9年ほど前の1999年に、まだ私が行政書士と通訳との二足のわらじを履いている時に、キューバに行く仕事がありました。そこで、とある行事が行われることになり、日本大使館の方々といろいろお話しする機会があった時の事です。
「うちからは、大使が出ますから、あちらからは最低、担当大臣は必ず出席しますが、問題はカストロが来るかどうかが、直前にならないと分からないのですよ・・・」
「担当次官のXXさんやXX省のOO次官でも知らないんですか?」
「ええ、大臣クラスでも、カストロが今どこで何をしているか知っている人はほとんど居ないようなのです。」
「えっ! 大臣クラスでもですか? それって何か理由でもあるのでしょうか?」
「ええ、何かその昔、CIAに暗殺されそうになってから、このように居場所を秘密にしているとのことで、聞くところによると昼夜の生活が逆転しているとの事です。」
実際、私もとある高官の方に「カストロさんは、いらっしゃるのでしょうか?」とこっそり聞いてみましたところ、
「少佐が、いまどこで何をしているのかは私達でさえも本当に分からないのですよ。」と、首をすくめられてしまいました。
こんな話を聞くと、何か陰湿で暗い感じがするものなのですが、そこはラテンのお国キューバです。皆さん、カラっとしています。どこかの北の方にあるお国のような怖さや陰湿さは全くありませんでした。
キューバは確かに、アメリカから経済封鎖され、頼みのロシアも今は全く頼りになっていないようなので、カナダ、スペイン、そして日本などと多国間外交を展開しているようです。しかし、それでもやはり経済的には相当苦しい状況のようです。
その一方で、超高級ホテルや立派なゴルフコース、豪華なフレンチレストラン(いずれも外資とキューバ政府との合弁事業か、国営企業です。)、或いは、外国製品なら一通り揃うドルショップ(勿論、ドルしか使えません。)などがあって、明らかな二重経済構造です。
しかし、医療システムは素晴らしく、かかりつけ医師が地域の病院に密に市民の健康状態を報告して、必要に応じて高度な専門病院に移送して貰えるシステムが昔からあるようです。医療レベルは想像以上に高く、心臓外科治療では世界的なレベルにあるのだそうです。
まあ、カストロさんも、未だにキューバのヒーローで多くの支持者は確かにいますので、彼の在任中に政権が変わることはないのでしょう。しかし、ポスト・カストロとなると・・・。タクシー運転手さんなどに聞いてみても、「ラウルではねぇ・・・」と、暫定議長の弟君ではなかなか難しいようです。
優秀な大使館の若い書記官氏曰く、「アメリカあたりでは、あそこはどこそこが管理し、そこから先はどこそこが管轄するとか、もう既にマップができあがっているようです。」とのこと。
キューバ議会の選挙のニュースを見ながら、暗視カメラを装備したCIAの特殊部隊の真夜中の進入に対して、髭面のカストロが猛然と反撃するシーンが頭に浮かんで、まるでハリウッド映画の世界のようだなと苦笑してしまいました。