海外に行って見慣れない形状の橋や建物を見たときに役に立つのではと思い衝動買いしたまま積読していたものを、 今回中国行きの機中のお供に。
建築家内藤廣氏の東京大学での同名の講義をまとめたものです。
書名からは、構築物はそれが大型化・高層化するほど複雑な構造計算に依存するようになり、結果最終的な形状にはそれぞれ理由があるんだ、ということを説明する、いわばバウハウス的な「形状は機能に従う」内容かと思っていたら、いい意味で裏切られました。
コンピューターによる構造計算技術が飛躍的に進歩した結果、それがブラックボックス化してしまい、昔の手計算をしていた時代のように様々な段階でチェックが効かなくなった、一方で建築家・エンジニアが構造全体に対する想像力を持たなくなりつつあることへの危惧を語ります。
工学的な知識を土台にして、どのようにすれば物質に対する感性を磨けるか、どのようにすれば構造全体に対して想像を巡らせることが出来るか。そうしたことがこれから重要になってきます。極論すれば、これらを欠いた人は、エンジニアになる資格がない。もちろん、建築家になる資格もありません。
恐らくみなさんが将来抱えるはずの大問題ですが、現場でモノをつくっている人達のノウハウが急速に落ちています。人材不足、ある種、現場の空洞化が進行しつつあります。現場が何とかしてくれる、メーカーが何とかしてくれる、なんていう幻想は捨てたほうがいい。だから、設計者の技術に対する認識や知識が中途半端でいい加減だと、必ず現場で問題が起きます。特に高度な技術を駆使する場合は、設計者がちゃんとした知識を貯え、より綿密に現場を監視する必要があります。
本書では、石による組構造、鉄、コンクリート、木造と素材ごとの特徴と使われ方、代表的な建築物について解説していきます。
最後には最前線の動向についても触れています。
ただいわゆるポストモダンの建築物については、著者は批判的です。
今はコンピューターを使ってあれもこれもできるという、謂わばテーブルの上に全部広げて食い散らかしている状態です。構造はコンピューターというテクノロジーによって生み出された余剰を蕩尽している状況、つまりバブルと言えなくもありません。そこではデザインそものもがその余剰に振り回され、方向性を見失っているのです。構造デザインは、コンピューターのさらなる進化によって、より多様化の方向へ向かうのか、それともさらに次元の高いパラダイムへと収束していくのか、いまだに予測が立っていません。
2008年出版の本なので絶版になっているかと思いきや、まだ買えるようなので、建築に興味のある方は手元に置いてもいいと思います。