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鉄道の文学紀行

2006-10-15 22:18:20 | Weblog
10月15日(日)晴れ【鉄道の文学紀行】

昨日の続き
佐藤喜一著『鉄道の文学紀行-茂吉の夜汽車、中也の停車場』
 目次
 函館駅-啄木『一握の砂』から辻仁成『海峡の光』まで
 茂吉記念館前駅-「死にたもう母」を一目見ん
 今泉駅-宮崎俊三、昭和二十年八月十五日の汽車
 二本松駅-高村光太郎、智恵子の「ほんとの空」
 犬吠駅-佐藤春夫「犬吠岬旅情のうた」をめぐる
 熱海駅-尾崎紅葉『金色夜叉』から「湯の町エレジー」へ
 信濃追分駅-立原道造「のちのおもいに」
 替佐駅-高野辰之「兎追いし山、小鮒釣りし川」
 桑名駅-中原中也、昭和十年八月十一日の夜
 湯田温泉駅-中原中也の「帰郷」
 宇和島駅-大和田建樹「鉄道唱歌」のふるさと
 豊後竹田駅-滝廉太郎「荒城の月」、そして川端康成『千羽鶴』
 (第一話等は省略)

駅とその駅にまつわる文学的な話を興味ある形で追いかけている。例えば『金色夜叉』の間貫一は、母親に連れられて富豪の御曹司に会いに熱海に行ったお宮を追いかけて、何時何分の人車鉄道に乗っていったか、とか「ハハキトク」の電報を受けて斎藤茂吉は何時何分の列車に乗って故郷に向かったのか等々。

みちのくの母のいのちを一目見ん一目見んとぞいそぐなりけり
吾妻やまに雪かがやけっばみちのくの我が母の国に汽車入りにけり
死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞こゆる
我が母よしにたまいゆく我が母よ我を生まし乳足らひし母よ
のど赤き玄鳥つばくらめふたつ屋梁はりゐて足乳たらちねの母は死にたまふなり

「死にたまふ母」の五十九首が、どのような状況のなかで詠まれたか、臨場感をもっての解説がなされている。

また「兎追いしかの山……」の歌詞で有名な「故郷」を書かれた高野辰之氏に因んで替佐駅の周辺が紹介されている。著者のご案内なくては到底見つけられない駅であるだろう。

また私にとって印象深かったのは中原中也の話である。湯田温泉駅の停車場から五分ほどのところに中也の「帰郷」の碑が建てられているという。

これが私の故里だ
さやかに風も吹いてゐる
ああ おまへは何をして来たのだと
吹き来る風が私にいふ


郷関を出てから中也は一度帰郷を果たしたそうだが、それは故郷の人に歓迎されなかった帰郷のようであった。著者のご案内を頂いて中也の故郷が見えてくる。

『鉄道の文学紀行-茂吉の夜汽車』これは中公新書で手に入りやすい本なので、是非ご一読をお薦めします。普通の文学解説とは全く違った切り口の世界が広がるはずです。

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