「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

ハゲタカ …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (20)

2010年08月24日 19時45分19秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ 売店

  淳一が 雑誌を立ち読みしている。

  後ろから ナースが小声で話すのが 聞こえ

  てくる。

ナース5 「佐伯先生、 ずいぶん派手に 動いて

 るみたいね、 いろんな先生に 頼み込んだり

 して」

淳一 「? ………」

ナース6 「脳死の患者さんの家族に 直接交渉

 までしたってよ」

ナース5 「医者の立場も 考えてほしいわ」

ナース6 「やりすぎよね、 倫理委員会の承認も

 まだ出てないのに」

淳一 「……… (後ろを向いたまま)」

ナース5 「だけど うちの病院で 脳死の移植が

 されたら すごいニュースだね」

ナース6 「テレビなんか 一杯来ちゃうのか

 な」

ナース5 「あたしたちも インタビューされた

 りして?」

ナース6 「(はしゃいで) ワー、 言うこと考

 えとかなきゃ」

淳一 「(頭を落として) ………」
 

○佐伯宅・ ダイニングキッチン (夕方)

  美和子が せわしく食事を作っている。

  淳一はテレビゲームをしている。

美和子 「今日から少し 忙しくなりそうだから

 カレーまとめて作っとくね。 いつでもチン

 して食べなさい」

淳一 「……… (無言)」

美和子 「どうしたの、 さっきからムスッとし

 て」

淳一 「…… 姉キ …… あんまりみっともない

 マネしないでくれよな」

美和子 「何それ ?」

淳一 「……… 脳死の人がいるんだって ……

 ?」

美和子 「え?  …… ええ …… (当惑を取り

 繕って)」

淳一 「…… 死んだ人の周り ウロウロ ………」

美和子 「ウロウロなんて」

淳一 「脳死の人だって 患者さんなんだよ」

美和子 「だって仕方ないじゃない、 移植しな

 きゃならないんだから」

淳一 「無理矢理 しなくてもいいだろ」

美和子 「あたしはあんたのために 一生懸命…

 …」

淳一 「むかつくんだよ、 あんたのため あんた

 のためって …… !」

美和子 「ジュン …… (困惑)」

  玄関の電話が鳴る。

  美和子、 淳一を気にしながら 席を立つ。
 

○同・ 玄関

  受話器を取る 美和子。

美和子 「はい、 佐伯です。 …… ああ、世良さ

 ん ……… え、 ほんと!? ……」

(続く)
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