(前の記事からの続き)
○ 苦しみ、 いとおしく
ある日、 心子はまた つまらないことでキレて、 電話で罵りました。
「私は三十六年間 ずっと苦しんできたの!
いつも死にたいと思ってた!
笑ってても心は泣いてるの!
そんなこと気付かないでしょ!?」
心子はボーダーの鋭さで、 どこを突けば 僕が一番こたえるか 分かっています。
こうした電話は 一時間二時間に及ぶことも 茶飯事です。
明くる日、 再度電話が来ました。
「あなたとは水と油。
あなたは 自分を大事にする人でしょ。
そうやって生きていけばいい。
「でもマーのことは 神様が必ず裁くわ。
マーに耐えられるかね。」
「私を失って マーが得られるのは、 自由と神の罰 ……。」
延々とした電話が ようやく終わって、 重罰から放免された気がしました。
一時間後、 再び電話が鳴り、 今度は心子は泣きすがってきました。
「真剣に愛してたのに、 どうして伝わらないの!?
神様は 私が愛したり愛されたりすること 許してくれないの。
あたし、 独りでやる。
マーは私のこと 忘れるんだろうね。
マーの一言で 体ボロボロになって、 心もボロボロになって……
腰が痛い、 足も痛い、
今までマーがもんでくれたのに、 もう誰ももんでくれない。
マーのこと、 ちょっとだけ恨むよ……
ほんのちょっとだけ……。
マーのこと、 大好きだよ……。
さよなら言うのよそう……
おやすみ……」
僕は泣けました。
心子はいつでも 全霊を懸けているのです。
怒りも悲しみもで 凄まじい力で襲いかかり、 心子の心は引き裂かれます。
(次の記事に続く)