多少興奮していたのだろうか
いつもより早めに目覚めた朝。
3月にもなったというのに
未だに冬の寒さに身も心も縮み上がる。
早すぎる出発になるのだが
何もする事のない家にいるよりは
とにかく会場に向かい、そしてゆっくりその時に浸りたいと思った。
徐々に昇る陽は辺りの景色をうっすらと映し出していた。
雲ひとつ無い快晴の空の元には右に赤城山、左に妙義山、そして正面に榛名山と
群馬を代表する上毛三山が早朝の澄み切った空気の中にキリリとその姿を見せている。
その榛名山の麓の町、群馬県高崎市榛名で開催される今日の「はるな梅マラソン」。
その土地柄、アップダウンの激しいコースと抜群のロケーション、
そしてたくさんの梅の花が咲き誇る山間を道を走る大会として
リピーターも多く今年も三千人を越える参加者が集まったようだ。
私にとって今年は本当に酷い年で記録的な降雪の影響や諸事情により
これまで4戦連続のDNS。
この大会への参加も一時は危ぶまれていたものの、
やっとここに来て生活も落ち着きを見せ始め、
午前中だけで終えられる大会ゆえ、何とかスタートラインに着く事が出来たのだが、
やはり練習らしい練習は行っておらず無事完走ができるのか
今まで以上の不安の中のスタートとなったことは言うまでもない。
700人あまりが参加。
決して広い道路ではないが
完全に交通規制されたこのコースは
安全に走る事ができる。
また、時々見せる赤城山や榛名山、
その周りの山々の景色は素晴らしく、
眼下に見える街並みとのコントラストはまるで映画の一場面のよう。
何度走っても飽きさせる事のないこの大会のひとつのウリであるようにも感じる。
ただ、残念なことにまだ沿道には雪が残っているように
この町にも春はまだ遠いようで梅の花はまだ蕾のまま。
所々に紅梅は咲いているものの、いつものように梅の花の香り漂う大会とはならず
その点ではちょっと残念ではあった。
いくら練習不足とは言え
やはり習慣とは恐ろしいもので
「パ~ン」とのスタートを
知らせるピストルの音が鳴り響くと同時に、
自分に覆いかぶせた抑制の蓑は
一瞬ですっ飛んでしまい、
前行くランナーの隙をすり抜けすり抜け自分のペースに合った場所まで突っ走ってしまった。
スタートから暫く続く上りが続き、やっと下りに差し掛かると
まるでジェットコースターかのような急勾配の下り。
その坂を利用して何人ものランナーをまとめて抜き去ったまではよかったが、
その勾配も徐々に緩やかになり始めるとぐったりと足が重くなってしまった。
まだ序盤の3km付近。
これで残り8kmを走りきれるのかとやっと我に帰って自重。
が、やっぱりランナーの性か、抜いてきたランナーに再び抜き返されるといい気持ではない。
腕を振り足の回転を早めバトルの開始だ。
そして赤いウエアの若者、
確か女性もいた。
上りが得意、下りが早い、
そうしたランナーの個性が
はっきり出るこのコースは
走っていて実に面白い。
沿道の応援は決して多くは無く、他のランナーにとっては淋しく感じるかもしれないが
私にとってはランナー同士のそうしたかけひきだけでテンションも上がり
それだけで充分に楽しめる。
また中盤の激坂は心肺MAX。
まさに自分との戦いで、決して歩かないぞとのと前を行くランナーの決意が背中に見え
その苦しさに歪む顔よりも気迫が前面に出るといったこのコースの名物的区間。
ここでガックリと極端にペースは落ち、更に上り切ったあとのもう一段の上りは
ここは地獄かと何度思ったことか。
だからこそその先の下りは気持ちよく飛ばせ、
疲労のたまり始めた全身で転がり落ちる感覚は他の大会には無い醍醐味。
最後の短い上りを駆け上がれば
ゴールは直ぐそこ。
ありったけの力を振り絞って
前を行くランナーに付くが、
やはりそこはそこ。
背後に気配を感じれば
絶対に抜かれまいとギアを変え全速力モード突入。
そのまま追いつく事無くそのままの順でゴールになだれ込む。
久しぶりだった。
足の疲労なんて感じない。
力いっぱい走り通した。
首筋の汗が自分の中にくすぶっていた何かと共に流れ去った。
空は青空。
僅かに吹く風が口にできぬほど心地良く感じ、顔が自然にほころんでいく。
快感とはこういうことを言うのだろう。
記録 55分50秒
総合順位 78位
種目順位 11位
春はもうすぐそこまできているようだ。