一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

追い出し規制法案

2011-01-08 | 法律・裁判・弁護士

木曜日の朝日新聞追い出し規制法案はまだか 民主迷走で宙に 被害続く を読んであれっと思ったのは以下のくだり。  

消費者センターに紹介された弁護士の仲介で、催促の電話は止まった。だが、弁護士が、法律ができれば深夜の取り立てや一方的なカギの交換は禁止されると説明すると、保証会社の担当者は「まだ法律、成立してないんでしょ」と開き直ったという。  

鍵の交換などの自力救済は今でも違法なのに、(新聞記者用のコメントならともかく)こんな説得をする弁護士(とそれを紹介する消費者センター)も問題なんじゃないでしょうか。  

この記事は、一応家主側の反論も載せていますが、家賃保証業者の苛酷な取立てについて規制する法律を作ろうという話が昨年出たままたなざらしになっているなかで早期成立を促すというトーンです。  

そういえば法律案自体は読んだことがないので、この機会にざっと読んでみました。  
「賃借人の居住の安定を確保するための家賃保証業の業務の適正化及び家賃等の取立て行為の規制等に関する法律案」(長い・・・)  

法律の内容としては大きく 

① 家賃債務保証業者を登録制にし、行為規制を定める 
② 家賃等弁済情報提供事業者(滞納情報などのデータベースを作成する事業者)を登録制にし、行為規制を定める 
③ 家賃等の不当な取立て行為を禁止する 

の3つです。  

①については、僕は家賃保証業者の自業自得なのでやむなしという感じがします。  
そもそも家賃保証業のビジネスモデルは保険業やクレジットカード事業のようなもので、滞納率より高い保証料を設定することで儲けるしくみになっています。滞納は(契約者の属性が偏っていないとすれば)量的拡大をすれば大数の法則が働いて平均値に近づくので、収益も安定します。 
しかしこのビジネスは保険やクレジットカードと違って、自分からは貸主に対し賃貸借契約を解除できない(賃借人でないから)し、借主に対しては金銭債権を持つだけなので「賃貸借契約を解約しろ」とも言えない(契約条項にあるのかもしれないけど当然には賃貸借契約は終了しない)ので、借主がずるずる滞納をしながら物件に居座った場合、自らが負担する家賃の上限が決まらないという問題が構造的にあります。(最近の契約がどうなっているかは知りませんが)  
なので、力ずくでもまず賃貸借物件から追い出して賃貸借契約を終了させて出血を止めよう、という乱暴な輩がでてくるわけです。 

これは、ビジネスモデルの不備を自力救済で埋め合わせしようということですから同情の余地はありません(住宅を借りるときに連帯保証人が必要、という慣行と保証業者の存在意義は別問題として)。
なので登録制になっても身から出た錆なので仕方がないとは思います。 

ただ、行政の肥大化の観点からは登録制にしなくても現行法でも違法行為は取り締まれるし、その中で適法な取立てと不法行為・刑事犯に当たるようなものの判例を蓄積していけばいいので消費者庁とかの仕事にすればいいとも思います(消費者センターが紹介する弁護士が冒頭のような役立たずだと困るんだですが。)。


②については実効性があるのかな、というのが第一印象。   

ブラックリストが出回ることで、住宅を借りられなくなる人が増えることを懸念しているのでしょうが、そもそも③で一般の家主の滞納者への督促にも制約をつけるということは必然的に入居時の審査の強化につながるわけで、そこも絞るとすると家主のほうは代替手段をとることになると思います。  
たとえば法律では業者への家主などからの情報提供において借主の同意を必要としていますが、ブラックリストを充実させるのでなく「優良顧客リスト」(ホワイトリスト?)を作ってそこに載らない人には貸さない(貸すにしても敷金が高くて定期借家限定とか)という形の選別をするとか。 
この手のブラックリストとか優良顧客の選別というのは、クレジット会社とかオークションサイトとかネット通販などでもやっている話だし、銀行やクレジットカード会社は信用情報を共有しているわけで、家賃滞納者の情報だけ規制するのは合理的でないと思います。  


③特に、話題になっている「追い出し規制」の部分はこのような条文になっています。   

第61条 家賃債務保証業者その他の家賃債務を保証することを業として行う者若しくは賃貸住宅を賃貸する事業を行う者若しくはこれらの者の家賃関連債権(家賃債務にかかる債権、家賃債務の保証により有することとなる求償債権に基づく債権若しくは家賃債務の弁済により賃貸人に代位して取得する債権またはこれらに係る保証債務に係る債権をいう。以下この条及び第63条において同じ。)を譲り受けたもの又はこれらの者から家賃関連債権の取立てを受託した者は、家賃関連債権の取立てをするに当たって、面会、文書の送付、はり紙、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。  
一 賃貸住宅の出入口の戸の施錠装置の交換又は当該施錠装置の解錠ができないようにするための器具の取付けその他の方法により、賃借人が当該賃貸住宅に立ち入ることができない状態とすること。  
ニ 賃貸住宅から衣類、寝具、家具、電気機械器具その他の物品を持ち出し、及び保管すること(当該物品を持ち出す際に、賃借人又はその同居人から同意を得た場合を除く。)  三 社会通念に照らし不適当と認められる時間帯として国土交通省令・内閣府例で定める時間帯に、当該時間帯以外の時間帯に連絡することが困難な事情その他の正当な理由がある場合を除き、賃借人若しくは保証人を訪問し、又は賃借人若しくは保証人に電話をかけて、当該賃借人又は保証人から訪問し又は電話をかけることを拒まれたにもかかわらず、その後当該時間帯に連続して、訪問し又は電話をかけること。  
四 賃借人又は保証人に対し、前三号のいずれか(保証人にあっては、前号)に掲げる言動をすることを告げること)。   

罰金もあります  

第73条 第61条の規定に違反した者は、ニ年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。  

太字のところに注目すると、行為制限はあくまでも「家賃関連債権の取立てをするに当たって」なので、契約終了に伴う明渡請求はこの法律の適用外のように読めます。 
そうすると、定期借家の終了や契約解除に伴う明け渡し請求であれば規制外になるかもしれません。 
ただ、このへんを実効性のあるたてつけにするには契約条件厳しくなりそうです。  

不動産は公共財という性格もあり、また、住居というのは文化的な生活の大前提でもあるというのはわかりますが、それについて民間の家主に過度にリスク負担を強いると、上の例のように大多数のまともな借家人への悪影響が出たり、かえって限界的な経済状況の人が借りることができなくなったりするように思います。

「追い出し屋」被害根絶のための法規制とともに充実した住宅政策の実現を求める宣言でも、追い出し規制法の制定の要望とともに

3 低廉な家賃額での公営住宅の供給増大を図り、低所得者層への賃貸住宅の供給を 整備すること。 公的な保証人制度を設けること。

4 監督官庁は、ハローワークや地方公共団体などとの連携を図り、 住宅確保困難者の相談体制を確立すること  

と言っています。  

法律の成立を急ぐ前に、経済的困窮者に対する住居の提供にあたって、普通借家の借家権や今回のような督促の制限という形の保護が本当に最適なのかを議論すべきように思います。

コメント
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