一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

漁業権

2011-09-14 | 東日本大震災

昨日の日経の特集記事「復興へ今」で水産復興特区と漁業権の問題がとりあげられていたので、備忘録的に。

記事によると、特区については民間資金を呼び込もうと言う県と漁業権を持つ漁協が激しく対立していたが、9月6日に県漁協の幹部と県とが水産業復興特区を巡って初めて話し合う「沿岸漁業復興連絡会議」が開かれました。
この特区構想は復興構想会議のときにも水産庁の抵抗を押し切って「何とか枠組みを残した」とのこと。

復興への提言(平成23年6月 東日本大震災復興構想会議)を見るとこのようになっています。(太字は筆者、以下同じ。)

漁場・資源の回復、漁業者と民間企業との連携促進(p22)

必要な地域では、以下の取組を「特区」手法の活用により実現すべきである。具体的には、地元漁業者が主体となった法人が漁協に劣後しないで漁業権を取得できる仕組みとする。ただし、民間企業が単独で免許を求める場合にはそのようにせず地元漁業者の生業の保全に留意した仕組みとする。その際、関係者間の協議・調整を行う第三者機関を設置するなど、所要の対応を行うべきである。

この「特区」に対して宮城県の「水産業復興特区」構想に思う(農中総研 調査と情報 2011.7(第25号) 内容は6月20日現在)では具体的にどのような漁業権に対してどのように規制を緩和するのかがはっきりしないまま議論がされていると指摘しています。  

ここで漁業権の種類について上の論文と水産庁のサイトの 漁業法の目的からまとめると、漁業権は4種類あります。

1.定置漁業権 (存続期間5年)
・ 漁具を定置して営む漁業であって身網の設置水深が27m以上のものを営む権利。
(ex.大型定置網、北海道のサケ定置漁業など)
・ 自ら定置漁業を営む者に適格性が認められ、漁協による管理を認めていない。
・ 知事が優先順位に従い免許する:地元漁民の属する世帯が多数参加する地元自営漁協、漁民会社(株式会社を含む)が優先度が高い。

2.区画漁業権(存続期間5年(一部10年))
・ 一定の区域において養殖業を営む権利
(ex.カキ、ノリ、真珠養殖、小割り式魚類養殖など)
・ 自ら区画漁業を営む者に適格性が認められる。
・ 知事が優先順位に従い免許する:地元漁民の属する世帯が多数参加する地元自営漁協、漁民会社(株式会社会社を含む)が優先度が高い。

3.特定区画漁業権(存続期間5年(一部10年))
・ 区画漁業のうち特定のもの:ひび建養殖業、藻類養殖業、真珠養殖業を除く垂下式養殖業、小割り式養殖業、地まき式貝類養殖業。区画漁業の大半を占める。
・ 管理をする漁協が最優先される。
・ 特定区画漁業権の管理を行なう漁協においては、組合員は組合の定める漁業権行使規則に従い漁業権を行使する。

※ 補足
漁業法第6条、第7条によると区画漁業権とは「第三種区画漁業たる貝類養殖業を内容とする区画漁業権」をいい、第三種区画漁業とは「一定の区域内において石、かわら、竹、木等を敷設して営む養殖業」および「土、石、竹、木等によつて囲まれた一定の区域内において営む養殖業」以外のもの、ということですから、大規模な貝類の養殖業はこのカテゴリに属することになるようです。

4.共同漁業権(存続期間10年)
・ 一定の水面を共同に利用して漁業を営む権利
(ex.アワビ、サザエ、ウニ漁業、小型定置網、固定式刺し網)
・ 地元の漁協・漁連が免許を受ける適格性を有する。
・ 漁協においては、組合員は組合の定める漁業権行使規則に従い漁業権を行使する。

上の論文は、特区の議論が「現行漁業法の元でも企業が参入できる分野についての優先順位の見直し」なのか、「現行漁業法では企業が参入できない分野について認める」ということなのかがはっきりしない、と指摘し、また後者だとしても企業が漁協の組合員になることで参入が可能だ、としています。
確かに「復興への提言」は現在の漁業法を基本としながら漁協の意見をそんちょうしつつちょっと広げましょう、というトーンです。これが「何とか枠組みを残した」ということなのでしょう。

その後の政府の 東日本大震災からの復興の基本方針(平成23 年7月29 日 東日本大震災復興対策本部 p19)では

5 復興施策
 (3)地域経済活動の再生
  ⑤水産業
  () 地域の理解を基礎としつつ、漁業者が主体的に技術・ノウハウや資本を有する企業と連携できるよう仲介・マッチングを進めるとともに、必要な地域では、地元漁業者が主体の法人が漁協に劣後しないで漁業権を取得できる特区制度を創設する。

と、やはり漁業権を与える場合の優先順位を見直す、つまり特定区画漁業権と共同漁業権は開放しない(?)ようにも読めます。


そして宮城県の 宮城県震災復興計画(平成23年8月 p12)では

復興のポイント

2.水産県みやぎの復興
■ 具体的な取組
○ 水産業集積地域,漁業拠点の集約再編
・ 「水産業集積拠点漁港」を再構築するとともに,漁港の3分の1程度を「沿岸拠点漁港」として選定し,当該漁港に機能を集約再編しつつ,優先的に復旧します。また,拠点漁港以外については,安全に利用できるよう必要な施設の復旧を行います。
・ 流通加工団地等の漁港背後地を一体的に整備し,水産業関連産業の集積を図ります。 

○ 新しい経営形態の導入・ 漁船漁業・水産加工業等の早期の復旧・復興に向けて,直接助成制度の創設を国に求めます。
・ 沿岸漁業・養殖業の振興に向けて,施設の共同利用,協業化等の促進や民間資本の活用など新たな経営組織の導入を推進します。

○ 競争力と魅力ある水産業の形成
・ 水産業の集積度と付加価値の向上に向けて,漁業を中心とした産業の集積・高度化に努めます。関連産業との連携のもとに流通体系を再整備し,水産加工品のブランド化,6次産業化等の取組を推進します。

■ 検討すべき課題
・ 漁船,養殖施設,加工施設等の基盤を国が一定期間直接助成するスキームの創設
国の「東日本大震災からの復興の基本方針」に基づく民間資本導入の促進に資する水産業復興特区の次期漁業権切替までの検討及び漁業者との協議・調整

6 分野別の復興の方向性
(4)農業・林業・水産業
③ 新たな水産業の創造(p44~)
3 水産業集積拠点の再構築及び沿岸漁業拠点の集約再編
(中略)
水産業集積拠点となる漁港を除く県内漁港は,沿岸漁船漁業及び養殖業を行う上で重要な漁港を沿岸漁業拠点として整備するとともに,沿岸市町のまちづくり計画に合わせて集落の復興計画の策定支援や漁業権の変更・更新などに取り組みます。(以下略)

4 新たな経営方式の導入による経営体質強化,後継者確保,漁業の総合産業化等
沿岸漁業・養殖業等の第一次産業の経営体質強化を図るため,業生産組合や漁業会社など漁業経営の共同化,協業化,法人化を促すとともに,地元漁業者と技術・ノウハウや資本を有する民間企業との連携を積極的に進め,自立した産業としての礎となる新たな経営形態の導入支援に取り組みます。

そしてそれぞれの【主な事業】として

・ 漁業権変更及び一斉切り替え事業 【復旧期】

をあげています。

これを見る限りでは漁業権の見直しの範囲ははっきりしませんが、「沿岸漁業・養殖業等」の強化をうたっている以上、特定区画漁業権と共同漁業権も含まれているようにも読めます。
ここは宮城県としてはちょっと踏み込んだのでしょうか。 (しかしまあ、役所の作文は面倒くさいですね・・・)


またはそれほど厳密に考えずに、「国の基本方針に基づき」という方が基本方針としては通しやすいのであとは具体的な交渉で進めていこうという政治的な判断なのかもしれません。

たしかに地元の漁協がいやがるのに特区に指定して県知事が免許を与えたとしても、そこにトラブルを覚悟して参入しようとする企業は少ないでしょうし、知事としても選挙をにらむと得策ではないと思います。

逆に、こういう枠組みを作ることで、一つの漁協でも民間企業の資本を入れることに前向きになり、そこが早期の復興の成功例を作れば、バスに乗り遅れまいと希望する漁協は増えてくると思います。
また、バスに乗らずに自力で資金調達できる漁協があればそれに越したことはないわけですから。


つまり協力的な漁協への「太陽政策」のほうが、「強権的に既得権を奪う」という「北風政策」よりも有効だと思いますし、村井知事もそう考えているのではないでしょうか。

何しろ生業なのですから、「漁業権」を抱えて行き詰るより、稼げる提案があれ漁協も乗ってくると思うのですが。

なのでマスコミも「既得権にしがみつく漁協」というような切り口一辺倒はやめたほうがいいと思います。
(僕が現実を知らないだけで、漁協の人々はそんなに柔軟じゃない、とか、漁師でなく漁協の役職員が抵抗するのかもしれませんけど)



ちなみに水産庁は東日本大震災による水産業への影響と今後の対応(平成23年6月)ではこう書いてます。

漁港の機能分担
 
中核漁港の高度化 周辺漁港のネットワーク化(p10)
共同利用漁船等復旧支援対策事業 274億円 (p9)
被災した漁船・定置漁具の復旧のため、漁業協同組合等が行う以下の取組を支援・ 激甚法に基づく共同利用小型漁船の建造・ 共同計画に基づく漁船の導入・ 共同定置網の導入

これは従来の漁協中心の枠組みに沿った復興計画ですね。
国の基本方針が出る前の時点での役所としては仕方ないかもしれません。
でも補正予算の要求はどういう枠組みでやるのでしょうか。


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