札幌の造形作家、経塚真代さんの個展。
筆者は作品を見た記憶がないこともあって、最終日の夜になんとか駆けつけた。
そして、もっと早く来れば良かったと後悔した。
会場のプロフィルを見て、けっこうあちこちで発表してきていることを知った。
エスキスにしては珍しく、お客さんが少なかったので、写真をいっぱい撮ってきた。
木の粉が混じった粘土で制作されている。
特徴として、短いテキストが付されていること。
立体を載せる台や、背後の壁に印字されている。
たとえば…
似た者同士なのになぜ隣りはよく見えるのだろう
少し素直になるだけで
一日が全く別物になる
林檎の時間があればいい
距離感という予防線を張る
左側の画像は、お店の入り口の横にある丸テーブルの上。
お店に来る前、ギャラリー門馬アネックスでjobin.さんの個展を見てきた人が
「きょうは、つるす作品に、いいのが多いなあ」
と笑っていた。
右側の画像は、その丸テーブルのコーナーと、四角いテーブルのボックス席との境目に並んでいた作品。
こちらは、カウンターの中の壁。
壁の上には、一人がよっこいしょと体をもたせて、こちらを見ている。
「どうしても超えられない壁がある」という言葉。
これをめぐって、カウンターではしばしお客さんの間で話が盛り上がったらしい。
一方、こちらはカウンターの上。
それほど広くない喫茶店の中をこれほどフルに使っている個展も珍しいと思った。
店の窓際に立って、ガラス窓越しに店の外を見ている人が2人…。
ところで、経塚さんの作品が、どこか深い感情をたたえていることや、表面的にではなく深いところでとなりの誰かに似ているように見えることが魅力なのは間違いないのだが、ここでちょっと理屈っぽい話をしたい。
つまり、経塚さんの作品は、いわゆる「彫刻」でも「人形」でもない。ふしぎな立体としか言いようがないのだ。
「彫刻」であれば、人物は着彩せず、ブロンズ・FRPなら裸婦が多いだろう。
「人形」であれば、和風のきめこみ人形や和紙人形、球体関節、ロマンドールなどさまざまな分野がある。見る側は、それらのうちのいずれかに作品を当てはめて安心するだろう。
経塚さんの作品は、それらのいずれにも該当しない。だからといって「どうです! 新しいタイプの作品でしょう」と自己主張しているようでもない。ふつうの人の日常的なたたずまいがそうであるように、いつの間にか、さらりと独自性を身にまとって、そこに存在しているようなのだ。
その作家の個性とか新しさとかは、気負って探し出して主張しなくても、さりげなく出せるものなのかもしれない。
高い壁をよじ登る人物の立体を見て、そんなことを考えた。
2013年9月5日(木)~10月1日(火)正午~午前0時(日祝日~午後9時)、水曜休み(9月17日は臨時休業)
CAFE ESQUISSE(カフェ エスキス) (札幌市中央区北1西23 メゾンドブーケ円山)
□造形作家 経塚真代のサイト http://masayokeizuka.com/