回顧と展望

思いついたことや趣味の写真などを備忘録風に

逆ホームシック

2020年12月06日 18時13分02秒 | 日記

しばらく海外に駐在して日本に戻って来た時の独特な感覚は何度繰り返しても慣れないものだ。自分の場合ロンドンに2回、ニューヨークに1回、それぞれ5年以上と言うかなり長い期間駐在した。そこには、自分の生活のすべてがあった。家も車も友人も、そして仕事も。もちろん日本とは毎日のように仕事で会話をしているのだが、それでも、まるで何か半透明の膜ででも仕切られたように断絶された期間だった。駐在中に何度か数日間、出張や私用で日本に帰国し、同僚、家族や友人とも会うのだが、時差も解消しないうちにまた赴任地にもどる。そうするとむしろそこにこそ今の自分の生活の基盤がしっかりとあるのを逆に実感したりするものだった。

それが、次の仕事の辞令を受けて日本に帰国するということになるとそれらすべてを清算して出発しなければならない。帰る直前になると自分の回りの物すべてがなぜか愛おしく見えてくる。帰国自体は新しい仕事や自分のキャリアにとって魅力的なものなのだが。

帰国してからしばらくは日本の生活やスピードに、自分のこととは思えないような違和感を持つ。言ってみれば体は日本にあるのに頭は(あるいは心は)まだ外国にあるようなものだ。そうは言ってもまたロンドンやニューヨークに戻ることは現実には(仕事の関係からも)できないので、どこか宙ぶらりんな感覚。それが数か月たつとある日すっかり日本になじんでいる自分を見つけることになってそれはそれで不思議な感覚に捕らわれる。

こんなことを3度も繰り返してきた。もっとも、2度目にロンドンから帰国する時に現地の友人(その友人は母国が革命によって財産の大半を没収され、たまたまロンドンに家を持っていたのでそこに移り住むことが出来たのだが)から、もうこんなに長くイギリスに住んだのだから万一の場合のリスク分散を兼ねて家を買ったらどうか、と勧められた。

日本に革命のようなことが起きるとは思えないけれども、言われてみれば、気分転換のためにでも時々訪れるためにイギリスに棲み処があっても悪くない、とおもい、少しは土地勘のあったウインブルドンに家を買う事にした。 確かに家を持っていることは(買うときには大変な手続きになったが、弁護士に一任したので、自分にはそれほどの負担にはならなかった。ただ物件の選択は自分でしなければならなかった)費用の面はともかく、いつでも気楽に行けるという利点がある。ホテルをいちいち予約するような面倒なことから解放された気分だった。たしかに10時間ほど飛行機に乗れば何の気兼ねもしなくて済む家に着くという便利さだ。多い時には年に数回、仕事であったり、あるいは友人に会ったり、会員になっている会の会合に出席したり、時には特段目的もなくロンドンに行くことがあった。ヒースロー空港に着くとそこの空気が肌にしっとりと何の違和感もなくなじむように思える。そして都心に向かう高速道路を走る車からみえる、少し疲れたように走っている地下鉄を見ているとなんとも言えない安心感のようなものを覚える。

ニューヨークの住んでいた時も知人から家を買うことを勧められたけれが、どう考えてもしっかりと管理するのは難しいと思いやめにした。それでもニューヨークから帰る日の最後の日にはひょっとするともう二度とこの地を踏むことはないかも知れないと思い、何か胸にせまるものがあった。だから翌日と東京行きの便に乗る時にはそんな感傷を振り切るように、ちょっと東京に行ってくるのだ、と自分に言い聞かせたように思う。

歳をとれば何事にも感傷に浸ることはないかと思っていたが必ずしもそうではない。それはきっと自分が人間としていつまでも未熟なものを持っているからなのだろう。周りにはそんな感傷を全く持ち合わせていないように見える人が多い。そういう人はきっといつも前を見て進んでいるのだろう。

 

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3 コメント

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Unknown (michi)
2020-12-12 05:54:17
こんばんは。お久しぶりです。
お元気にされていますか。
わたしは無事フランス生活一年を終えたばかりですが、フランスで出会った人々がもう自分にとって大切なものになっていて、いつか日本に帰る日を思うと、すでにさみしく感じています。何度もそんな経験を繰り返されたharborside さま、わたしには到底想像できません、、、いつかこの寂しさを乗り越える方法を教えてください!
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Unknown (harborside)
2020-12-12 14:08:05
michiさま、
コメントありがとうございます。
no news is good news、とは思っていましたが、パリで充実した日々を過ごされておられる様子を伺い安堵いたしました。
また、フランスで二度目のお誕生日をむかえられたとのこと、おめでとうございます。
当方体調のこともあり、ブログの更新が思うようにできない日が続いています。
michiさまもお体を大切に。
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Unknown (michi)
2020-12-13 04:50:51
そうでしたか。寒くなりますし、暖かくしてお過ごし下さい。遠くから、harborside さまの体調が良くなりますよう願っております。
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