札幌のフォトグラファーで、最近はインストーラーとしてあちこちのギャラリーで搬入の手伝いなどにも忙しい山岸靖司さんの個展。
1998年の第1回個展から見ている自分としては、なかなか感慨深くなるような、これまでの山岸さんの活動の集大成的な側面をあわせもった展示内容だと感じました。
というのは、山岸さんは生業こそ写真家ですが、アートを発表する際には、ストレートフォトではなく、写真を素材にした作品ということで一貫しているのです。
山岸さんの言葉をかりれば
「写真が絵の具・筆のかわり」
ということです。
第1回個展では、モノクロ印画紙に直接感光させたり、現像液をぶちまけたりした、荒々しい作品が並んでいました。21世紀に入ってからは、デジタルカメラのファインダーをのぞかず、ランダムに撮ったイメージを組み合わせています。
ただ、山岸さんはこれまであまり自らの思想などを披瀝する作家ではなかったという印象があるのですが、今回はめずらしく愛読書などをギャラリー入り口のスペースに持ち込むなどして、自分について「語って」います。
はっきり書いておきますが筆者は、作者の思想についてはほとんど賛同できません。大きな本屋さんに行くと「精神世界」というジャンルの棚に入っているような本が主張する考えかたについて、若い時分には多少の興味もあったのですが、1995年の事件以降は個人的には縁遠くなってしまっています。
山岸さんの作品世界が、この思想の上に成立していることはまぎれもない事実でしょうが、しかし、その思想抜きに鑑賞することも可能なのも確かですし、それでもなおすてきな作品に思えることもまた確かなのです。
400枚のイメージを正方形に並べた「既景」。
2024年作ですが、用いられている画像は、かなり以前から撮りためられてきたものです。
自分にとっての山岸さんの作品世界とは、ちょうど、眠りに入る直前に、ランダムに脳裡に浮かぶイメージのかけらのようなものです。
それらは美しく、そして、他の人と無意識の海深くつながっているような気がします。
ユングの「集合的無意識」概念を批判・攻撃するときの決まり文句は「そんなの科学ではない」です。
筆者もそれには同意します。半面、科学ではないからどうなんだとも思います。
アートも文学も科学ではないですが、人の心に刺さってくる。それと同じことです。
だから、ユングの説に耳を傾けてもべつにかまわないのではないでしょうか。
つまり、山岸さんが依拠している(筆者からみれば突飛な)思想の数々を考慮しなくても、山岸さんの作品世界はどこかで永遠と接触しているように感じられてならないのです。
それはおそらく、膨大なイメージのレイヤーが用いられることによる作品の「厚み」ゆえだと思います。
案内状に使われた作品は、90度回転させて展示していました。
細長い直線は、これも元は写真で、細長くのばしてから補色に反転させて、プリントアウトしているのだそうです。
写真を絵の具のように駆使する山岸さんならではの作品です。
黒のインクが美しいです。
このほか、木片に写真を貼り付けた小品もありました。
最後に作者のことばを引用しておきます。
2024年3月21日(木)〜4月14日(日)午前11時〜午後6時、火・水曜休み
ギャラリー門馬(札幌市中央区旭ケ丘2)
過去の関連記事へのリンク
■素材としての写真拡張展 写真か? vol.2 (2022)
■札幌ミュージアム・アート・フェア2020-21
■ちかしとおし 神成邦夫・山岸せいじ展 (2019)
ILA Gallery が札幌にオープン。第1弾は山岸せいじ展(2018)
■山岸せいじ展 しずかなじかん (2018年5月)■バックボックス展 (2018年4月)
■鎌田光彦・山岸せいじ (2017)
■帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト(2016)
■山岸せいじ展 photographic works あわいを覗く そこは素粒子が乱舞する処かもしれない。 (2014)
■防風林アートプロジェクト (2014年2月)
■「和」を楽しむ(2014年1月)
【告知】山岸せいじ展 あわいを覗く そこは原子ひとつ隣の世界かもしれない photographic works(2012)
【告知】かげ展(2011年)
■PHOTOGRAPH EXHIBITION MOVE 3 part1 (2010年)
■さっぽろフォトステージPart1 (2009年)
■遠くを聴く この言葉で繋がる7人の世界(2009年11月)
■東川フォトフェスタ ストリートギャラリー (2009年8月)
■PHOTOGRAPHY EXHIBITION MOVE 2(2009年2月)
■光を編む この言葉に触発された13名の作家達が織りなす世界
■東川町フォトフェスタ
■ARTIST WEEK vol.1 "air"
■Seiji Yamagishi、Takashi Yamaguchi 景一刻
■MOVE (以上2008年)
■たぴお記念25th + 13th 異形小空間(07年12月-08年1月)
■OPERA Exhibition vol.2 (07年)
■足立成亮写真展「事の終わり」・micro.の記録展(07年4月)
■スネークアート展(07年3月)
■山岸さんの個展「景」 (07年3月)=くわしいプロフィルと、2000~06年の展覧会へのリンクあり
ギャラリー門馬・ギャラリー門馬アネックスへの道順(アクセス)=円山公園駅から
=啓明ターミナルから
=南11条西22丁目から
・地下鉄東西線「円山公園駅」から円山公園駅バスターミナル発のジェイ・アール北海道バス「円10」に乗り継ぎ「旭丘高校前」降車、約120メートル、徒歩2分
・地下鉄東西線「円山公園駅」から円山公園駅バスターミナル発のジェイ・アール北海道バス「円13」旭山公園線に乗り継ぎ「界川」降車、約490メートル、徒歩7分
・啓明バスターミナルから約750メートル、徒歩9分
1998年の第1回個展から見ている自分としては、なかなか感慨深くなるような、これまでの山岸さんの活動の集大成的な側面をあわせもった展示内容だと感じました。
というのは、山岸さんは生業こそ写真家ですが、アートを発表する際には、ストレートフォトではなく、写真を素材にした作品ということで一貫しているのです。
山岸さんの言葉をかりれば
「写真が絵の具・筆のかわり」
ということです。
第1回個展では、モノクロ印画紙に直接感光させたり、現像液をぶちまけたりした、荒々しい作品が並んでいました。21世紀に入ってからは、デジタルカメラのファインダーをのぞかず、ランダムに撮ったイメージを組み合わせています。
ただ、山岸さんはこれまであまり自らの思想などを披瀝する作家ではなかったという印象があるのですが、今回はめずらしく愛読書などをギャラリー入り口のスペースに持ち込むなどして、自分について「語って」います。
はっきり書いておきますが筆者は、作者の思想についてはほとんど賛同できません。大きな本屋さんに行くと「精神世界」というジャンルの棚に入っているような本が主張する考えかたについて、若い時分には多少の興味もあったのですが、1995年の事件以降は個人的には縁遠くなってしまっています。
山岸さんの作品世界が、この思想の上に成立していることはまぎれもない事実でしょうが、しかし、その思想抜きに鑑賞することも可能なのも確かですし、それでもなおすてきな作品に思えることもまた確かなのです。
400枚のイメージを正方形に並べた「既景」。
2024年作ですが、用いられている画像は、かなり以前から撮りためられてきたものです。
自分にとっての山岸さんの作品世界とは、ちょうど、眠りに入る直前に、ランダムに脳裡に浮かぶイメージのかけらのようなものです。
それらは美しく、そして、他の人と無意識の海深くつながっているような気がします。
ユングの「集合的無意識」概念を批判・攻撃するときの決まり文句は「そんなの科学ではない」です。
筆者もそれには同意します。半面、科学ではないからどうなんだとも思います。
アートも文学も科学ではないですが、人の心に刺さってくる。それと同じことです。
だから、ユングの説に耳を傾けてもべつにかまわないのではないでしょうか。
つまり、山岸さんが依拠している(筆者からみれば突飛な)思想の数々を考慮しなくても、山岸さんの作品世界はどこかで永遠と接触しているように感じられてならないのです。
それはおそらく、膨大なイメージのレイヤーが用いられることによる作品の「厚み」ゆえだと思います。
案内状に使われた作品は、90度回転させて展示していました。
細長い直線は、これも元は写真で、細長くのばしてから補色に反転させて、プリントアウトしているのだそうです。
写真を絵の具のように駆使する山岸さんならではの作品です。
黒のインクが美しいです。
このほか、木片に写真を貼り付けた小品もありました。
最後に作者のことばを引用しておきます。
宇宙の構成はミクロ、マクロにかかわらず、周波数の違いである。
人間の目、耳で感じ取れない周波数には大概、無頓着である。
意識、物質、肉体、言葉、色、全て周波数の違いである。
エネルギーを持っている。
物質化する可能性のある素粒子が眼前に分厚く広がっている。
毎瞬毎瞬、選択の連続である。
意識が先に存在し、物質世界は自己の意識が創りあげている。
無意識という深層部では全てが繫がっている。
私はあなた、あなたは私かもしれない。
2024年3月21日(木)〜4月14日(日)午前11時〜午後6時、火・水曜休み
ギャラリー門馬(札幌市中央区旭ケ丘2)
過去の関連記事へのリンク
■素材としての写真拡張展 写真か? vol.2 (2022)
■札幌ミュージアム・アート・フェア2020-21
■ちかしとおし 神成邦夫・山岸せいじ展 (2019)
ILA Gallery が札幌にオープン。第1弾は山岸せいじ展(2018)
■山岸せいじ展 しずかなじかん (2018年5月)■バックボックス展 (2018年4月)
■鎌田光彦・山岸せいじ (2017)
■帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト(2016)
■山岸せいじ展 photographic works あわいを覗く そこは素粒子が乱舞する処かもしれない。 (2014)
■防風林アートプロジェクト (2014年2月)
■「和」を楽しむ(2014年1月)
【告知】山岸せいじ展 あわいを覗く そこは原子ひとつ隣の世界かもしれない photographic works(2012)
【告知】かげ展(2011年)
■PHOTOGRAPH EXHIBITION MOVE 3 part1 (2010年)
■さっぽろフォトステージPart1 (2009年)
■遠くを聴く この言葉で繋がる7人の世界(2009年11月)
■東川フォトフェスタ ストリートギャラリー (2009年8月)
■PHOTOGRAPHY EXHIBITION MOVE 2(2009年2月)
■光を編む この言葉に触発された13名の作家達が織りなす世界
■東川町フォトフェスタ
■ARTIST WEEK vol.1 "air"
■Seiji Yamagishi、Takashi Yamaguchi 景一刻
■MOVE (以上2008年)
■たぴお記念25th + 13th 異形小空間(07年12月-08年1月)
■OPERA Exhibition vol.2 (07年)
■足立成亮写真展「事の終わり」・micro.の記録展(07年4月)
■スネークアート展(07年3月)
■山岸さんの個展「景」 (07年3月)=くわしいプロフィルと、2000~06年の展覧会へのリンクあり
ギャラリー門馬・ギャラリー門馬アネックスへの道順(アクセス)=円山公園駅から
=啓明ターミナルから
=南11条西22丁目から
・地下鉄東西線「円山公園駅」から円山公園駅バスターミナル発のジェイ・アール北海道バス「円10」に乗り継ぎ「旭丘高校前」降車、約120メートル、徒歩2分
・地下鉄東西線「円山公園駅」から円山公園駅バスターミナル発のジェイ・アール北海道バス「円13」旭山公園線に乗り継ぎ「界川」降車、約490メートル、徒歩7分
・啓明バスターミナルから約750メートル、徒歩9分