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■第18回道銀芸術文化奨励賞受賞記念 松本早苗展 (3月28日まで)

2009年03月25日 23時54分19秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 北海道の風土はどこでも同じではない。
 北のほうを小さく見せるNHKのアホ天気予報のせいなのか、あるいは、富良野のラベンダー畑から函館の外人墓地へとあっという間に刑事が移動している2時間ドラマのせいなのかはわからないが、北海道のほんとうの大きさを読み誤っている人が多い。
 札幌で雪が舞っているとき、小樽や留萌は吹雪かもしれないし、函館は雨かもしれない。そして、たぶん帯広や釧路は晴れているだろう。
 道南、道央、道北、道東。風土は、それぞれに違う。

 札幌から北見まで、車でも特急列車でも4時間余り。
 大雪山系を越えると、空気や空の色が違うのがわかる。

 オホーツクの風土や景観って、北海道のほかの地域とどこが異なるのだろうか。
 年間降水量が1000ミリを大きく下回る、ほかにはない乾燥した気候。高い晴天率。
 冬になるとやってくる流氷。
 水田がほとんどないかわりに、傾斜地も耕されていることetcetc。。。
 すくなくても、水田が主体となっている大雪山地の西側とは、景観がまるで違う。

 「北の風土」などとひとくくりにされない、微細な感性で見たオホーツクの空気感が、松本さんの画面には息づいていると思うのだ。(留萌地方を題材にした絵もあるけれど。「海のうた」のほか、「足音」はおそらく増毛だろう)

 もちろん、彼女の描く風景は、オホーツク地方で見た実景そのものではないだろう。
 たぶん引き算を重ねて、簡素化した末の構図なのだろうと思う。

 水彩の場合、不用意に筆を入れると、色の異なる筆触が目に付いてしまう。そして、それが重なると、どんどん画面が汚くなってしまう。
 その幣に陥っている人は多いし、松本さんの場合、画面にある要素がとても少ないから、その危険性は高いはずだ。
 しかし、グラデーションをうまくつかって、筆の跡が目立たないよう、色が自然に変化している。
 どうやって筆をおいているのだろう?

 夕空の広がりが印象的な「午後の日ざしの中で…」も忘れがたいが、筆者が目を見張ったのは「春」。 
 前景を大胆にとった構図。遠景に、薄い色の海と、白と黒の縞模様の灯台が見える。
 その前景、描かれているのは、ぬかるんだ草地ばかりである。左奥にはとけ残った雪も見える。
 これだけ単調な光景なのに、画面を持たせている(弛緩していない)のがすごい。
 この湿った草地こそ、北国の人が待ちに待っていた春の訪れを象徴しているのだろう。
 オホーツクの春は、とりわけ遅い。
 ゴールデンウイークに雪が降る年も珍しくないし、たいていはそのころまで網走湖は結氷している。筆者は5月になってから網走の海岸で流氷に触ったことがある。
 そんな風土だからこそ、春の喜びは、他地方にまして大きなものがあるのだ。

 出品作は8点。すべて水彩で、小品はない。
<風>2003年 91.0×116.7
<静寂-サロマ湖>2002年 72.7×91.0
<午後の日ざしの中で…>2006年 91.0×116.7
<足音>2007年 72.7×91.0
<海のうた>2007年 72.7×91.0
<旅立ち>2007年 91.0×116.7
<祈り>2008年 80.3×100.0
<春>2008年 72.7×91.0


2009年3月17日(火)-28日(土)10:00-17:00(最終日-15:00)、日曜・祝日休み
らいらっく・ぎゃらりい(中央区大通西4 北海道銀行本店1階 地図A

道銀文化財団

北海道の水彩画 みづゑを愛した画家たち(2008年4-6月)


 ちなみに、筆者が調べ得た範囲で、道銀芸術文化奨励賞を受けた美術関係者は次の通り(敬称略)。ほかにもいらしたら、ごめんなさい。

第17回 福井路可
 16回 野又圭司
 15回 鈴木涼子
 11回 伽井丹彌
 10回 陳曦
 9回 香西信行
 7回 堀木淳平
 6回 佐藤克教
 4回 橋本礼奈
 1回 北口さつき


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