ひとをおもふ こころこのはに あらばこそ かぜのまにまに ちりもみだれめ
人を思ふ 心は木の葉に あらばこそ 風のまにまに 散りも乱れめ
小野貞樹
あなたを思うこの心が木の葉であったなら、風に吹かれるま散り乱れることもあるでしょうけれど、実際は木の葉などではないので、ずっとあなたを思い続けているのです。
ひとつ前の小町歌(0782)に対する返し。現代語の感覚では少しわかりづらいですが、第三句の「あらばこそ」は、「未然形+ばこそ」で順接の仮定条件を表す表現。「もし~であればきっと、」といった感じです。これがもし「あればこそ(已然形+ばこそ)」であれば順接の確定条件の表現(「~であるからこそ」)となって、こちらは現代語のニュアンスに近いですね。
作者の小野貞樹(おの の さだき)は平安時代初期から前期にかけての貴族にして歌人。小野姓であり、小町とのこのやりとりから見ても小町の夫とも考えられますが、そもそもの出自はよくわかっていません。古今和歌集にはこのあと 0937 にも登場します。