(前の記事からの続き)
○河川敷・ 夕暮れ
淳一が ポチの遺体を埋める。
(横にはスケートボードが置いてある)
小さな板で作った墓。
墓碑銘 『死は訪れるものではなく 成就す
るもの』
淳一 「ポチの墓地 ……… なんちゃって ………
(淋しい笑い)」
美和子 「………」
墓に手を合わせる二人。
淳一 「ポチ、 よく、 最後まで生きたな ……」
墓碑銘 『死は訪れるものではなく 成就す
るもの』
淳一 「姉キ、 オレも 生き終わったときには
誉めてくれよな ……」
美和子 「だめよ、 あたしより先に 死んだりし
ちゃ ………」
淳一 「(スケボーに逆立ちして乗る) いいじ
ゃんか、 一人ぐらい 死んでもいいっていう
逆立ちした人間が いたって」
美和子 「『求めよ、 されば与えられん』 て
言うでしょうに」
淳一 「オレは 笑うときゃ笑って、 泣くときゃ
泣いて、 そのまんまで生きてるだけだよ、
それ以上望まないね」
美和子 「ジュン、 あたしなんかいつも “高望
み" して 生きてきたよ。 ねえ、 あたしが
高一のときの成績、 覚えてる?」
淳一 「すげえバカだった」
美和子 「ほとんど 下から数えたほうが 早かっ
たよ。 医学部行きたいなんて 誰も本気にし
なかった。 けど二年間 メチャクチャ勉強し
て、 合格したよ、 現役で ……」
淳一 「(逆立ちをやめて) 卒業するときは
上から数えたほうが 早かったな」
美和子 「いつも 先しか見てなかった」
淳一 「姉キには “明日" があるからだよ。
オレには “今" しかないんだもんね」
美和子 「その “今" が 長くなればもっといい
じゃない?」
淳一 「(スケボーを転がしながら) ある死刑
囚がさ、 刑の執行直前に、 もし今 自分が
自由になったら、 自分は残りの人生を 今まで
の十倍も百倍も 充実させて生きよう、 自分
は今まで なんて無駄な人生を 過ごしてしま
ったんだろうって、 心の底から悔やんだそ
うだよ。 その死刑囚が 放免になった。 彼は
その後 どうしたと思う?」
美和子 「伝道師にでもなった?」
淳一 「ブーーッ (ハズレ)。 それまでと同じ
ように、 だらだらとして 生きていったって
よ (スケボーを降りる)」
美和子 「………」
淳一 「じゃ、 いきますか (両手を開く)」
美和子 「………?」
淳一 「ポチの一生が 完成したことを祝って、
お手を拝借! イヨ~~~オッ !! (大きく
三三七拍子をする) もう一丁! (パパパン
パパパンと手を打つ)」
複雑な想いで 淳一を見る美和子。
美和子のポケットベルが鳴る。
美和子 「? ……」
(次の記事に続く)