ウィニー開発者に有罪 元東大助手に罰金150万円 京都地裁判決
(2006年12月13日(水)16:33 産経新聞)
≪ウィニー著作権法違反 判決骨子≫
一、被告はウィニーが著作権を侵害しながら社会で広く利用されていた状況を認識、認容しながら提供を続けた。本件の著作権侵害者はウィニーが匿名性に優れたソフトと認識し犯行に及んでおり、被告の行為は幇助にあたる
一、被告は著作権侵害がインターネット上に蔓延することを積極的に企図したわけではないが、流出データの回収は著しく困難でウィニー利用者が相当数いるため、結果に対する被告の寄与の程度は少なくない
一、ウィニーの技術自体は各分野に応用可能で有意義なものであり、被告の開発目的に関わらず、技術自体は価値中立的である。技術の提供が無限定な幇助行為となるわけではない
確か刑法では実行行為を容易にする行為であれば正犯(実行者)が幇助されている認識がなくても幇助犯(片面的幇助)が成立するのが判例なのですが、この判決のように特定の正犯を幇助するのでなく不特定の正犯に対する幇助を認めることができるのかなと思ってちょっと調べてみると「中立的行為による幇助」というのは刑法では最近話題の論点なのですね。
「刑法授業補充ブログ」中立的行為による幇助
小倉弁護士のブログWinny作者の逮捕に関して
「IT技術者のためのデジタル犯罪論」中立行為に関する「教唆的幇助意思の理論」
など参照
ところで上の判決骨子を見る限りは、Winnyの開発自体でなくWinnyが著作権侵害に利用されていると知りながら「提供を続けた」(=改良した?)ことが幇助とされているようです。
とすると、もしWinnyにバグがあってそれが別の犯罪行為に利用されている場合はそれを放置しても幇助になるのでしょうか(じゃあどうすればいいのだろう?)。
またソースコードを開示して誰でも改良できるようにした場合は、ソースコードの開示の時点で犯罪利用の認識がなければ開発者は罪には問われないのでしょうか(そうだとするとそれはそれで画期的な意味を持つかもしれませんね)。
また、昔のInternet Watchの記事Winny開発者の逮捕理由「著作権法違反幇助」は正当か!? ~弁護士各氏語るは、上の幇助の論点だけでなく、アメリカでの裁判事例の考え方とか、今回の幇助の正犯である著作権の一つである「公衆送信可能化権」はWIPO(World Intellectual Property Organization)の著作権条約批准に伴い規定されたが、米国などの諸国では批准されていないことなど、論点を広く取り上げて参考になります。
私はそもそもWinny自体を利用したこともないくらいで、「インターネットと著作権」とか「技術の進歩と法制度のキャッチアップ」などという話については語るべきものを持っていないのですが、こういう問題は本来冷静に価値観をすりあわせて優先順位をつけていくことが大事なのでしょうが、開発者側も告発した側も使命感を持っているだけになかなか簡単にはいかなそうですね。
なお刑法の世界は条文が簡潔なだけに理論体系がいくつもあったり、今回ような個別の論点いついても(図形問題の補助線の引き方のように)いろんな解釈が成り立つあたりも、本件の話をややこしくしている原因の一つなのかもしれません。