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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 633 奇妙な三角関係 ➍

2020年04月29日 | 1976 年 



" ルール違反ではない " では通らぬ
仮に原選手が巨人入りしたらどうなるのか?もちろん巨人は万歳三唱するくらい大喜びするだろう。道義的云々は後で述べるとして、原選手ほどの素質のある、しかも絶大なる人気を兼ね備えた選手に巨人のユニフォームを着せたら後楽園球場は満員御礼の日々が続くであろう。あと1万や2万人多く収容できる球場に作り代えてもお釣りがくる。人気だけではない。魅力なのはホームランバッターではなく確実性の高い中距離バッターである点だ。身のこなしも軽快で三塁手としてプロでも十分通用する。長嶋の後継者としてこれ以上ない選手なのだ。だが巨人以外の球団関係者やマスコミは一斉に巨人を非難することになるであろう。

「巨人軍は自ら球界の盟主を任じながら、その秩序を自分の手で破る暴挙に出た。その責任は計り知れない」
「荒川選手(ヤクルト)のようにダーティなイメージが付いてしまう」
「原も原だ。親子して大学進学を発表しておきながら急に態度を変えてプロ入りするとは何事だ」
「いや、これも全てドラフト制度が生んだ悲喜劇だ。悪いのは原選手ではなく制度だ」
「プロ野球はルールに則っての商売だ。少なくとも原選手はルールを破ってはいない」

ざっとこうした声が上がるのは予想できる。その結果、巨人を処罰すべきという声が他球団から上がるであろう。しかし厳密に言えば巨人はルールを破ってはいない。他球団が指名した選手を強引に横取りしようとしているわけではない。大学進学するだろうから巨人を含めた全球団が指名を見送った。しかしドラフト会議後に原家の事情が変わったとか、酒井投手(長崎海星)がヤクルトに指名されたのに触発されてプロ入りに気持ちが傾いたとか理由はどうあれ、自由獲得対象選手がドラフト外でプロ入りするのに何の問題もなく、問題があるとすれば道義的責任だけである。

「そんな暴挙がまかり通るのならドラフト制度など止めてしまえ」などの声が球界内外から沸き起これば巨人とすれば思う壺。ペナルティどころかありがとうとお礼をしたいくらいだろう。いずれにしても巨人としたら一時だけ各方面からの非難の声に耳を塞いでひたすら沈黙を守れば時間と共に騒ぎは収まる。あれほど大騒ぎとなったロッキード事件ですらまだ幾らも経過していないのに世間は忘れ始めている。ケシカランと怒ったところで一般大衆の怒りや記憶はその程度のもである。ただし原家や東海大学は巨人とグルになって大芝居をしたとして風当たり強まるだろう。更には高野連も巻き込んでアマチュア野球界は大混乱するかもしれない。



田淵・大北にまつわる巨人謀略説
実は巨人のこうした動きは初めてではない。今から8年前、法政大の田淵選手は「巨人以外にプロへは行かない」と宣言した。しかし指名したのは巨人より指名順が先の阪神だった。阪神はあの手この手で交渉を試みたが既に巨人と裏交渉が進んでいた田淵は拒否。しかし如何に巨人でも他球団が指名した選手を横取りは出来ず事態は膠着状態に。「どうしたらいいのか…」思い悩んだ田淵が巨人スカウトと密会している場面が暴露され、田淵・巨人双方に非難が集中した。結局、田淵は大学の先輩などの助言もあり阪神入りした。

今回の原選手と似たケースだったのが大北選手(高松商)の場合だ。中西2世と呼ばれたスラッガーで12球団がリストアップしていたが本人・家族・学校が揃って進学を表明し各球団は指名から撤退していった。中日は西村ヘッドコーチが高松商の先輩でもあり最後まで熱心に口説いたが進学の線を崩せず指名を諦めた。その裏で動いていたのが巨人だった。11月9日、ドラフト会議が開かれ巨人が2巡目で大北選手を指名した。大北選手に進学のアドバルーンを上げさせたのが巨人だったのだ。会場の他球団は驚いたが時すでに遅し、まんまと巨人が12球団注目のスラッガーを手に入れた。

この時は高松商OB会が大北選手の除名騒ぎにまで発展したが、ルールに違反していない巨人には何のお咎めも無かった。今回の原選手はこのケースと似ている。では今回も巨人が裏で動いているのか?大洋の平山球団常務は否定する。「あれほどの声明を出しているのだから進学で決まりでしょう。もしこれがひっくり返るようになったら原親子は勿論、松前総長への非難は相当なものになるでしょう。松前総長といえば各方面で影響力を持つ人物で裏で巨人に肩入れしていたとなれば、その地位や名声を失いかねない。そんな危ない橋を渡るとは思えない(平山)」と語る。

ではひとまず原選手を東海大学へ進学させた後に、すぐに退学させて巨人入りさせる裏技はどうか?これは明らかなルール違反で、この場合はコミッショナーが全球団に対し原選手が中退した旨を通達し、入団交渉を希望する球団が複数あった場合は抽選を行う規定が定められている。となると残された方法は原選手自身がどうしてもプロ入りしたくなったと前言を撤回し、東海大学側も本人の意思が強固であり不本意ながら入学は諦めると言う他ない。「もしそうなったら巨人はフェアじゃない(鈴木セ・リーグ会長)」「全国の野球ファンを裏切る行為(阪急・渓間代表)」「ドラフトの意味がなくなる(南海・森本代表)」等々、大騒動は必至である。

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