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続々■塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展 2018年11月10日は5カ所(5)

2018年11月16日 11時49分00秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前)

 まず、直接は関係ないかもしれないが、大事なことがどうも忘れられているようなので、書いておく。

 なぜ北海道は開拓されたのか。

 いろいろな理由はあるが、17世紀からの400年余り、日本にとって最大の課題が何であったのかを思い出す必要がある。
 それは、人口圧。
 いいかえれば

 次男や三男をどうやって食べさせるかという問題

である。

 これは、いまの人も知っていると思うが、ちょっと前までは、きょうだいが6人とか10人という家は当たり前だった。
 病気などで何人かが幼いうちに世を去るとしても、たとえば8人のうち4人が生き残って大人になり、その半数が男子だとしたら、とりあえず女子2人は嫁ぐからいいとして、次男は家も田畑も継ぐことができない。
 これは大問題である。

 徳川の世になり、平和が訪れた日本。
 農民が8割から9割を占める。
 戦や伝染病や飢えで子どもも大人もどんどん死ぬ時代が終わると、どうなるだろう。

 当然、耕す土地が足りなくなってくる。

 江戸期には、それ以前には荒地や原野だった土地の開墾が進んだ。日本のあちこちにある「●●新田」という地名はその表れである。
 しかし、ご存知のとおり日本は決して広くない。本州以南で、農地にできそうな平地は、かなりの部分が農地になり、これ以上食料を増産する余地が減ってきた。
   
 明治期以降、北海道を開拓するのも、ブラジルに移民が行くのも、満洲国をつくるのも、八郎潟を干拓するのも、動機はひとつである。
 次男、三男に土地を与え、食わせること。
 食糧増産と土地確保、なのだ。

 この問題が、耕地面積の拡大以外に解決策を見出すのは、20世紀が始まってしばらくしてからのこと。
 鉱工業が発達して、余剰労働力を吸収できるようになったのだ。
 それが最大規模で行われたのが、高度成長時代にほかならない。
 農家を継げない東北などの子どもたちは中学を卒業して上京、「金の卵」といわれて、首都圏の工場などに就職していった。
 もちろん、北海道の工場や炭鉱などに働きに来た人も多かろう。

 日本が豊かになって子どもの数が大幅に減少し、人口も減少に転じるのは、長い歴史の中でごく近年の事態である。

 すこし話を引き戻すと、北海道に明治以降やって来た中には、囚人やロマン主義者などいろいろな種類の人がいるけれど、とりあえず多いのは、自分の家にいては展望のない次男、三男とその家族たちであろう。黙っていても父から家と土地を継ぐことができる長男は、わざわざ北海道まで来る理由が乏しいのだ。

 だから、百年記念塔は、イエ制度からのはみ出し者たちのモニュメントなのだ。



 その2。
 モニュメントの問題。

 アーティストトークで、福島駅前のサンチャイルドが撤去された件について
「現代アートの敗北ではないか」
という声が出ていた。

 それを否定するつもりはないが、ほんとうの敗北は
「撤去にあたって議論が乏しかった」
ことではないかと筆者は思う。

 パブリックアートの問題では歴史上、リチャード・セラの「傾いた弧」があまりにも有名だ。
 あの作品を撤去するにあたっては、賛成派と反対派が膨大な議論を繰り広げた。

 公共建築物などを布で梱包するクリスト&ジャンヌ=クロードにしても、あれは梱包それ自体が目的なのではなく、むしろそれを実現するまでのプロセス自体がアートであるというべきだろう。
 もともと共産主義国に生まれ育ったクリストにとって、民主主義的に賛否の議論を戦わせることは、それ自体貴重ですばらしいことだと思われたに違いない。

 現代アートはそもそもが、リベラルな価値観の土壌に生まれ、育つものだということを、今回のモニュメントをめぐる展覧会は、証ししているとはいえないだろうか。



 ちょっと意外だったのは(いや、若い世代が多いから、よく考えるとちっとも意外ではないのだけれど)、北海道百年記念塔に思い入れがある人がわりと少なかったこと。
 会場でちょっと聞いてみたが、どうやら上ったことのある人はいないようだった。
 記念塔は中腹の展望室までエレベーターで行くことができ、その先は階段でてっぺんまで上がれたのだ。

 いちばん上から見わたす石狩平野の眺望は、それはすばらしいものだった。


 以上、展覧会とは直接関係ないことをつらつら書いてみた。
 しかし、そういうことを書いてみたくなる展覧会って、すばらしいと思うのだが。


2018年11月1日(木)~11日(日)午前11時~午後6時
ギャラリー門馬(札幌市中央区旭ケ丘2)


□公式サイト https://build-the-tower-from-the-bottom.tumblr.com/

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