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■VOCA展 現代美術の展望─新しい平面の作家たち(3月14~30日、上野) 2024年春東京(10)

2024年04月11日 09時16分20秒 | 道外で見た展覧会
(承前)

 まずは、公式サイトから引用します。

The Vision of Contemporary Artの頭文字をとってVOCA(ヴォーカ)展と呼ばれる本展は、全国の美術館学芸員、研究者などに40歳以下の若手作家の推薦を依頼し、その作家が平面作品の新作を出品するという方法により、毎年全国各地から未知の優れた才能を紹介している現代美術展です。


 筆者は2013年にも見ていますが、なぜかまったく記憶にありません。

 第1回の受賞者は福田美蘭
 これはうなずける結果なのですが、その後は、ノミネートされていた村上隆や奈良美智に賞を与えなかったことが、よく批判のネタにされています。まあ、芥川賞が太宰治や村上春樹をスルーしたようなもので、あまり責めすぎても酷でしょう。

 道内からも毎年推薦されていますが、受賞の壁は高く、これまでのところ

・1994年(第1回)奨励賞に森弘志さん

1996年(第3回)奨励賞に端聡さん

2016年の佳作賞に佐竹真紀さん

の計3人という結果になっています。

 今年は道内の学芸員は1人だったのですが、青森県立美術館学芸主幹が渡島管内長万部町の中村絵美さんを推薦してくれたおかげで、道内在住作家は2人出品となりました。

 冒頭画像は中村絵美さん「非在の島、あるいは逆流の生理」。
 ネイチャーガイドも務めてきた作者が、湿地を撮影して不定形のフレームに収めました。
 微地形へのまなざしが、同時に広い自然を視野に入れたものになっていると感じました。

 なお、VOCA展の図録が、最終校正の前に制作作業が進んでしまったため、作家関連のテキストについて、修正版を無料で配布しているとのことです。
(参照 : http://eminakamura.blogspot.com/2024/04/voca2024.html

 ただ、これは中村さんがどうこうというより、平面作品1点のみで審査するVOCAの宿命といえそうな気もしますが、長万部写真道場や北海道開拓写真研究協議会といった写真史の研究にもおよんでいるこの作家の幅広い活動をとうていカバーすることはできないもどかしさも感じてしまいます。
 むろん、だからこそ彼女は、自ら発行に参画しているリトルマガジン「寄木塚」を創刊号~3号の3冊セットにしてミュージアムショップで販売したり、そのなかに「VOCA 展2024 出品に寄せて #帝国主義的⽂化価値を拒否するためのテクスト」というプリントを挿入したり、できる範囲で(というのは、昨年の制作中に脳卒中で倒れ手術・入院にまで至っていたため)作戦を練っていました。このテキストは、村上隆の有名な「DOB君」の元ネタが由利徹の「長万部」であることを指摘したもので、こういう「物わかりの良い大人」なら諦めとともにスルーしそうな件をきちんと取り上げ批判する中村さんの姿勢にはあらためて敬意を表しておきます。
(まだ入手できるようです)

 
 もう一人は、札幌の大橋鉄郎さん「無題」。
 通称、ピースシリーズです。

 推薦したキュレーター本人から、大橋さんが、ペーパークラフトのシリーズではなく、こちらを VOCA に出すことを希望した話を聞き、筆者は
「え? 逆じゃね?」
と驚きました。
 逆というか、ペーパークラフトのシリーズのほうが審査員にはウケるのではないかと考えたのです。
 でも、よく考えるとそれは浅慮だったような気もします。


 
 若くてかわいい女性が街角などでVサインをしているイラストレーションの連作です。
 札幌パルコでのグループ展など、さまざまな会場で発表をしてきました。

 背景の街角がどこかで見た記憶があるようなことが多く、このシリーズを前にするたびに気になるのですが、作者の真意はそこにはないでしょう。

 会場にあった、キュレーターの樋泉さんのテキストを全文引きます。

女性たちの視線やピースサインは、親しい誰かに向けられていたかも知れないが、彼女らは今、一方的に「見られて」いる。女性の容姿を性的に強調した表現ならば、女性蔑視だと正しく非難できるが、大橋の描く女性たちは違う。それぞれのファッションで微笑む彼女らは穏当に「可愛い」。どこか居心地が悪いのは、他者の「表面」を評価する視線の暴力を、我々が日々行使していることを突きつけられるからだ。


 個人的には、そこまで考えていなかったというか、男性もどんどん女性から「見られ」れば良いと思うのですが、社会的にはそんな単純な話では終わらないのでしょう。
 私たちは異性を見なくて済ませるのではなく、いずれか一方がより「まなざされる」社会のあり方こそを変えていく必要があるのだと思います。

(筆者のコメントがいささかノーテンキなのは、前夜、歌舞伎町で見た風景が念頭にあったからです。ススキノなどの歓楽街に女性たちが並んだ看板が設置されて来店を促す光景はありふれたものですが、どうも歌舞伎町ではすでに男女が逆転しているような印象を抱きました。それだけ女性をターゲットにしたホストクラブが隆盛になっているようです。ホストクラブに付随する問題はあるようですが、男性向けのお店しかなかった時代に比べればまだしもまっとうな状況ではないでしょうか)
 
 
 今年のVOCA賞は、大東忍さんが選ばれました。
 単なる、木炭で描いた夜の風景画ではなく、人知れず踊る作者が描かれているのがミソですね。
 


 奨励賞には上原 沙也加さん、片山 真理さんが選ばれています。
 上原さんの台湾の写真は、その静けさのなかに、ポストコロニアルの状況が批評的に織り込まれている力作です。

 2人とも写真の世界ではすでに高く評価されている作家です。片山さんの義足のセルフポートレートは東川でごらんになった道民も多いでしょう。
 いまさら「現代アート」の世界の新人みたいな枠で顕彰することには、いささか抵抗を覚えざるを得ませんでした。

 抽象画などもありましたが、個人的には、独立や二紀より断然良いとは言い切れない気がしました。
 しかし、両方のフィールドを見ている人は業界にはほとんどいないと思います。


2024年3月14日(木) 〜 30日(土)午前10時~午後5時 ※入場30分前。会期中無休
上野の森美術館(台東区上野公園)

https://sites.google.com/view/eminakamura/

竣工50年 北海道百年記念塔展 井口健と「塔を下から組む」 (2020、小樽)
写真展「長万部写真道場+(プラス) ローカル・カラーの時代」 (2019、長万部)
塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018)
【告知】長万部写真道場 再考ー北海道における写真記録のこれから(2018、長万部)
生息と制作-北海道に於けるアーティスト、表現・身体・生活から 2013Mar.東京(12)
北海道教育大学卒業制作展


https://tetsuro-ohashi.com/

写真展 “Future is in the Past” 未来は過去にある。 (2024年1~2月)
大橋鉄郎展「これって正解です(か?)」 (2021、網走) 
竣工50年 北海道百年記念塔展 井口健と「塔を下から組む」 (2020、小樽)
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