に乗り出す方針を発表した。
 これに先立ち、同日午前、東京と大阪の将棋会館で棋士への臨時説明会が開かれ、羽生善治棋聖(46)や佐藤天彦名人(28)ら約140人の棋士が参加。約2時間におよんだ非公開の説明会で島朗常務理事(53)は、7月末の対局で三浦九段に不自然な離席があるとの指摘が発端だったことを報告。さらに今月3日の対局でたびたびの離席と不自然な指し手に疑惑を抱いた渡辺明竜王(32)が、「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪(はくだつ)されても構わない」と、連盟幹部に強く対応を求めていたことを明らかにした。


 問題の「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪(はくだつ)されても構わない」の発言は、この記事によると、臨時説明会で島理事からの棋士への説明の中での表現。しかも、産経の記者がこれ(連盟幹部に強く対応を求めていたこと)を聞いたのが、記者会見の場、あるいは会見後に島理事の口からなのか、あるいは、臨時説明会後に参加棋士によるものだったのかが分からない(渡辺竜王は対局中で説明会には不参加)。
 なので、「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪(はくだつ)されても構わない」の言葉そのものを発したかどうかは怪しい(それに結び付けられる発言はあった可能性はある)。
 さらに、「連盟幹部に強く対応を求めていた」というのが、渡辺竜王の要請から感じた理事会の印象なのか、説明会での説明から受けた参加棋士の印象なのかも分からない。

 とにかく、「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪(はくだつ)されても構わない」という言葉と、「連盟幹部に強く対応を求めていた」という表現が相まって、【渡辺竜王が強硬姿勢を示したという印象】を受けた人が多かったのではないだろうか?

 私は、今回の騒動について、 「その1」「その2」「その3」 の記事を書いてきた。渡辺竜王に関しては、
・三浦九段の不正疑惑の指摘を受け、自らも疑惑を抱いた
・疑惑の存在を知りながら連盟が問題を放置し、竜王戦開催中に問題が発覚し、連盟が放置していた事実が世間に明らかになることは最悪の事態であると考え、島理事に相談
・七者会議で三浦九段の指し手と離席状況を検証し疑惑を深める。“限りなくクロに近い”という印象で一致、常務会で三浦九段に聴取することに
 この会議について羽生三冠は「疑わしきは罰せずが原則」と後に表明。後付けの可能性もあるし、会議中その旨の発言をしたかは不明。
・常務会に臨席、「疑われた中では対局できない」(三浦九段)→「休場届を出せ」(理事)の流れとなる
 結果的に常務会に臨席したのが間違い。場に居なければ、竜王が“三浦九段処分”に直接関わったという事実(認識)は生じなかった
 あの場にいたのなら、処分に関与したと思われても仕方がない。せめて、休場届云々のおかしな流れを止めるべきだった。
・休場届不提出で「三浦九段の年内出場停止」が下され、竜王位挑戦者が丸山九段に変更される。
 ≪連盟が不正疑惑を放置し、竜王戦開催中問題発覚≫という最悪の事態は避けられたが、ほぼ最悪の結果(疑惑の確証なしで、“休場届不提出”という不合理な処分理由)を招いてしまった。

というのが私の認識である。


 「疑念がある棋士と指すつもりはない」というのは、三浦九段が不正を働いていると決めつけたわけではなく、「疑惑が生じている状況で竜王戦七番勝負を指せない」という意味。
 「タイトルを剥奪(はくだつ)されても構わない」というのは、私心で言っているのではなく、「タイトルを返上する覚悟で動議している」という意味であろう。
 

 その後の行動(常務会参加など)はおかしな点もあったが、将棋界を思って起こした言動が「ファンの皆さんや棋士の間にも本意とは違う形で間違って伝わってしまって」(取材での渡辺竜王のコメント)は、悲しいだろう。


 よく知った者同士でも行き違いはある。
 いきなり答えなければならないインタビューには、言葉足らずなどで真意が伝わらないことも多い。
 文字だと発信者の表情などが見えないので、誤った印象を受けることも多い。
 マスコミだと、インパクトを強くするため、言葉を置き換えたり、表現を強くすることが多い。
例えば『渡辺竜王、保身に走る 「三浦さんを処分してほしいとは全く言っていない」』などは、かなり恣意的な見出しである。

 発信者は出来るだけ正確に意図を伝えるよう努めなければならないし、
 受信者も第一印象や先入観に囚われないで、情報を吟味しなければならない。
(偉そうなことは言えないことは、私も重々承知しています)

 
コメント (16)
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