風月庵だより

猫関連の記事、老老介護の記事、仏教の学び等の記事

苦難の尼僧史(その1)

2006-06-13 23:51:35 | Weblog
6月13日(火)曇り【苦難の尼僧史(その1)】

 一、 我が国最初の出家僧は尼僧であった

 我が国では、飛鳥時代、敏達天皇十三年(584)に善信尼が高麗の僧のもとで出家受戒した。善信尼は渡来僧、司馬達等の娘である。他に禅蔵尼恵善尼の二人がいた。この三人は、後に排仏派の物部守屋等によって三衣を剥奪され、鞭の刑を受けたり、市中を引き回されたり等の迫害にあったのである。

しかし善信尼等の仏教信仰の念は固く、復権の後に百済に渡航、具足戒を受けて正式の大僧となった。この三尼僧についての記述が我が国における僧侶として、初めてのものである。よって歴史的には尼僧が日本における最初の出家僧なのである。
 
そのことによって私が尼僧だからといって尼僧の優位性を誇示する意図はないが、我が国仏教史上初の迫害に遭い、その法難を乗り越え、具足戒を受けて我が国に法燈を受け継いだのは尼僧であるという歴史をあらためて明記しておきたい。

聖武天皇が国分寺、国分尼寺を建立した当時、尼僧、男僧の優劣の記載はない。おそらく男尊女卑の思想は日本民族には無かったのではないか。儒教が入ってきてより一層強くなったのではなかろうか。

しかしいつの頃からか尼僧が男僧よりも劣位に置かれるようになった。それはなぜなのかという歴史的なことを見据えておきたい。現在では法制上の差別は撤回されている。

「原始女性は太陽であった」と平塚雷鳥女史は訴えたが、まさに日本最初の出家僧は女性であったことを確認しておきたい。「日本で初めての法灯を照らしたのは尼僧であった
 
  二、 宗門最初の尼僧と道元禅師の尼僧観

道元禅師の会下に、宗門最初の尼僧、了然尼がいる。「示了然道者法語」によれば、道元禅師がこれを書き示したのは、寛喜三年(1231)であることがわかる。また尼については『永平広録』中に
  〈原文〉
 了然道者、夙有般若種子、切志仏祖大道。雖是女流、則大丈夫志気也
  〈訓読〉
 了然道者は夙に般若の種子有り。切に仏祖の大道を志す。是れ女流なりと雖も、則ち大夫の志気なり
  〈訳〉
 了然道者は早くから智慧の目を持っていて、熱心に仏祖の御教えを学んだ。了然道者は女性であるが、立派な男子と同じ意気込みを持っているのである。

このように道元禅師が書かれているように、了然尼は僧侶としてすぐれた人物であったことが窺える。おそらく、唐代、灌谿志閑禅師を教え導いたというほどの、末山了然尼(生没年不詳、南岳下、高安大愚の法嗣)に因んで与えられた法名であろう。

『正法眼蔵』「礼拝得髓」巻には、随処に得道の比丘尼に対する礼拝の法が記されている。その一節をあげておきたい。
〈原文〉
(しかあれば、)いまも住持および半座の職むなしからんときは、比丘尼の得法せらんを請ずべし。比丘の高年宿老なりとも、得法せざらん、なにの要かあらん。為衆の主人、かならず明眼によるべし。
〈訳〉
住持や首座がいないときには、得法の比丘尼にお願いすべきである。たとえ法臘の高い比丘であっても、得法していなければ、何の役にも立たない。大衆を導く者は優れた法の眼を具えていなくてはならない。

〈原文〉
正法眼蔵を伝持せらん比丘尼は、四果支仏および三賢十聖もきたりて礼拝問法せんに、比丘尼この礼拝をうくべし。男児なにをもてか貴ならん。虚空は虚空なり、四大は四大なり、五蘊は五蘊なり。 女流も又かくのごとし、得道はいづれも得道す。ただし、いづれも得法を敬重すべし。男女を論ずることなかれ。これ仏道極妙の法則なり。
〈訳〉
   仏法の真髄を伝承護持している比丘尼は、四果(預流果、一来果、不還果、無学果)声聞、縁覚等の辟支仏や三賢(聖位に入る前の凡夫位の修行の階位)十聖(菩薩の十住の修行の階位)にある者も礼拝し問法に来たならば、比丘尼もこれらの礼拝を受けるべきである。男はなにを以て貴いというのであろうか。虚空は虚空なり、四大(地水火風)は四大なり、五蘊(色受想行識)は五蘊なり。(男といったところで、所詮は五蘊仮和合している実体のないものではないか)それは女流も同じことである。男女にかかわらず得道は得道である。ただ男女にかかわらず得道する者をを敬い重んじるべきである。男女を問題にすべきではない。これは仏道の究極の法則なのである。

また瑩山ケイザン禅師の会下にも多くの尼僧の記録が残されている。女人救済の誓願を立てられて、宗門最初の尼寺、圓通院を建立なさったのは瑩山禅師である。母、祖母への報恩の想いは強く「三世十方の女人を救済し尽くさねばやまない」との発願文を書かれたのは正中二年(1325)のことである。また瑩山禅師については他日考察したい。

*自分自身の研究としてまとめた一文を紹介した。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。