行政書士中村和夫の独り言

外国人雇用・採用コンサルティング、渉外戸籍、入管手続等を専門とする26年目の国際派行政書士が好き勝手につぶやいています!

銀行という金融機関の謎! 中

2008-10-22 02:29:57 | 社会・経済

 前回の説明で、銀行という金融機関が極めて旨味のある商売であることがお分かり頂けたと思います。

 そんな、資金貸出機関として、魔法のような利益を生み出す構造システムである信用創造なるシステムを持った銀行ですが、自己資本比率では問題があるのです。

 ここでちょっと簡単に、自己資本比率についてご説明します。企業の財務状態を表す、資産、負債、資本などは、すべて貸借対照表、或いは、バランスシートと呼ばれる左右対称の表で表現されます。

 簡単に言えば、資産総額(左側)負債総額(右上側)資本金額(右下側)

となります。つまり、自己資本比率(%)資本金額含み資産額)÷資産総額×100 

或いは、 自己資本比率(%)=(資産総額含み資産額負債総額÷資産総額×100 となります。

 ですから、無借金の会社の自己資本比率は、100%という事になります。この自己資本の比率が高いと、当然ですが借金が少ない会社という意味ですから、経営が安定していることが、貸借対照表で判断できます。ちなみに、含み資産とは、1万円で買った株が、今現在3万円の取引価格がある場合、換金すれば2万円の資産が別途あることになります。この部分を含み資産といいます。土地などの不動産資産でも同じです。しかし、これが逆の場合、例えば1万円で買った株が、今現在5千の取引価格であるとすると、5千円の含み損があることになります。

 ところで、世界の銀行間の国際的な支払いを決済するための銀行として国際決済銀行という、公的な銀行があるのですが、その銀行と直接取引できる銀行の条件として、自己資本比率が8%以上なければいけないといったルールがあります。それが満たせない銀行は、別な銀行を経由して、国際的な支払いの決済をしなければなりません。つまり、信用が無いので国際取引は直接出来ませんと言われているようなものです。

  さてここで問題なのが、貸し出したお金の貸借対照表(バランスシート)上での分類です。銀行が預金者から預かっているお金である預金額は、バランスシートでは負債です。更に詳しく述べれば、預金額+信用創造によって生まれた預金額(貸出額-準備金、と同額)は、負債額に加えられ、日銀へ積んだ準備金+融資残高(貸出額)は、資産額へ加えられます

 このように、銀行の本来の業務であるある筈の貸出を増やすと、銀行の負債額が極端に増えてしまいます。従って、前述した自己資本率を下げないようする為に、銀行は貸出では無く、別な方法で、預金者から預かった預金の運用を行おうとします。例えば、取引先の株式(含み益が出ている株式が多いが、逆に損失が出ている株式などもある)の保有、国債などの債券の保有、土地建物などの不動産の保有、他銀行への一時的な貸出、そして運用益が良いと思われる金融商品等々の購入など、これらを複合的保有し、運用しているようです。

 そこで、更に今回の事態のように、含み資産を期待して保有していた金融商品や不動産などが暴落するとどうなるでしょうか! そう、銀行の自己資本率が大きく下がってしまうのです。そうなっては、銀行は信用問題どころか、輸出入企業との取引ができなくなってしまいますから、何とか自己資本比率を維持しようとします。そこで、銀行本来の業務である筈の貸出を急激に減らすことで、何とか自己資本率を上げようとします。また、国内外から急遽出資者を募集して増資なども行い、必死に自己資本率を上げようとします。それでも、駄目な場合、最後の切り札として、財務省や中央銀行にお願いに行きます。そして、議決権のない優先株(但し、配当や清算などの分配では優先権があります。)を大量に一時的に買って貰うことで、何とか国際決済が出来る銀行として生き残ることができるのです。この状態が、今現在のアメリカやヨーロッパの主要大銀行に起きています。日本の都市銀行も、かつてはすべての銀行がこういった形で、政府からの資本を受け入れていたのでした。

 ところで、銀行は、預金者が当座預金であれば金利はゼロですし、一般の普通預金でも金利は低いですから、国債や財務省証券などの債券や他の金融機関の定期預金でも、運用利率が多少良ければ、かなりの資産額を増やす事が出来ます。場合によっては、貸出に回すより、こういった債券や定期預金、或いは、更に利益が望める有価証券とか金融商品などで運用し、含み益が出せれば、手間が掛からない上に貸出などをするよりも、確実に利益を生み出し、かつ、自己資本比率を下げることなく儲けることが可能となります。

 昔々、ある銀行にお勤めの方が、”預金者から預かったお金を、面倒な貸出などをせずに、利回りの良い別の預金で運用すれば、支店も少なくて済み、もっと儲かるのに”と、真顔を言っていたのを思い出しました。これでは、銀行は、本来の業務である経済活動の血液供給機関としてと機能を放棄することになってしまうのです。でも、世界的には、銀行は貸付機関としてよりも資金運用機関としての機能が肥大化しているのです。

 それでも銀行の運用が上手く行き、その分を貸出資金として回してくれれば良いのですが、現実はそうではありません。今回のように、巨額な損失を出してしまい、自己資本比率を大幅に下ける結果となることもあるのです。そうなると、貸出額を下げることで、自己資本比率を大幅に下げさせないような行動に出ます。これが、昨今の銀行による貸し渋りや貸し剥がしが起こる最大の原因なのです。

 しかしながら、産業界は、銀行から各企業へ血液としての資金を提供して貰わなければ、経済活動を阻害するどころか、血液である資金を止められるような事になれば、企業は黒字でも、血液である資金繰りに行き詰まって心肺停止、すなわち倒産してしまう可能性さえもあるのです。従って、国は、やむを得ず、強制的に銀行に資本を注入して、自己資本比率を引き上げて一定率を維持させることにより、銀行の各企業への貸出しを促す環境を政策として作らざるを得ないのです。こういった事を、今アメリカをはじめとする欧米諸国や世界中の財務当局と中央銀行が連携して、行っている政策なのです。日本も、銀行間の資金に滞りがないようにと、銀行間の資金の融通市場である短期資金市場に、莫大な外貨資金などを、特に安いレートで連日供給しています。但し、主な日本の銀行などの金融機関では今回、幸いなことにサブプライムが組み込まれた金融商品はさほど大量に出回ってはいなかったのです。しかし、大銀行は関連取引先である欧米の金融機関の株式や債券を大量に保有していますので、やはり、自己資本率は下がっています。今後、日本政府が銀行の貸し渋りや貸し剥がし状況を見て、どう判断するかが注目されるところです。

 以上のように、銀行本来の貸出業務を増やすことが出来なくなっている銀行という金融機関に、経済活動の血液である資金を依存している産業界は、今後もこのままの状態で放置して本当に良いものなのでしょうか?これについては、更に次回でお話したいと思います。

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コメント (3)
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