(前の記事からの続き)
○東央大病院・ 消化器外科・ 緒方の部屋
美和子、 若林が 緒方に手術の依頼をして
いる。
緒方 「生体肝移植? あなたがドナー 〔*〕
に?」
〔* ドナー …… 臓器提供者〕
美和子 「よろしくお願いします!」
緒方 「…… しかし …… (渋る)」
美和子 「何か問題が? ……」
緒方 「肝は生体ではなく、 脳死からの移植が
本道だと 私は考えているんです」
若林 「日本ではもう 60例以上の生体肝移植が
行われています。 緒方先生のチームなら
技術的に難しい部分肝移植も 充分にクリアで
きると思いますが」
緒方 「行われてるのは 小児への移植です。
今回のレシピエント 〔*〕 は 18才、 大人への
部分肝移植は 肝を大きく切り取るわけで、
あらゆる面からいって 危険が多すぎます」
〔* レシピエント …… 臓器受容者〕
美和子 「でも それに賭けなければ ……!
私、 肝機能を良好に保つために 常に細心の注意
を はらっています」
緒方 「健康な人の体を傷つける 生体肝移植は、
脳死移植よりも 倫理的問題があると思いま
すね」
美和子 「私は どうなっても構いません!」
若林 「脳死移植が社会的に 受け入れられてい
ない現在は、 止むを得ないのではないでし
ょうか」
緒方 「脳死問題を避けて通るための 緊急避難
として 生体肝に頼るのは、 脳死移植にブレ
ーキをかけることになります」
美和子 「できる治療があるなら どんな方法で
も 患者を救うべきではありませんか?」
緒方 「脳死移植を 社会に認められた治療とし
て 定着させるためには、 目先のことで焦っ
てはならない」
美和子 「目先? 社会全体のために 一人の
人間が 犠牲になるんですか!?」
緒方 「………」
美和子 「目の前の患者の 命を救うのが 医者の
使命ではないんですか!?」
若林 「(美和子を制して) 佐伯くん……!」
美和子 「(緒方にすがりつくように) お願い
します! 緒方先生、 お願いです……!!」
考え込む緒方。
(次の記事に続く)