「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

命、 ものかは …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (4)

2010年08月03日 19時14分57秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大学病院・ 通用門の噴水の広場

  淳一が 黒い皮ジャン姿で、 ローラースケ

  ートを履いて 走ってくる。

淳一 「すいませーん!  どいて下さァい!」

  驚く人々の 間を縫うように、 病院玄関に

  はいっていく淳一。
 

○同・ ロビー

  走ってくる淳一。

受付係 「(見咎めて) あ、 ちょっと……!」

淳一 「ごめんなさァい! 急いでるんです

 ゥ!」

  唖然とする人々を後に 走り去る淳一。
 

○同・ エスカレーター

  ローラースケートを履いたまま、 ガンガ

  ンと エスカレーターを駆け上がる淳一。
 

○同・ 第二内科・ 廊下

  淳一が 音を立てて走ってくる。

ナース 「何ですか!?  そんなもの履いて……

 …!!」

  捕まえようとするナースの腕を するりと

  抜ける淳一。

淳一 「おおーっとィ!!」

ナース 「こら、 待ちなさい……!!」

  騒々しさに 診察室から顔を出す 美和子。

  逃げてくる淳一と 目を合わせる。

  美和子、 親指を立てて  “come on!

  come on!” と 笑顔で合図する。

  小さなガッツポーズで 美和子に答える

  淳一。

  美和子の回りを クルリと一回転して止ま

  る。

淳一 「ごめん、 姉キ!  遅れちゃって!」

美和子 「何て恰好?  騒々しい!」

  美和子、 遠くでへたり込んでいるナース

  に 目で挨拶 (ごめんなさい!)。

美和子 「(淳一に) 早くはいって!  若林先

 生がお待ちよ」
 

○同・ 診察室

  美和子と淳一、 はいってくる。

淳一 「(若林に) すいません!  遅くなりま

 したッ (敬礼)」

若林 「(笑顔で) 怪傑黒頭巾のご来院だな。

 待ちかねたぞ」

淳一 「ポチの奴が 急に具合悪くなっちゃって

 (椅子に座る)」

若林 「犬を飼ってたのかい?」

淳一 「トカゲですよ、 もう歳で……」

若林 「(淳一の顔に手を当て) どら、 いい

 顔色してるじゃないか、 今日は」

淳一 「生まれてこの方、 18年も 黄疸やってる

 んですからね。 堂に入ったもんスよ」

若林 「(淳一の下目蓋を指で下げ) アッカン

 ……」

淳一 「ベエ (大きく舌を出す)」

若林 「ちょっと 目が黄色いな」

淳一 「はー、 いよいよプッツン来ますか?

 (あっけらかんと)」

美和子 「ジュンは大丈夫よ」

淳一 「医者は安易な なぐさめ言っちゃあいけ

 ないんだぜ」

美和子 「あんたは 世にはばかる手合いだか

 ら」

淳一 「それが 薄命の美少年に対する 言葉か

 い?  うるわしき姉弟愛があれば、 そんな

 悪たれ口 吐くめえに、 てか?」

美和子 「あんたももう少し いじらしけりゃ、

 かわいがってあげるんだけどねぇ」

淳一 「オレぁ 口は悪いけど 腹は黒いんだぜ

 エ」

美和子 「体中 まっ黒だわ」

若林 「(カルテを書きながら) ビリルビンが

 少し上がってるようだが、 私に任せておき

 なさい、 大舟に乗ったつもりで」

淳一 「あ、 それって 日本の病院の 悪しき慣習

 ですね。 患者は 自分で自分のこと決める 権利

 があるんですよ。 生きるも死ぬもねッ!

 (肩をそびやかす)」

(次の記事に続く)