一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『日本の統治構造』

2011-01-18 | 乱読日記

たまたま著者の話を聞く機会があったので事前に読んだのですが、かなり面白かったです。
それもそのはずで本書で著者はサントリー学芸賞と吉野作造賞を受賞しています。

著者は戦後日本の統治構造の特徴を官僚内閣制と政府・与党二元体制として性格づけています。
これは民主党政権のいう脱「官僚主導」のような抽象的な話でなく

・官僚が政策の骨格を作る
・その際官僚は業界や地方自治体との補助金や機関委任事務を通じて社会応答性を確保するとともに各省間の総合調整を行う
・一方で自民党政権は与党の中でも政務調査会・総務会を通じて法案審議を行う
・官僚は与党も根回しの対象のひとつとして政策形成を行う
・自民党議員は党としてでなく個人として選挙を勝ち抜き、党内の会合を通じて勉強をし「族議員」になるというキャリアを積む。選挙では党としての具体的な政策を選挙民に問うことはない(中選挙区制においては特にそうだった)
・一定の当選回数を経た議員は大臣ポストにつくが、政府としての政策決定は官僚が骨格を作るので大臣としては乗っかっていれば良い
・その結果、頻繁な内閣改造とポストの派閥間のたらいまわし、論功行賞人事が可能になる
・その結果「省庁代表制」ともいうべき政策形成がなされる。これはきめ細かいが大きな枠組みを変える政策は生まれない仕組みである。

という構造として詳細に論じています。

本書が書かれた2007年の時点で、既に80年代からの政治・行政改革、選挙制度改革の流れから小泉改革にいたる中で政府・与党の二元体制が変質し、政権交代を伴う議院内閣制が実現するのではないかという展望をしています。

なので民主党への政権交代に触れていなくても、戦後日本政治、立法と行政の関係や議院内閣制について頭の整理ができる有意義な本だと思います。


で、著者である飯尾氏の講演。

政権交代は比較的早く実現することになったのですが、著者にしてみると民主党政権自体が政権交代の準備ができていないままに政権をとってしまったので、著者の理想とする「政権交代を伴う議院内閣制」にはまだまだ道は遠いという感を持っているようです。

飯尾氏は戦後の高度成長期との大きな違いとして、高度成長期は税収が拡大し財政に余裕があったし、欧米先進国の政策を輸入しモディファイすれば対応できたのに対し、現代の低成長下においては財政に制約があり、しかも日本が課題先進国になっているので政策を輸入するだけでは対応できないという現状認識を持っています。
このような状況下では、従来の延長上の利益配分をして皆がそこそこハッピーな政策を積み上げと調整で作ることはできず、何を得る代わりに何を負担するかというトレードオフを明確にした政策が必要になります。

そしてそのような政策決定をするためには、従来の「官僚内閣制、政府・与党の二元化」の枠組みに基づく「物事を大きく変えることができない」政策形成過程は有効でなく、政権交代を前提に争点を明確にして政党が選挙を争い、国民によって選ばれた政権という正統性を背景に政策を実施することが必要になります。

しかしながら、民主党のマニフェスト自体も未成熟なものですし、しかも、いきなり鳩山総理が辞任して党内の代表選挙で(国民に選ばれたわけでない)菅総理に代わるなど、「国民に選ばれた政権」という正統性を自ら崩していると批判します。

「リーダーは作るものでアホでも党として支えればいい」
「小選挙区制になって、個別の候補者がどんなにがんばっても党首がダメだとダメなんだからみんなで支えないといけない」
「政策実施には正統性を持った権力核が必要なのだから、トップがつまらないことでコロコロ替わってはダメ。」
「鳩山氏も菅氏も自民党政権時代の『政局』を念頭に置いた『一騎打ち』幻想から抜け出ていない。」

など歯に衣着せぬ話はなかなか面白かったです。

 

 

コメント
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