一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』

2010-10-28 | 乱読日記
ホリエモンが「金で買えないものはない」という発言で非難を浴びたのは何年か前でした。

その発言自体は字義どおりに読めば、交換手段としての貨幣の定義そのものを表現しているだけなので100%正しいのですが、多くの人はその裏にある「だから金を持っている奴ほど偉いんだ」という含意に反発したわけです。

ここには昨日取り上げた『これからの「正義」の話をしよう』での論点でもあった、「社会制度についての議論はその制度が称え、見返りを与える美徳について論じることだ」という側面が現れています。

つまり、金を持っていれば買える物が増える、というそれだけであれば当然の世の中のしくみについても評価の問題がかかわってくる、「まあ、金を持ってりゃいろんなものが買えるよね、それで?」とスルーできないのが人間だということです。

でも一方で、その後の株高やFXブーム、一方で景気上昇から下降局面での一貫した格差問題・非正規雇用の拡大などもあり、かえって資産形成の本や「成功」するための自己啓発本が増えてきたように思います。


その中で、投資や資産形成に関する著作で有名な橘玲氏が、自己啓発本への違和感から書いたというのが本書です。


書名には「たったひとつの方法」とありますが、自己啓発本の言うような万人に共通のゴールや手段はない、ということを強調しています。
冒頭と最後に結論の方法論めいたこと言っているのですが、本書で大事なのは「人生についての考え方万人に共通の「成功」の尺度はない」「金はあったほうが一定の自由は確保できるがあくまでも手段であって目標ではない」「人によって出来ることと出来ないことが違うのは当然で、自分の出来ることが評価されるような生き方を選ぶべきだ」というものの見方であり考え方なんだと思います。

途中、スティーブン・ピンカー『人間の本性を考える』とか山岸俊明さんの安心社会と信頼社会の話などを中心に、そのほかもいろんな話を引き合いに出して話が広がりすぎてしまうのですが、それはそれとして(ちょっと強引なところもあるけど)なかなか面白い部分ではあります。


じゃあ、どうすればいい、というところは一応総論的には書いてあります。

ただ、それを具体的に強調しすぎるとこれも自己啓発本のひとつになってしまうので、自分で考えよう、ということでしょう。


くしくも『これからの「正義」の話をしよう』の副題が「いまを生き延びるための哲学」です。
本書のタイトルも編集者と相談してつけたのではないかと思いますが、このタイトル自体が現在の日本の状況を象徴しているようにも思います。




コメント
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