「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

生体肝移植 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (9)

2010年08月08日 21時04分12秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ 消化器外科・ 緒方の部屋

  美和子、 若林が 緒方に手術の依頼をして

  いる。

緒方 「生体肝移植? あなたがドナー 〔*〕

 に?」

  〔* ドナー …… 臓器提供者〕

美和子 「よろしくお願いします!」

緒方 「…… しかし …… (渋る)」

美和子 「何か問題が? ……」

緒方 「肝は生体ではなく、 脳死からの移植が

 本道だと 私は考えているんです」

若林 「日本ではもう 60例以上の生体肝移植が

 行われています。 緒方先生のチームなら 

 技術的に難しい部分肝移植も 充分にクリアで

 きると思いますが」

緒方 「行われてるのは 小児への移植です。

 今回のレシピエント 〔*〕 は 18才、 大人への

 部分肝移植は 肝を大きく切り取るわけで、

 あらゆる面からいって 危険が多すぎます」

  〔* レシピエント …… 臓器受容者〕

美和子 「でも それに賭けなければ ……!

 私、 肝機能を良好に保つために 常に細心の注意

 を はらっています」

緒方 「健康な人の体を傷つける 生体肝移植は、

 脳死移植よりも 倫理的問題があると思いま

 すね」

美和子 「私は どうなっても構いません!」

若林 「脳死移植が社会的に 受け入れられてい

 ない現在は、 止むを得ないのではないでし

 ょうか」

緒方 「脳死問題を避けて通るための 緊急避難

 として 生体肝に頼るのは、 脳死移植にブレ

 ーキをかけることになります」

美和子 「できる治療があるなら どんな方法で

 も 患者を救うべきではありませんか?」

緒方 「脳死移植を 社会に認められた治療とし

 て 定着させるためには、 目先のことで焦っ

 てはならない」

美和子 「目先?  社会全体のために 一人の

 人間が 犠牲になるんですか!?」

緒方 「………」

美和子 「目の前の患者の 命を救うのが 医者の

 使命ではないんですか!?」

若林 「(美和子を制して) 佐伯くん……!」

美和子 「(緒方にすがりつくように) お願い

 します!  緒方先生、 お願いです……!!」

  考え込む緒方。

(次の記事に続く)