『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その1』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その2』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その3』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その4』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その5』の続きです。

先手・プエラαの玉が9一まで侵入し、後手・塚田九段の敗北が決定的になったと思われた局面である。
ここから、△6九飛▲6八金打△4九龍▲3四歩(第14図)と進む。
この4手のやり取り……≪ん?≫ と感じさせる手順だ。
まず、▲6八金打。この手は金を取りに来た龍に金を打って当て返す先手を取る手だが、取られる可能性のある駒を先手陣に増やす手で、入玉確定後の最優先事項「自陣に残る駒を敵陣に逃がす」の逆の行為である。
そして、その金を犯してまで「先」を握って指した手が▲3四歩。この手は、通常の将棋ならと金を作る価値のある手だが、既に入玉されている時点では敵玉に響かず、また入玉している自玉からも遠く、無意味に近い手だ。

プエラαの開発者の伊藤氏は入玉対策を組み込んだと述べていたが、それは「急きょ」だったらしく、付け焼刃的なものだったようだ。
おそらく、入玉対策としての対応プログラムは自玉が入玉を果たすまでで、それ以降の指し方のプログラムは組み込まれていなかったと考えられる。
なので、13図以降の指し手は、通常局面の手の評価で指し手を決定した。そう考えると、第13図以降の指し手のよれ方が納得できる。

第14図より18手進んだ局面。
先手のプエラαは、やはり1筋にと金を作るあまり有効でない手を指し、自陣左側の駒を敵陣に避難させようとはしない。また、その残された駒を攻められた際の折衝で駒を1枚損しており、持将棋までの塚田九段の駒数は「あと6点」となっている。あと、先手の7七の馬の行動範囲が狭くなっているのも気になるところ(塚田九段にとっては捕獲するチャンスがある)。
図の▲4四歩は「歩を避難させた」という趣旨ではなく、「と金を製造する」ことを高く評価したことによるものと考えられる。
と金製造に重きを置いたプエラαであるが、塚田九段が意図的かどうかは分からないが、先手の6~9筋の歩を取らなかったことにより、先手玉の周辺にと金を製造することができなかった。このことが、この後の激変を招いた要因となっている。
実際、第15図より△5二金▲7一馬△6二銀▲8二馬△7一金▲9二馬△8一金打(第16図)と進み、

先手の馬を召し取ることができた(後手の金2枚と交換)。これで塚田九段の駒数は「ほぼ確定の19点プラス5二、6二の金銀」で、この金銀がうまく先手の駒と交換できたとして21点という状況。
しかし、『将棋世界』六月号の特集記事によると、第16図の△8一金打では△8二香(変化図1)があったそうだ。

塚田九段は▲8三桂(変化図2)でダメだと速断したようだが、以下△8一金打▲同馬△同金▲同玉△6三角(変化図3)で王手龍取りが掛かる。

ちなみに、変化図1の△8二香に▲5六馬と龍を取ると、△8一金打で詰んでしまう。

更に手が進み、185手目▲6四桂と打った局面。この桂打ちは金取りで、それを△6三金と受けさせ▲7二桂成と桂を成り込む、通常では大きな手だが、手番を渡したため△6六龍と歩を取られてしまった。「歩1枚より成桂の方が大きい(次に銀と交換できる権利もある)」という通常局面の判断が働いてしまったと考えられる。
この折衝により、後手の駒数は「確定21点プラス金銀(不確定)」となり、先手の行き遅れの歩3枚があるので、持将棋が現実的となってきた。

更に30手ほど進んだ局面。後手・塚田九段の懸案だった金銀は銀が脱出成功し、金は歩との交換になった。プエラαの判断は「金>歩」の駒得優先。入玉将棋においては「金=歩」という指標がないのだろう。
この金銀の2点を確保できたので、あと1枚獲得できれば持将棋に持ち込める。
その他としては、やはりプエラαは「と金の製造」を繰り返していた。
そして、この△8八歩によって、△8九歩成から先手の7~9筋の歩を獲得できる公算が強くなった。

ついに24点確保が確実になった局面。

この局面で、両者が合意し持将棋が成立した。(電王戦規定で「引き分け」)
書きたいことは、これまでに書いてしまったので、まとめは簡単に。
将棋としては、塚田九段が入玉を目指した時点で、質的には観るべきものがなくなってしまった。せめて、駒数確保の最善を尽くして……最善を尽くすのは寄せられてしまう危険性もあるので、危険と照らし合わせながら、駒数確保の努力をして欲しかった。(実戦は、一目散に入玉)
解説の変化で示された入玉将棋特有の手筋などは面白かった。(余力があれば取り上げたい)
絶望的な局面でもあきらめずに指し続け、ついには引き分けの持ち込んだ塚田九段の精神力とそのドラマ性には感動したかもしれない。世間へのアピール度は大きかった。
しかし、もし、プエラαが入玉後のプログラムを組み込んでいたら、塚田九段は醜態の棋譜を残す結果になったはずだ。
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その2』
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『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その5』の続きです。

先手・プエラαの玉が9一まで侵入し、後手・塚田九段の敗北が決定的になったと思われた局面である。
ここから、△6九飛▲6八金打△4九龍▲3四歩(第14図)と進む。
この4手のやり取り……≪ん?≫ と感じさせる手順だ。
まず、▲6八金打。この手は金を取りに来た龍に金を打って当て返す先手を取る手だが、取られる可能性のある駒を先手陣に増やす手で、入玉確定後の最優先事項「自陣に残る駒を敵陣に逃がす」の逆の行為である。
そして、その金を犯してまで「先」を握って指した手が▲3四歩。この手は、通常の将棋ならと金を作る価値のある手だが、既に入玉されている時点では敵玉に響かず、また入玉している自玉からも遠く、無意味に近い手だ。

プエラαの開発者の伊藤氏は入玉対策を組み込んだと述べていたが、それは「急きょ」だったらしく、付け焼刃的なものだったようだ。
おそらく、入玉対策としての対応プログラムは自玉が入玉を果たすまでで、それ以降の指し方のプログラムは組み込まれていなかったと考えられる。
なので、13図以降の指し手は、通常局面の手の評価で指し手を決定した。そう考えると、第13図以降の指し手のよれ方が納得できる。

第14図より18手進んだ局面。
先手のプエラαは、やはり1筋にと金を作るあまり有効でない手を指し、自陣左側の駒を敵陣に避難させようとはしない。また、その残された駒を攻められた際の折衝で駒を1枚損しており、持将棋までの塚田九段の駒数は「あと6点」となっている。あと、先手の7七の馬の行動範囲が狭くなっているのも気になるところ(塚田九段にとっては捕獲するチャンスがある)。
図の▲4四歩は「歩を避難させた」という趣旨ではなく、「と金を製造する」ことを高く評価したことによるものと考えられる。
と金製造に重きを置いたプエラαであるが、塚田九段が意図的かどうかは分からないが、先手の6~9筋の歩を取らなかったことにより、先手玉の周辺にと金を製造することができなかった。このことが、この後の激変を招いた要因となっている。
実際、第15図より△5二金▲7一馬△6二銀▲8二馬△7一金▲9二馬△8一金打(第16図)と進み、

先手の馬を召し取ることができた(後手の金2枚と交換)。これで塚田九段の駒数は「ほぼ確定の19点プラス5二、6二の金銀」で、この金銀がうまく先手の駒と交換できたとして21点という状況。
しかし、『将棋世界』六月号の特集記事によると、第16図の△8一金打では△8二香(変化図1)があったそうだ。


塚田九段は▲8三桂(変化図2)でダメだと速断したようだが、以下△8一金打▲同馬△同金▲同玉△6三角(変化図3)で王手龍取りが掛かる。

ちなみに、変化図1の△8二香に▲5六馬と龍を取ると、△8一金打で詰んでしまう。

更に手が進み、185手目▲6四桂と打った局面。この桂打ちは金取りで、それを△6三金と受けさせ▲7二桂成と桂を成り込む、通常では大きな手だが、手番を渡したため△6六龍と歩を取られてしまった。「歩1枚より成桂の方が大きい(次に銀と交換できる権利もある)」という通常局面の判断が働いてしまったと考えられる。
この折衝により、後手の駒数は「確定21点プラス金銀(不確定)」となり、先手の行き遅れの歩3枚があるので、持将棋が現実的となってきた。

更に30手ほど進んだ局面。後手・塚田九段の懸案だった金銀は銀が脱出成功し、金は歩との交換になった。プエラαの判断は「金>歩」の駒得優先。入玉将棋においては「金=歩」という指標がないのだろう。
この金銀の2点を確保できたので、あと1枚獲得できれば持将棋に持ち込める。
その他としては、やはりプエラαは「と金の製造」を繰り返していた。
そして、この△8八歩によって、△8九歩成から先手の7~9筋の歩を獲得できる公算が強くなった。

ついに24点確保が確実になった局面。

この局面で、両者が合意し持将棋が成立した。(電王戦規定で「引き分け」)
書きたいことは、これまでに書いてしまったので、まとめは簡単に。
将棋としては、塚田九段が入玉を目指した時点で、質的には観るべきものがなくなってしまった。せめて、駒数確保の最善を尽くして……最善を尽くすのは寄せられてしまう危険性もあるので、危険と照らし合わせながら、駒数確保の努力をして欲しかった。(実戦は、一目散に入玉)
解説の変化で示された入玉将棋特有の手筋などは面白かった。(余力があれば取り上げたい)
絶望的な局面でもあきらめずに指し続け、ついには引き分けの持ち込んだ塚田九段の精神力とそのドラマ性には感動したかもしれない。世間へのアピール度は大きかった。
しかし、もし、プエラαが入玉後のプログラムを組み込んでいたら、塚田九段は醜態の棋譜を残す結果になったはずだ。
ちょっとチェスの終盤の手筋っぽいかも知れません
確かに6~9筋に敵歩を残したままにしたことがこの結果を招いた大きな要因の1つだったのは確かでしょう
人間との勝負では起こり得ない不思議な駆け引きだと思いました
それにしても、塚田九段はじっくり指せば逆転できていた可能性が高かったとは…
プログラムに欠陥があるとそういうことになってしまうのですね
塚田九段も、ただひたすら「引き分け」を目標としていたから、8二香という手に気づかなかったのですね
まあずっと秒読みだったから仕方ないとは思いますが
じっくり指せば逆転で全駒で勝てたのではないかとさえ思えます
でもまあちょいちょいと入玉時の対応を施せば、英さんのおっしゃる通りプロ最悪の棋譜が残ってしまっていたことでしょう
長い連載、お疲れさまでした
面白く読ませていただきました
※ 棋聖戦第3局の結果にちょっとショックを受けておりますが(2二銀の見落とし?)、次戦では是非防衛を決めて欲しいところです
拙文におつきあい下さり、ありがとうございました。
>プログラムに欠陥があるとそういうことになってしまうのですね
入玉を果たした後、指標がなくなってしまったプエラαは、さぞ、うろたえたことでしょう(感情があるとしたら)。
「うろたえる」まではいかないにしても、プログラム通りの手を指しているのに、少しもゴールに近づかず、駒得の差がなくなっていったのには戸惑ったのかもしれません。
あ、でも、「と金」を高く評価していたので、「優勢」を疑わなかったのかもしれません。
>>じっくり指せば逆転で全駒で勝てたのではないかとさえ思えます
逆転はあり得ますが、「全駒」は無理なように思います。
>「入玉時の手筋」…確かに面白いですね
ちょっとチェスの終盤の手筋っぽいかも知れません
チェスのことは分かりませんが、パズルに近いです。
>棋聖戦第3局の結果にちょっとショックを受けておりますが(2二銀の見落とし?)、次戦では是非防衛を決めて欲しいところです
私もショックを受けています。△6六歩に▲同龍と取ったらどうなったのか、また、▲2五歩の利かしは得だったのか、疑問が残ります。
例の竜王戦の悪夢の再現は避けていただきたいです。
『私、伊藤英紀は12/19、
・公益社団法人日本将棋連盟
・株式会社マイナビ
・内舘牧子
の三者を、名誉毀損で東京地方裁判所に提訴しました。』
伊藤さんのブログは
http://aleag.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-f962.html
問題の記事については、
http://blog.goo.ne.jp/tnnt_1571/e/7a730627047a6b8bcadc2a54231337c0
私も『将棋世界』のあの文章は酷いと思いました。
http://blog.goo.ne.jp/ei666/e/ba2e65fc4de4311a1c3c3a3a5e4ac9cb
伊藤氏は雰囲気がヒールっぽいですが、ニコニコ生放送中でのインタビューに応える態度や内容は誠実さを感じました。
伊藤氏はあの文章に対して『将棋世界』誌や将棋連盟に抗議をしたようですが、誠意のある対応をされなかったようです。
『将棋世界』誌については、私も度々取り上げるのですが、掲載した記事に責任を持たない、あるいは掲載するにあたっての影響を考慮しないことが多くなってきているように感じます。(橋本八段がまだ若手だったころの順位戦予想で暴言に近い発言を載せた頃からでしょうか)
連盟に関しては、問題を先送りにしたりうやむやにする体質が悪い方に出たようです。(順位戦問題、現役の既得権優遇問題、対局日に電子機器持ち込み問題)
早くしっかりした外部理事を投入すべきです。
Stanleyさんから頂いたコメントの伊藤氏の敬称ですが、勝手かと思いましたが、私の方で訂正させていただきました。