1月21日(月)晴れ【子狸に泣く】
外猫ちゃんたちの小屋に「おはよう」と声をかけたら/ 布団の中に見なれぬ毛色の動物の背中が見えました/つついてもビクともしません /他の猫ならば脱兎のごとく逃げ出すはずです /ホットカーペットをはがして見ましたら /子狸のようです /外に出そうとしましたが /全く出ようとしません/猫小屋中狸の臭いが充満しています/私が子供の頃/近所のおばさんが狸を2匹飼っていて/その家には狸の臭いがいつも充満していました/子狸はガリガリに痩せています/暖かい猫ちゃんたちの寝床でやっと寝ていたのです/
丁度総代さんがやってきてくださり、「布団ごと林に逃がしましょう」/小屋から出たがらない狸ちゃんを/やっと布団でくるみこんで/お寺の北の林に運んでくれました/布団から出された子狸は/一目散に林の方に逃げていきました/
哀れな子狸よ/あんたは生きていけるのか/食べ物をあげてももう食べられないでしょう/と総代さんは言う/狸を見なれていて/わかるのだろうか/たとえ食べる力があったとしても/食べ物をあげることはできない/猫ちゃんたちがやられてしまうだろうし/臭い狸ちゃんを飼うことはできないのだから/可哀そうだね/可哀そうだね/可哀そうだね/あんたを助けてあげられなくて/私は無慈悲だね/偉そうなことは言えない/一匹の子狸を助けられないお坊さんか、私は/芭蕉の言葉を思い出す/汝の性(さが)の拙(つたな)きに泣け/富士川のほとりで泣いていた捨て子/芭蕉は袂から食べ物を投げてやり/ただこれ天にして、汝の性の拙きに泣け/と野ざらし紀行に/書いていた/あーあ、私は無慈悲だ/皮膚病なのか、毛の抜けてやせ細った/病の子狸よ/生き延びよ、とは思わない/暖かい布団の中で眠ることのできた/それを冥途の土産にして/あまり苦しまないで旅立っておくれ/
芭蕉の野ざらし紀行の一文を、学生時代に読んだとき、芭蕉は何と冷たいのか、と思ったが、その時はわからなかったのだ。芭蕉は心の中で泣いていただろうと、私は、今、思う。
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