良書。
年金・社会保障制度と税(所得税=国税、住民税=地方税、消費税)の仕組みと関係を網羅的にかつ分かりやすく説明した上で、その課題・問題点を一体的に論じています。
特に予備知識がなくとも読むことができ、問題の全体像を理解することができます。
今後なされる(はずの)税・社会保障の一体改革の議論を理解するためにはぜひ読んでおいたほうがいいと思います。
著者の指摘によると、現行制度の大きな問題点は
① 社会保険料の負担と受益の対応関係が希薄化している
特に制度間の所得移転(=自分の払った保険料のうち少なくない部分が他の制度に回っている)や国庫負担(=間接的に税金として負担している)によって資金の流れがきわめて複雑で、国民に実感も納得間もない。
② 制度が分立し、それぞれに加入条件の制約があること、また国庫負担投入のひずみにより、低所得者層の社会保険料負担が重くなっている
社会保険料には控除も累進税率もなく、国民年金は定額負担であり、国民健康保険は他の制度のセーフティネットにいなっている分保険料も高く市町村格差も大きい。
③ 「国庫負担」「公費負担」というがその財源は税でまかなえておらず、国債に依存している
これらは税の自然増収が見込め、高齢化率が低かった過去のモデルであり、これがあるために協会健保や市町村の国保が国への依存心をもってしまう。
これに対して、著者は改革の方向性をつぎのようにまとめています。
① 社会保険料の名目で費用を徴収する場合は、負担と受益の対応関係を明確にし、再分配の役割は税に一本化する。
② 政府部門間移転としての国費・公費負担はやめ、家計への直接移転とする。
③ 国や地方の一般会計からの税を投入する場合、その投入目的を明確にする (たとえばベーシックインカムの確保など)。
④ 税と社会保障制度全体を極力簡素にする
ここにもある「負担と受益の関係の対応関係」「制度目的の明確化」というのは本書を一貫して流れるスタンスであり、税や社会保障をめぐるさまざまな議論について考えるスタンスとしても非常に有効だと思います。
たとえば、子ども手当ての財源確保のための配偶者控除の廃止についてはこう指摘します。
税制も社会保障制度も、家族や労働のあり方に関する一定の価値観に基づいて作られている。例えば、個人所得課税における配偶者控除は、被扶養配偶者が家計の担税力の低下要因であり、かつ、家事や育児といった家庭内労働が税制上補償されるべきであるという価値観が根底にある。
・・・仮に、配偶者控除が廃止されるとしても、単に子ども手当てのためのつじつま合わせでいいはずがなく、配偶者控除の根底にある価値観が、今日において見直されるべきという民主党の判断に基づいていなければならない。
その際、一方の年金制度において、第3号被保険者制度が残り続けるのであれば、一国の制度でありながら、拠って立つ価値観が異なることになりかねない。ある新しい価値観のもとに税制を再構築しようとするならば、年金をはじめとする社会保障制度もその価値観のもとに一体的に再検討されなければならない。
専門知識のない一般人にも十分分かりやすい本なので、「第40回 日本公認会計士協会学術賞 受賞」という帯が、逆に一般向けの本としてとっすきにくくしてしまっているのではないかと心配です。