昨日の『構造デザイン講義』でもいくつか取り上げられていたこともあり、北京では万博、オリンピックを契機にここ10年世界中から建築家を集めてデザインを「食い散らかし」ている中国の普請道楽ぶりを見ようと、渋滞の中急ぎ足で回ってきました。
オリンピックのメインスタジアム「鳥の巣」
設計はスイスの建築家ユニットヘルツォーク&ド・ムーロン。
プラダ・ブティック青山店の設計者でもあります。
(ちなみにプラダ・ブティック青山店の外壁のガラスは1枚1000万円したとか)
『構造デザイン講義』によると
中国というのは変わった国で、設計がそこそこ見えてくると、中国設計院という国の設計事務所のような機関が出てきて、色々と調整をし、場合によっては、後は自分たちでやるから結構です、ということになるらしい。ちなみにヘルツォークは、その段階で鉄骨量を20%以上減らすように命じられたという話を聞きました。・・・まあ、建築というのは、巨大になればなるほど色々な思惑や事情が混ざりこむものですから、こんなことは日常茶飯事です。問題は、非常に高度な構造であった場合、それをものづくりのレベルまでフォローアップしなくて大丈夫なのか、ということです。全体の系やロジックが分かっていないと思わぬことが細部で起きてくる、ということもあるからです。
ここは依然として観光名所になっています。
修学旅行のような団体旅行が多かったですが、中国はとにかく敷地が広いので夏場はたどり着くだけで疲れてしまいます。
中国人も暑がっていたので、日本人がひ弱なわけではないとちょっと安心。
「鳥の巣」の構造材を下から見るとこんな感じ。
この銀色の柱は、鉄骨(多分)の上に金属のパネルを張ったもので、近くで見るとちょっとペナペナ感があります。
あと、この写真は階段を降りるところで撮ったのですが、階段面の水勾配がうまく取れていないようで、水溜りがいくつかあったのが気になりました。(だから日本人は細かいと言われるのかもしれないが・・・)
この近くにあるのが国家水泳センター、通称「水立方」。
オーストラリアのPTWアーキテクツの設計。
これも『構造デザイン講義』によると
最近流行っている手法です。ボックスのようなものをつくり、それを泡のようなスポンジ状の構造で構成するというビジョンを立てる。そこに働く応力に対して解析を掛ける。応力が集中しているところは泡のユニットを小さくし、あまり応力が働いていないところは泡を大きくつくり、応力に従ってこの泡を増やしたり減らしたりしてこういう構造体を構築するのです。
建物内部には競技プールのほかに一般市民向けのウォータースライダーもあって、見学客以外にもプール利用の人もけっこういました。
「泡」ですが、近くで見るとこんな感じ
内側と外側に鉄の部材で泡の骨格をつくり、それを透明のフィルムで囲んでいます。
遠くから見るぶんにはいいのですが、近くで見るとフィルムの汚れが気になります。
だから日本人は細かい、とまた言われるかもしれませんが、メンテナンスも考えた素材にできなかったものでしょうか。
鳥の巣と水立方は建物としては「隣」なのですが、ものすごく広い通りを挟むので、行き来だけで一汗かきます。
この通りは、故宮・天安門広場を貫く南北軸の延長上にあるとのことです。
こういうシンメトリー、大通り、というのは北京の特徴でもあります。
その代わりに建物は何でもありなのでしょうか。
「何でもあり」度合いが特に強いのが中国中央電視台(国営テレビ局)のビル。
独特の形状が威容というより異様です。
イサムノグチの彫刻「エナジーボイド」を建築にしてしまったかのような感じ。
『構造デザイン講義』の時は計画段階だったようです
二本の巨大な超高層が上空で結び合っています。巨大なキャンティレバーです。でき上がると、人目を驚かす威圧的な建物になるのではないかと思います。外壁に入っている斜めの線は、力学的な解析で密度が決まっています。
ただ、内藤先生は
国家の企みと建築家の野望が手を取り合った共犯関係であることがあまりに明白で、見ていてこちらが恥ずかしくなります。
と手厳しいです。
実際近くではものすごい威圧感ですし、ビルの合間から見えるだけでも独特の存在感があります。
「共犯関係」はかなりの成功を収めているといえます。
ただ、天安門広場の近くにある都市計画博物館(というような意味の名前でした)に行くと、まだまだ派手な建物が出来るようです。
右端の∩型の建物はまだ出来ていないのですが、さすがにやりすぎ感があります。
また市街地中心部の建物を忠実に再現した巨大なジオラマもあります。
これは見学者の市民向けだけでなく「ウチのビルはもっと派手にしろ」と施主の競争意識を煽る効果もあるのかもしれません。
上のほうにある茶色いところが故宮です。
この都市計画博物館というのは主要都市には必ずあるようで、意気込みが伝わって見所ではあります。
北京国際空港ターミナル
これはノーマン・フォスター。
大屋根は鉄骨を複雑に構成させています。 平面図はターミナルは曲線で構成されているのですが、中央の軸線は故宮をイメージしたかのような列柱とシンメトリーが特徴です。
ターミナル間のシャトル乗り場からの景色
シンメトリーに配された柱を赤く塗るあたり、コンペ向けに媚びた感じもしますが、外国人旅行者にとっては北京らしさが出ているようにも思えます。
最後は、今回泊まったホテルThe Opposite House。
(写真拝借)
設計は日本の隈研吾。
"the opposite party"もない国で"opposite house"とは刺戟的と思ったのですが、中国古来の家作り形式「四合院」で居住部分の反対側にゲスト用の部屋を作ったことにちなんだネーミングだそうです。
ちなみに中国語表記は「瑜舎」。「瑜」とは美しい珠という意味のようです。
エントランスロビー
レセプションカウンターがなくレジと情報端末があるだけ。
ソファーに坐ってチェックイン/アウトをします。
ホール
オブジェの奥がレストラン。
他に地下にイタリアン・レストラン、バーも1Fと2Fにあります。
地下のトイレ
奥が小用。用を足しているとそのまま宇宙船に連れて行かれそう。
はたまた軽井沢星のやのメディテーション・バスか。
室内も凝っています。
浴槽がカーテンの仕切りだけでオープンスペースにおいてあります。
お湯がはねないか、あふれないかと気になるのは小市民の証拠w
また、シャワーブースも別にあるのですが、床面の高さが変わらないので水が染み出してきます。
思わずタオルで拭いてしまったところも小市民w
全体的に木を多用していることもあり、メンテナンス費用がかさみそうです。
当日もロビーの裏手の入り口のフローリングを張り替えていました。
また、競合が出てくる中でいつまで話題性を保っていられるかがポイントになりそうです。
以前聞いた「金持ちがホテルを持つことはあるが、ホテルを持って金持ちになった奴はいない」(オペレーターは儲かるかもしれないが)という言葉を思い出してしまいました。
日本もバブル期には外国人建築家の実験場みたいになったわけであまり他人のことは言えませんが、さすが中国、その部分まで日本を凌駕しています。