派遣労働者の解雇については喫緊の社会問題としては何らかの対応をすべきだとは思いますが、感情的な報道や意見が多いことにちょっと違和感を感じています。
一過性な同情論や企業悪者論では解決にならないように思います。
派遣契約の打ち切りなどにについても既に厚生労働省の指針があるので末尾に備忘のために引用します。
派遣契約のややこしいところは、派遣社員は派遣会社との契約に従って派遣先企業で就業するわけで、派遣先企業は個々の派遣社員と直接の契約関係にない、という点にあります。
したがって損害賠償や契約解除の理由説明も派遣スタッフに対してでなく派遣会社に対して行うことになります(指針6(4)(5))。
つまり契約上は派遣スタッフに対しては派遣先企業は債務はないわけで(職場環境の維持などの義務はあるけど)、確かにいきなり生活の糧を失うということに対して
は何らかのセーフティネットが必要だとは思いますが、それは直接には派遣先企業の責任ではない、とういうことになります。
行政は早速対応を始めています。
派遣切り住宅相談、初日は1267件(2008年12月16日(火)13:16 朝日新聞)
地元メーカーから派遣契約を切られた人向けに住宅の提供を行う自治体も出はじめたようですが、好景気のときは税収入で潤ったという部分もあるわけで、緊急対策というだけでなく、人々が働きやすく企業も進出しやすい政策を取る自治体は長い目で見れば競争力を持つことになると思います。
ちょっと気になるのが、契約打ち切りをする企業だけクローズアップされていて、派遣会社のコメントが被害者風なところ。たとえばこんなやつ
派遣切り:救えないのがつらい…派遣会社社員が苦悩訴え
(2008年12月16日 毎日新聞)
仕事をもらう派遣会社の社員としては、メーカーに声を上げることもできない。社員は「路頭に迷う労働者を救えないのがつらい。すごく切ない」と打ち明けた。
社員は「メーカーは今まで安い賃金で大もうけしたのだから、その分を派遣労働者に返してほしい。せめて安心して働かせてやってほしい」と話した。
安い賃金から寺銭を取っていたのは派遣会社じゃないんですかね?
しかも「仕事をもらうから強いことがいえない」というのであれば、ほとんど口入稼業と同じと言ってるようなものではないでしょうか。
指針にもあるように契約期間中の解除は派遣会社に対して損害賠償がされるのですから、逆に期間内解約についてはきちんとペナルティを取って(今まで儲けさせてもらった)派遣スタッフに還元するというのが派遣会社の示すべき姿勢なのではないでしょうか。
ただ、前のエントリで引用した高木・連合会長のように正社員と同等の権利を主張するのも無理があると思います。
指針も一方で、派遣労働の提供により常用雇用者の雇用が損なわれないようにとの配慮も求めていますし(指針15)。
全体のパイ(=売上や利益)が減っている名から人を減らさないとすると正社員も含めて給与水準を下げるとかワークシェアリングを導入する必要があります。
でも、派遣の雇用を維持するために正社員の給与を下げる、というのは(連合も含め)正社員の納得が得られないと思います。(正社員でいることでの我慢だってあるんだ、という話も出てくるでしょう。)
また、企業に対しても「契約打ち切りはけしからん」と叩くだけでなく、たとえば「指針どおりの30日前予告でなく、年末年始が入る事も考えると45日~60日くらいの猶予を」くらいの受けられるかもしれない球を投げたほうがいいように思います。
「気の毒」「かわいそう」という同情論は月日がたってニュースとしての新鮮味がなくなるにつれ「当初から承知されたリスクのはず」「派遣労働者が現に失業している人より優遇されるのはおかしい」「自助努力が足りない」という自己責任論に容易に変化しがちだと思います。
正社員の求職希望と求人希望のギャップをどう埋めるかという雇用政策(これはつきつめると雇用の流動化、年功賃金・終身雇用を前提とした退職金優遇税制や企業年金制度の見直しにつながる可能性もあり、それが本当にいいのかという議論にもなると思います)と、失業した場合のセーフティネットの問題として深堀りした分析が必要だと思います。
それに何より景気対策が重要です。
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派遣先が講ずべき措置に関する指針
(平成11年労働省告示第138号)(最終改正平成19年厚生労働省告示第50号)
6 派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
(1) 労働者派遣契約の締結に際して配慮すべき事項派遣先は、労働者派遣契約の締結に際し、労働者派遣の期間を定めるに当たっては、派遣元事業主と協力しつつ、当該派遣先において労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を勘案して可能な限り長く定める等、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な配慮をするよう努めること。
(2) 労働者派遣契約の解除の事前の申入れ派遣先は、専ら派遣先に起因する事由により、労働者派遣契約の契約期間が満了する前の解除を行おうとする場合には、派遣元事業主の合意を得ることはもとより、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行うこと。
(3) 派遣先における就業機会の確保派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。
(4) 損害賠償等に係る適切な措置派遣先は、派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとし、これができないときには、労働者派遣契約の解除を行おうとする日の少なくとも30日前に派遣元事業主に対しその旨の予告を行わなければならないこと。当該予告を行わない派遣先は、速やかに、当該派遣労働者の少なくとも30日分以上の賃金に相当する額について損害の賠償を行わなければならないこと。派遣先が予告をした日から労働者派遣契約の解除を行おうとする日までの期間が30日に満たない場合には、少なくとも労働者派遣契約の解除を行おうとする日の30日前の日から当該予告の日までの期間の日数分以上の賃金に相当する額について行わなければならないこと。その他派遣先は派遣元事業主と十分に協議した上で適切な善後処理方策を講ずること。また、派遣元事業主及び派遣先の双方の責に帰すべき事由がある場合には、派遣元事業主及び派遣先のそれぞれの責に帰すべき部分の割合についても十分に考慮すること。
(5) 派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行う場合であって、派遣元事業主から請求があったときは、労働者派遣契約の解除を行う理由を当該派遣元事業主に対し明らかにすること。
15 労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間に係る意見聴取の適切かつ確実な実施
(2) 派遣先は、過半数組合等から、労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間が適当でない旨の意見を受けた場合には、当該意見に対する派遣先の考え方を過半数組合等に説明すること、当該意見を勘案して労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間について再検討を加えること等により、過半数組合等の意見を十分に尊重するよう努めること。
16 雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストへの派遣労働者の受け入れ
派遣先は、雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストに、当該解雇後3箇月以内に派遣労働者を受け入れる場合には、必要最小限度の労働者派遣の期間を定めるとともに、当該派遣先に雇用される労働者に対し労働者派遣の役務の提供を受ける理由を説明する等、適切な措置を講じ、派遣先の労働者の理解が得られるよう努めること。