板状の硬いチョコレートを両手で持って折り曲げて折ると、ペキッと音がする。
本当にかわいい音が響く。
一方音がしないチョコレートもある。
こっちはサクッと静かに崩れる。
高級品のほうです。
静かに崩れる高級品のほうは、ぬかるみになるまでの時間が早い。
最初から観念している。
チョコレートの包みを開く。
まわりを包み込むような香り。
南国の香りの中に風が吹いている。
谷を越え、森を吹きわたってくるチョコレート色のそよ風。
恋の予感か、ああもう恋なのか。
何だかよくわからないが、チョコレートってなんかこう、どこかで恋とつながっているところがあるような気がする。
バレンタインデーにはやはりチョコレートか。
魅力に満ちた艶消しの光沢。
チョコレートは魔性のお菓子でもある。
口に入れたとき、人は一瞬とまどう。
いきなの噛む人はいない。
とりあえず、恐る恐る噛むと、そのものは少しずつ溶けていく。
溶けていくにしたがって、甘みがだんだん強くなっていく。
その甘みの果てに歓喜にあふれたとたん、そのものは溶けて消え失せる。
もうちょっと待って、というところでサッと姿を消す。
魔性の菓子といわれる由縁がここにある。