銀座で、イヴ・サンローランという映画を見ました。彼が、ゲイであることは知っていましたが、これほど凄いデザイナーでアーティストであった事をこの映画を見て始めて知りました。
18歳からクリスティアン・ディオールのメゾンのアシスタントとして働き始めて、僅か21歳でフランスの国宝的なデザイナーであったファッション界の帝王ディオールの後継者として指名されたイヴ・サンローランという天才デザイナーは、兵役不適合という障害でその栄光の座から一気に引きずり下ろされて行ったのでした。
しかし、彼のパートナーであるピエール・ベルジェという男によって、不死鳥のように新たな彼自身のブランドを立ち上げて行くのです。それが、イヴ・サンローランというブランドの誕生の経緯なのです。
イブ・サンローランというブランドを共に作り上げたピエール・ベルジェというパートナー兼経営者にとっては、天才デザイナーであるイヴ・サンローランと共に歩んで収集した二人三脚の人生の思い出の品を処分するという葬儀、つまり、数多くの絵画、彫刻などの世界的な超高価なコレクションの数々を、クリスティーズという華やかなオークションという世界を通じて手放すというドキュメンタリー的な映像を通じて、華やかに見えるファッション界の新帝王イヴ・サンローランという天才デザイナーの素顔の歴史と終焉を描いてみせてくれたのこの映画の手法は私にとっては実に新鮮でした。
また、この映画では、オートクチュールという一見華やかで優美で甘美な世界の中で、彼等が創造性を維持し続けるということは、実は苦悩の連続ばかりであったというサンローランという天才デザイナーの人生の道程を、実に見事に描いて見せてくれた素晴らしい作品でもありました。
一方で、本田宗一郎と藤沢武夫によるホンダの経営哲学を描いたような経営哲学をも描いてくれた一作品のようでもありましたし、オートクチュールという世界で生きる人々の知られざる側面を描いてくれた作品でもありました。
そして最後には、引退したイブ・サンローランを描くばかりでなく、一部巨大資本によって商業化されつつある昨今のファッション業界を痛烈に批判している主張のある作品でもありました。
機会があれば、是非ご覧頂きたいと思う心に残る作品でした。