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■第40回写真の町東川賞受賞作家展(2024年8月3日~9月2日、東川)と受賞作家フォーラムー2024年夏の旅(5)

2024年08月11日 08時59分50秒 | 展覧会の紹介-写真
(承前)

 ことしの東川賞の受賞者は次の通りです。

・国内作家賞 石川真生 (沖縄)

・海外作家賞 ヴァサンタ・ヨガナンタン(フランス・マルセイユ)

・新人作家賞 金川晋吾(東京)

・特別作家賞 北海道101集団撮影行動

・飛彈野数右衛門賞 北井一夫 (千葉)

 8月3日に授賞式が行われ、それからひと月の間展示が行われています。
 毎年、国際写真フェスティバルの2日目午後に、受賞者や審査会委員、ゲストなどによるフォーラムが開かれます(たしかコロナ禍の間は中止していたと思います)。
 かつては筑紫哲也さんや平野啓一郎さんが登場したこともありました。今年は作家の柴崎友香さんが北井さんの回などで話していました。こんな話し合いを無料で聴けていいのかと、来るたびに感心します。

 会場の文化ギャラリーはコロナ禍の最中に全面改装して、土足で入る方式に改めていますが、今回入り口でフォトふれ(学生ボランティア)に座布団を渡されて
「ああ、大きくは変わってないんだな」
と、なんだかすごく安心しました。
 それぞれの展示コーナーで、受賞者とゲスト数人(顔ぶれが少しずつ変わる)が作品の前のいすに腰かけ、向かい合うように聴衆が床に敷いた座布団にすわって、45分ずつぐらい話をします。それが終わると、座布団を持ってぞろぞろと次の受賞者の展示コーナーへと移動していきます。床に腰を下ろすのは、いかにも日本的だと思います。

 石川さんは病気療養中で、車いすでの登場でした。
 自分は沖縄の人間しか撮りたくない、沖縄は撮られる島だから。沖縄人の写真は沖縄人の私が撮るんだ…という言葉は、視線の非対称性を自分の(借り物でない)言葉で言い当てていて、忘れられないひとことでした。
 
「でもよ、写真は自由に見たらいいよ。なんちゃら解説する人なんてほんとはいないほうがいいんだよ。よけいなことだよ。だからよ、手取り足取りはやめたほうがいいって」
と、このフォーラム自体を相対化するようなことも話していて、考えさせられました。

 そういうわけで、会場内には解説文めいたものがほとんどなく、好きに解釈するほかないのですが、ざっと見た印象を言えば、目取真俊の短篇の読後感に似ているのでした。
 つまり、日本の多くの土地では歴史は歴史として後景に退いて見えるのですが、沖縄では、歴史と現在がダイレクトに直結しているという感じが強いのです。
 
 
 北井さんは、船橋市のニュータウンを1980年代に撮ったモノクロ写真を、2023年に同市の市民ギャラリーで展示した「フナバシストーリー」での受賞です。
 北井一夫といえば「三里塚」なので、もっとこわもての、目つきの鋭い理論家っぽい人かと勝手に想像していたら、人の好さそうな柔和な表情の老人だったので、意外の感に打たれました。
 まだ団地が少しはあこがれの的だった時代の主婦や子どもたちを、白っぽい焼きのプリントでとらえた写真でした。一見、成田空港建設に反対する闘争や学生運動のバリケード内などを撮った人の作品とは思えないのですが、市井の人々に親しくカメラを向けるという点では共通しているのかもしれません。
 もし新左翼の活動家みたいな風貌の男性だったら、部屋に入れて撮影なんか、させてもらえないよね、と思いました。

 ところで、この題は、石内都さんを意識してるんでしょうかね。


2024年8月3日(土)~9月2日(月)午前10時~午後5時、会期中無休
東川町文化ギャラリー(上川管内東川町東町1)
5日以降は100円(中学生以下無料)

https://photo-town.jp/



・旭川駅前から旭川電気軌道バスの67番「東川・東神楽循環線」、76番「東神楽・東川循環線」、60番「東川線」に乗り「ひがしかわ道草館」降車。約450メートル、徒歩6分

(この項続く) 


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