あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

あなたの為

2017-07-10 | 高座
いやいや、どうも、久々の高座でございます。
あたくし、清水亭聖笑と申します。以後お見知りおきを。
いやあ、本当に久しぶりでして、最近とんと出番がございません。
かれこれ半年ぶりですか、何をやっていたんでしょうかね。
そりゃ夏の忙しい時はブログなんぞもアップができないことはあたしも分かっている。
で、夏が終わってヒマになるからそろそろ出番かな、なんて思って待っていたんですが、記事はトーマスのことばかり。
ええ、あのトーマスですね、あたしもよく知っていますよ。
若い時には互いにやんちゃをした仲でしてね。
え?何をしたかって?
そんなこと聞くのは、あーた、野暮ってもんでしょう。
そんなトーマスの話ばかりですからね、あたしの出番なんか待てど暮らせどありゃしない。
とうとう痺れを切らしましてね、啖呵売りにちょこっと出てきたんですよ。
ええ、そうです、食の安全とはというあの話の中の啖呵。
あれはあたしです。
どうにもこうにも我慢ができなくて出てきちゃいました。
なかなかに評判が良かったようでして、こうやって出番をいただきました。
今回も一席、よろしくお付き合いのほどお願いいたします。

つい最近ですが、日本のドラマを見ていたらこのセリフが出てきたんです。
「あなたの為を思って言うのよ」
人がよく言うこの言葉、あたしも子供の頃に言われたことがあります。
そう言えば最近は言われたことがありませんな。
これはどういうシチュエーションで使われる言葉かと申しますと。
親が子供に言う「あなたの為を思って言う」これが一番多いのではないでしょうか。
それから先生が生徒に言う、「君の為を思って言う」これも多そうですね。
あとは上司が部下に言う、「お前の為を思って言う」ありそー。
たまに同僚とかも言いますが、まあほぼ間違いなく、大人が子供に向かって、年配者が若輩者に言う言葉であるわけです。
子供が大人に言うことはありません。
もしいたら・・・イヤ~なガキでしょうな、そいつは。
でも会ってみたいな、そんなガキ。
なんかインテリ眼鏡みたいなのかけて、子供のくせにネクタイなんかしちゃって、でも子供だから半ズボン。
インテリ眼鏡をクイっと持ち上げてその眼鏡がキラリ、そしてこのセリフ。
「もっとちゃんとしなさい。そんな噺家なんてやってないでまともに働きなさい。そんなことではまともな老後を過ごせませんよ。私もこんなことを言いたくないのです。でもあなたの為を思って言うのです」
ああ、言われてみたい~。
いやあ、あたしはMじゃあありませんよ。
Mじゃあないのですが、広い世の中、探せばどこかに居るのかもしれません、そんなガキ。
そんなガキが出世しちゃったりするんでしょうかね。
まちがっても噺家やガイドにはならないでしょう。

それはさておきこの言葉、ほとんどの場合、『上』の人が『下』の人に向かって言います。
年齢が上だったり、立場が上だったり、力関係が上だったり。
そこにあるのは常に上下の関係ですね。
上の人が下の人に、自分の意見を押し付ける決まり文句と言ってもよいでしょう。
結局は人をコントロールしたい、自分の価値観を人に押し付けたい。
言い方を変えれば、自分の価値観の沿って他人を動かしたい。
ニンゲンというのはそういう生き物なんですね。
そしてお決まりの自己正当化、あなたの為。
本当は人をコントロールしたいのですが、それを表に出すと嫌なヤツになっちまうので、「あなたの為」この言葉で善人になれると。
偽善とはこういうことなんです。
ああ、いやだいやだ。

もし本人の為を思うならですよ、その時は放っておけばいい。
こう言うと短絡的な人はすぐに、そんなの可哀相じゃないか、とかそんなのひどい、とか言いますね。
「お前には慈悲というものはないのか、血も涙もないのか、鬼、悪魔、人でなし、バカヤロー、この出番の少ない売れない噺家め!」とまで言われてしまう。
でもねでもねでもね、そもそもその人の身の回りに起こっている事は、その人がした事、もしくは今もしている事が原因なので、外野があれこれ言ってもどうしようもないでしょうに。
仏教の言葉で因果応報などと言いますし、酷い言い方だと自業自得とも言います。
それによって痛い目に会うのなら、それも仕方ない。あきらめてもらいましょう。
例えばお酒を浴びるほど飲んでる人に「あなたの為を思って言うのです。お酒やめなさい」なんて言ってもやめやしない。
あなたの為と言うより、その人が体を壊したら自分にとって何らかの不都合が生じるのかもしれない。
そうやって言ってやめるぐらいなら、とっくにやめていることでしょう。
その結果体を壊したらそれまでだし、ひょっとしたら日に三升も飲んでも体を壊さないかもしれない。
まあ一日に三升も飲んでいたら、体を壊す前に懐が冷たくなるでしょう。
それはそれでまた別の問題ですね。
ですからね、もしも子供が親の望む進路を進まなくてもそれは子供の人生。
暖かく見守ってあげるのが親の役目と、あたしなんぞは思うんです。
あ、でも人の道を踏み外す時には別ですよ。
その時は「あなたの為」なんて甘っちょろいものではなく「ならぬものは、ならぬ」と会津の教えのように言うべきでしょう。

話はころっと変わりますが、あたしもね、こんな話をするつもりじゃなかったんですよ、今回は。
だって久々の出番ですよ。
もっとこう、毒にも薬にもならない、何といいますかね、どうでもいいような話がしたかったんです。
それがですよ、この人、このブログを書いてる人、皆さんご存知ですよね。
そうそう、あのオッサンです。
この人が書いてる途中で「さすがに毒が強いかな」なんて思っちゃったんでしょう。
話の途中で「じゃあ、後は師匠に任そうか」なんて言い始めて、急にあたしの出番が来ちまった。
「旦那、それはないですぜ」なんて言ったんですが聞きやしない、あの男。
ええ、そりゃこちらは慌てましたさ。
笑い話にならないでしょう、こんなネタ。
お気楽に人を笑わすのがあたしの役目なのに、こんな説教じみたこと、その辺の坊さんにでも言わしておけばいいんですよ。
だいたいこんな話をどうやって下げりゃいいんですかい?
そうやって旦那に聞きましたら「それを考えるのがお前の仕事だろう」ですって。
ひどい男だと思いませんか?
あまり愚痴をこぼすと出番が無くなるのでこの辺にして、そろそろお時間です。。
とにもかくにも、『あなたの為を思って』という言葉は本当にあなたの為を思っていない、という事をあなたの為を思って申し上げます。
ありがとうございやした。

どどん、どん、どん。
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光陰矢のごとし

2016-12-10 | 高座
え、毎度のお運びで、あたくし清水亭聖笑と申します。
ああ、うれしいですね。
パソコンの向こう側、ネット回線を通じて「よっ、待ってました!」なんて声が聞こえてまいりました。
こんなろくにアップもしないようなブログにお付き合いしていただくなんて、つくづくファンの皆様は酔狂なもので、いえいえ、ありがたいものです。
実に久々の高座でありまして、最後に出てきたのはいつだったでしょうかね。
もう思い出せないぐらい昔のことでしょうか。
きっとどうでもいいんですね、そんなこと。
たま~に出てきて、毒にも薬にもならないどうでもいいことを喋って、「次の出番はいつかな」と思いつつ消えてゆく。
あたしなんてそんな存在なんです。
でもね、そんなどうでもいいようなことが大切だったりもするわけなんです。
世の中四角ばっかりじゃつまらない。
三角もあれば丸もある。
楕円もあれば星型もあり、いろいろな形と大きさがある。
その隙間を埋めるのがあたしの役目。
今回もちょいとばかしお付き合い願います。

それにしても時が経つのは速いものですな。
ついこの前、年が明けたと思ったらいつのまにやら年の瀬。
あっというまに1年が経ってしまいました。
光陰矢のごとし、などという言葉もあります。
ええ、みんな急いで帰るんですよ。
仕事を終えた工場勤めの人が、びゅーっと。
え、ちがいますか?ちがいますね。それは工員。
月日が経つのが速いことです。
忙しいとなおさらのこと。
「今年は忙しくなるぞ」と親方には言われておりましたが、始まってみるとこれが目の回るような忙しさ。
毎日毎日あちらこちらを飛び回り、あっというまに11月が過ぎ、気がついてみれば12月の半ば、もう年の瀬です。
もっとも年の瀬と申しましてもこちらはニュージーランド。
日本のように師が走ることもなく、のんびりとクリスマスを迎えようという時期なのです。
けれどもあたしたちガイド連中は今が稼ぎ時。
今忙しくなかったら、いつ忙しいんだい、という具合ですから。
それにね、毎日お客さんを案内して大変なことは大変なんですが、この仕事は基本的に人を楽しませる仕事。
いいですね、こういう仕事は。
あなたハッピー、わたしハッピー、チップが弾めばもっとハッピー、そのチップで美味い物を買えば家族もハッピー。
みんながみんなハッピーになるのって、いいと思いませんか?
世の中には人の足を引っ張る仕事とか、人のアラを探すような仕事とか、人を陥れようという仕事もあるんです。
まあその道を選ぶのもその人の責任なので、あたしはそれ以上言いませんけどね。
その点あたし達のような噺家は、あ、いつのまにか噺家になっちゃいましたけど、ガイドも噺家も似たようなものなのでいいですよね。
あたし達は人を幸せにさせて、そのおかげでおまんまを食っている。
ありがたいことじゃあありませんか。
そもそもはたらくという言葉の語源は、はた=他人 らく=楽しむ だそうなんです。
すなわち、人を楽しませる、人を楽にさせるというのがもともとの意味。
それがいつのまにか、はたらく=金を稼ぐ というようになってしまった。
うーん、なんでこうなってしまったのか。
なのでね、みなさん、働いても金が稼げない噺家をもうちょっと見習いましょう。

以前知り合いになったホテルのマネージャーの方が言ってました。
「いいなあ、ガイドさんは。1日の終わりにお客さんが『ありがとう』って言ってくれる」
その方はマネージャーという役職なので、何か事あると謝ってばかりなんだそうですね。
ああ、確かにそう言われてみればそうだなあ。
お客さんがありがとうって言ってくれる仕事っていいなあ。
考えてみてください、駐車違反やスピード違反で罰金取られた時に「ありがとう」って言えますか?
泥棒に入られた時や詐欺にあった時にありがとう、って言えないですよね。
もっとも詐欺の場合は最後まで本人が気がつかなければ、それはそれで本人が幸せでいいのかもしれません。
お客さんがありがとうと言う、これは世の中においても大切なことだと思うのです。
ですからあたしはバスに乗った時にもドライバーにありがとうと言いますし、買い物をした時や食事をした時にも言うように心がけています。
あ、でもそれは、自分が納得のいくサービスを受けた時ですよ。
レストラン行って、不味い物食ってひどいサービスを受けて、ありがとうと言うほどあたしゃ人間できていません。
それにはサービスを提供する方も、きっちりとした仕事をしなくてはなりません。
噺家は稽古をしなくてはならないし、ガイドだって勉強しなくてはならないのです。
お客の方も、こっちは金を払ってるんだという態度ではいけません。
ええ、これでは上手くいく事もまとまらなくなっちまう。それは傲慢というものです。
かと言って「お金を払わせていただきます」というのも卑屈になってこれはいけないですな。
卑屈にならず、かといって傲慢にもならず。
ほどほどのところで軽い気持ちで「おっ、ありがとうさん」という具合に、これが粋ってもんじゃあないでしょうか。
お互いにありがとうと言い合う関係は社会の理想なのだと、あたしは思うんです。

さていつものように毒にも薬にもならないようなことをダラダラ書き連ねましたが、そろそろお時間。
ええ、あたしも今日からまたツアーの日々でございます。
こうやって仕事がたくさんあることもありがたいことでして。
旅行関係の仕事なんて地震があったり、政情が不安定だったりするとすぐになくなりますから。
ツアーというものは、行く先と出発する元、この二つが安定していて成り立つものなのです。
なのでね、お金を払ってくれるお客様にもありがたや。
支えてくれる家族にもありがたや。
段取りしてくれる会社にもありがたや。
自分自身にありがたや。
最後にすべてを乗せた地球にありがたや、ありがたや。

では最後に、
ガイド稼業と掛けて、海に漕ぎ出す小船ととく、その心は

波に揺られることでしょう。

ありがとうございやした。
どどん どんどん。


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ビールの泡

2016-09-19 | 高座
え、毎度のお付き合いをお願いいたします。
あたくし清水亭聖笑と申しまして、ここの出させていただくのも何回目ですかね。
そのうちにこのブログを乗っ取っちまおう、なんてことを虎視眈々と狙っているわけです。
さてビールの話なんですが、あたしはあのビールってやつが好きでしてね。
三度の飯よりビールが好き。
ビールの無い人生なんて考えられない、ていうくらいのビール飲みなんです。
もう時効だから話すんですが高校生の時には友達の家で飲むなんてのはザラにあったし、中学の時だってテスト期間で部活がないなんていうと悪友が集まってコソコソ飲んでたりしてました。
忘れもしないのは小学生の時に、野球少年団の集まりで焼肉屋に行った時、酔っ払ったおっさんに誘われしたたか飲んで、その場で監督にビンタを張られ場を白けさせたこともありました。
なんでこんな手前の恥をさらけだしてるんですかねえ、あたしゃ。
だから自分の子供にも「飲むな」なんてことは言えやしない。
それどころか「飲め」って言ってるんだが、うちの娘は飲みやしない。
まあまだお子ちゃまだからね、ビールの苦味の旨味なんてのは分からないでしょうな。
こう、グラスを持ってですな、琥珀色をした液体の中から泡がシュワシュワと立ち上がるのを先ず目で味わう。
香りをかぐとホップの匂いと麦の香り、そして喉を通る時の爽快感のあとにやってくる香りと旨味。
あー生きていてよかった、とゲップを一発。
そんなビール飲みのあたしですし、何でも自分で出来ることは自分でやってやろうと常日頃から思っているので、自分でビールを作るようになるというのは自然の流れだったんでしょうな。

ビールを造るなんて難しいんじゃないか?
ほとんどの人はそう思うでしょうし、あたしもそう思いました。
人間というものは未知のことに対して、まず否定的な気持ちから入っていくものですね。
ニワトリ飼うの難しいんじゃない?石鹸作るの難しいんじゃない?
で、実際やってみるとそれほど難しいもんじゃない。
ビールも同じことですね。
やってみると意外と簡単だった。
簡単と申しましても、タンクやボトルの洗浄や消毒など手間はいろいろとありますが難しいものではない。
どうやってビールができるか簡単に説明をしますね。
まず大きなタンクに市販の麦汁、これはドロドロの液体なんですが、これを入れる。
そこに熱いお湯と砂糖を入れてよく混ぜる。
そこに水を足していって、23リットルまで増やす。
温度が低いようならさらにお湯を足して、要は23リットルで20度ぐらいにすればいいのです。
何故23リットルかって聞かないでください。
あたしも知らないし調べるのも面倒くさいし、とにかく売っているキットは23リットルで統一されているので、そういうものなんです。
そこにビール酵母をパラパラとふり掛け、あとは待つのです。
ビールの酵母によって温度もいろいろあるのですが、だいたい20度前後で醗酵します。
タンクには温度計も付いてますからそれで冷たすぎたらヒーターのそばで温めてなんてことをして発酵させるのが1週間ぐらい。
タンクの上には空気抜きの穴があって、空気が逆流しないような仕組みがある。
それが、ポコポコ、ポコポコと醗酵の時に音が出る。
この音が好きでしてね、ああ、酵母が生きているなあと思うのです。
1週間ぐらいするとその音も止まる。
酵母の餌の砂糖が醗酵されてアルコールになったんですな。
次は瓶詰め作業。
瓶に入れてそこにまた砂糖を入れて栓をするというものです。
この段階ではビールのアルコールと味はできているけど、あのシュワシュワがない。
まあ気の抜けたビールですので、瓶の中で二次醗酵、ここで炭酸ができる。
瓶につめて2週間ぐらいしたら完成と、まあこんな具合でビールというものができるわけです。

さてビールと一口に言ってもいろいろありまして、上面醗酵のエールビール、下面醗酵のラガービール。
その中でもペールエールだのスタウトだのピルスナーだの、まあとにかくたくさんあるわけですね。
こちらのお店ではそういったお客さんの好みに合わせて、さまざまな種類のビールの素が売っているわけです。
そうやって作ったありきたりの物では気がすまない、もっと美味しいビールができないか、という人には別売りでホップなんかもあります。
そのホップの種類もいろいろあって、このビールにはこのホップが合うなんてのをお店では教えてくれる。
そうやって自分なりのビールを造ったけどまだ上を目指したいと、いう人向け用のキットもあります。
それは麦を煮出すところから始めるという専用キット。
あたしもやってみましたよ。
家にある鍋だと小さいな、もっと大きい鍋がないかなと思って友達のサムに聞いたらやっぱり持っていて、そいつをちょいと借りてきました。
大鍋に麦を入れて煮出し、そこにホップをつけて弱火で煮て、途中でという具合に半日がかりでしたがね、やりました。
そしたら、あーた、これが美味いのなんのって、まず香りが良い。
きっちりと麦の香り、匂いじゃなくて香りなんですが、これがある。
飲んでみると、さわやかでいて軽すぎない、それでいてどっしりしすぎるわけでもなくて、なおかつコクもある。
まあ全体のバランスが良いんですな、そんなビールができあがりました。



さて冬になると、あたしの本職のスキーの仕事も忙しくなってまいりました。
ええ、あたしの本職はスキーなんです。
間違っても大根農家とかビール職人とか、ましては噺家なんてものではないんです。
そちらが忙しくなるとなかなか時間が取れない。
なので市販のパックに戻ったのですが、次に目をつけたのはビール酵母。
この酵母も、これまたいろいろありまして、酵母によって醗酵の温度が違うんです。
エール酵母ですと醗酵が20度前後。
これだと冬の寒い時には温度を上げてやらないと醗酵が進まない。
そこで見つけたのがラガー酵母。
それも低温発酵のヤツ、温度は8度から14度。
これなら家の一番奥の部屋でちょうどいいのではないか。
そして諸先輩方に聞いたところ大切なのは8度から14度の間を行ったり来たりするのでなく、一定の温度を保つのが成功の秘訣だと。
そういったアドバイスを聞いて、家の奥の部屋を閉め切って温度をできるだけ一定にして、なおかつ醸造タンクにダウンジャケットを着させる馬鹿っぷり。
低音でゆっくりと醗酵するのがラガー酵母の特徴のようですな。
そうやってできあがったのが『バーバリアンラガー聖笑スペシャル』
いやはや、これがまた良い出来でしてね、すっきり軽やかなラガービールのできあがり。
さらにその次にはピルスナーにも同じように挑戦。
こちらは酵母を高級なものしてやってみました。
『ボヘミアンピルスナー聖笑バージョン』こちらも美味いビールができましたとも。
さっぱり系のビールが続きましたから、今はどっしり系のスタウト、黒ビールに近いようなものを醸しておりまして、今日もまたタンクからコポコポと酵母の息吹が聞こえるのです。



さてこういった手作りビールでは瓶の底に澱(オリ)が溜まります。
この澱を混ぜないようにそうっとグラスに注ぐわけです。
これが混ざると味もやはり濁ってしまう。
結局のところ上澄みを飲むんですな。
この澱も普通なら流しで捨ててしまうのですが、我が家ではとことん無駄にしません。
この澱にも活用術があるのです。
それは庭のナメクジ退治。
うちは完全オーガニックでやってますから、そりゃ虫だっている、なめくじだっています。
このナメクジの多い所に小さな容器にビールの澱を入れておくと、次の朝にはナメクジが溺れ死んでいる。
澱と言ってもビールですからアルコールもある。
酒池肉林という言葉がありますが、奴らにとってはまさに酒の池、酒に溺れて死ぬなら奴らも本望でしょう。
ナメクジ共もそうやって酔っ払って死んで、そのナメクジのビール漬けをニワトリ達が喜んで食う。
とことん無駄にはいたしません。
そのニワトリが元気に卵を産んでくれる。
最近では春になって活発になって1日5個の卵が取れます。
そうやって我が家で循環しているわけです。

「おい熊、起きろ。この熊、起きねえか」
「え、もう一杯ちょうだいいたします」
「何を寝ぼけてるんでい、もう朝だぜ。」
「なんだい、ハチ公じゃねえか。せっかく美味いヤツをやってたのに、いいところで起こしやがって」
「まったく、おめえってヤツはよ。それでどんな夢を見てたんだい」
「おうよ、それがよ、酒の風呂なんだよ。」
「なんだい、その酒の風呂ってのは」
「文字通り酒の風呂さ、水の代わりに酒が入ってるんだよ。風呂桶はきっちりと檜でな。真新しい檜のいい匂いがするんだ。そこに浸かって純米大吟醸の美味いヤツをキューっとやってたらな、酔っ払って溺れちまってな。気がついたら三途の川を渡ってるんだ。」
「嫌だね、おめえは、縁起でもない」
「川を渡ってるんだが、その船が屋形船でな、その肴と酒が旨いこと旨いこと。刺身は角がびしっと立って新鮮なんてものじゃねえ。天ぷらがカラっと揚がって、天つゆに入れるとジュなんて音がするぐらいだ。そのうちに花火なんか上がり始めてよ。いつのまにか一緒に飲んでるのが閻魔大王様てんで、それなら怖いものはねえ、したたかに飲んでいたところだったのになあ。」
「すまねえ、そんな夢ならもう少し寝かしといてやりゃよかったな」
「ああ、そんな夢みてえな夢もビールの泡と一緒に消えちまった」


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南島満遊記

2016-08-22 | 高座
えー、度々のお運びで。
清水亭聖笑と申します。
ここで出させていただくのも何回目でしょうかね、しばらくご無沙汰でした。
ほら、そこの旦那。
今、ニヤっと笑って、「お、今回はこいつが出たぞ」と思ったでしょう。
これが寄席でしたら「待ってました!」と声が飛ぶんですが、こういうブログだとそうもいかない。
こちらとしては、あの旦那さんがあの女将さんが読んでくれるんだろうな、そんなことを思いながら話を進めるわけです。
しかしなんですな、時が経つのは早いもので、もう8月も半ばを過ぎてしまいました。
この前やっと冬が始まったと思ったのに、うちの庭ではチューリップなんかが芽を出し始めてたりして、ふきのとうなんかも出ちゃいました。
スキーヤーのあたしとしてはちょっとさびしかったりして。
あ、言っておきますがね、あたしはもともとスキーヤーでして、本職はスキーなんです。
間違っても、噺家が本職ではないんです。
スキーできるんです、こう見えても。
スキー場以外であたしに会いますと「本当にスキーなんかできるの?このさえないおっさんが」という目で見られますが、一応、人並みに滑れるんです、はい。
そんなスキーヤーの感覚ですと、今は冬真っ盛り。
山は白銀の雪に覆われ、吹けば飛ぶような軽い新雪がどっさり積もった中を、ばふばふと滑るのが理想です。
ところがもう冬の盛りを過ぎてしまい、巷では春の兆し。
あこがれていたあの先輩に想いを伝えられずに近づく卒業式を迎える女子高生のような。
もしくは長い行列を並んでやっと頼んだラーメンを、空腹のあまりむさぼり食って気がついてみたら汁しか残っていなかったような。
そんな心持なんです。
さてね、ここ数日ブログもアップしてなかったんですが、遊んでいたわけではないんです。
ちゃんと働いていましたよ。
そりゃお盆といえば我々は一番忙しい時期。
あっちからもこっちからもガイドの依頼で声がかかるのであります。
ありがたいことですな。
でもこちらの身体は一つですので予約は一つしか受けられません。
この仕事は数ヶ月前から予約が入っておりましたので、あちらを断り、そちらにお詫びをして、という具合でした。
そして行ったのが南島ツアー。
クライストチャーチからテカポ、マウントクック、クィーンズタウン、ミルフォードサウンド、という王道コース。
今までに何回こういうツアーをしたか数え切れないのですが、真冬は初めてです。
まあ、一応専門はスキーですので8月のこの時期はスキーの仕事が全てでしてたが、今回は観光とちょっとしたハイキング。
今まで自分が何度も行った場所で時期が変わればこういう景色になるんだろうな、と思っていました。
ですが実際に自分の身をそこに置き自分の目で見て肌で感じるものは違う。
新鮮な感覚でツアーをしまして、あたしも楽しませていただきました。
でもなんですな、こうやって見てみると今さらながらこの国はすごいなって思います。
氷河も山も湖も森も海も全てすごい。
そして人間ってちっぽけなものだな、でもちっぽけでもまぎれもなく存在している。
そんなことを考えて数日間過ごしたわけです。
普段はカメラも持ち歩かないのですが、今回は写真をたくさん撮りましたので一挙に公開します。
写真ごとのコメントはしませんが、「ああ、ここはあの場所だろうな」と思ってください。
さて「トラベルの語源はトラブルである」などと申します。
旅というものは人生と同じでさまざまなトラブルがあるもので、その都度それに対処しながら前に向かって進むものです。
特に多いのが忘れ物。
「はい、皆さん、忘れ物ありませんか」なんていつも言っているのですが、そんな自分がやっちまった。
クィーンズタウンタウンの宿の戸棚にダウンジャケットを忘れてきた。
出発する時に何か忘れているような気がしたんですが、ダブルチェックをしなかったら、やっぱりそれだった。
まあ、クィーンズタウンのボスに連絡をして、預かっといてもらいました。
♪私バカよね~おバカさんよね~
バカでもいいんです、どうせすぐに春になるし。
それより落語の落ちができました。
今日の下げは英語圏だけにダウンといたしましょう。

ドドン、ドン。



































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8月9日 Craigieburn

2016-08-10 | 高座


えー毎度のお運びで。
あたくし清水亭聖笑と申します。
え?出る場所が違う?
そこは最新雪情報だって?
まあ、いいじゃあありませんか、固い話は抜きにして、あたしに出番をくれても。
今回は清水亭聖笑がお届けする雪情報、クレーギーバーン編でございます。
しかしまあ、雪が降ってくれまして一安心ですな。
スキーヤーなんてものはですね、雪が無けりゃただの人、いやそれ以下のものでしょう。
雪が無いと仕事もない。
やって来るお客さんの機嫌も悪くなります。
些細なことにも腹を立てて「あのガイドの態度がなっとらん。雪がないのもあいつのせいだ。賠償金払え、慰謝料払え」と無理難題をふっかけられる。
番頭さんにはすまなそうに「悪いがお前さん、泥をかぶっておくれ」と暇を出される。
子供は鼻水を垂らしながら「父ちゃん、ひもじいよう」
かみさんはやつれた顔で「あんた、どうすんのさ、この寒空に路頭に迷って」
「そうだな、こうなったら一家で大川に身を投げるか」となってしまいますが雪が降れば話は別。
お客さんはニコニコと機嫌よく、時にはチップもはずんでくれる。
お客さんがハッピーだと、仕事が終わった後のビールも飯も美味い。
ボスも機嫌よくボーナスなぞくれたりして、好いことずくめですな。



さて昨日はクレーギーバーンへ行ってまいりやした。
お客さんはオークランド在住のハイデン、歳の頃は20代前半といったところでしょうか。
彼と二人で山に向かいました。
国道から山道へ入ると様相は急に変わる。
森の中の雪道になるんですが、これがまた綺麗なんです。
朝日が森に差し込んで、時折木の枝に積もった雪がふわっと落ちて、それが朝日に照らされキラキラと光る。
「なんか別の国に来たみたいだなあ」とハイデンがつぶやく。
ニュージーランド人でもそう思うんですねえ。
もっともオークランドなんて大都会はあたしらから見れば外国のような場所ですがね。
そのうちに木々の隙間から山も見えてくると、ハイデンの興奮も高まってくるのがこちらにも伝わる。
ああ、分かる分かる、その気持ち。
あたしも25年ぐらい前に同じようにワクワクしながら友達とこの道を通ったものでした。



駐車場に着き、荷物を持ってロッジに行きます。
ハイデンは5日間、ここに滞在。
あたしは街で別の仕事があり、スキーをせずに引き返しますので彼ともここでお別れ。
一期一会ですが、こういうのもいいですな。
今年は何回かクレーギーバーンに足を運んでいるんですが、まだ滑っていない。
タイミングが合わないというのはこういうものなんでしょう。
スキーはしないのですが、せっかく山に来たのでロープトーの乗り場まで歩いてみました。
ちょうど通りかかったパトロールと一緒に雪の話なんぞしながら5分ぐらい歩きます。
山のあちらこちらに、好き者が滑ったあとがあります。
あたしが見ましても「まあ、よくもあんな所まで行ったねえ」なんて場所まできっちりシュプールがついていました。
そしてクレーギーバーン名物の曲がったロープトーの写真を撮って、山を後にしました。
スキーをしたかったのは山々ですが、いいんです、あたしは。
ハイデンのキラキラ輝く目とワクワク感で充分。
まだかけ出しとはいえ、あたしも噺家のはしくれですもの、滑らせてはいけないでしょう。

ドドンドン


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ウンは運。

2016-08-03 | 高座
えー、毎度のお運びで。
今日も馬鹿馬鹿しいお話にお付き合いお願いいたします。
あたくし、清水亭聖笑と申します。以後お見知りおきを。
この名前もですね、ふとしたことからついちゃったんです。
ふざけ半分で高座調でブログを書いたら受けに受けて、龍という友達がコメントに清水亭聖笑という名前をつけてくれました。
この友達というのが古い付き合いでして、昔は互いにやんちゃを共にした仲。
どんな悪さをしたかって?
へへ、悪さと言えば飲む打つ買うってのが相場でしょうが、そんなの一々聞くのは野暮ってもんです。
奥さんとの馴れ初めも知っていますし、その奥さんと一緒にスキーパトロールとして働いたこともありました。
当時我々はクィーンズタウンを拠点にブイブイ言わせておりまして。
その奥さん、当時はまだ奥さんではありませんがこの娘がまた可愛くてね。
髪はショートカットでちょっとボーイッシュ、クィーンズタウン小町などと呼ばれておりました。
狭い町なので噂が広まるのも速い、みんな若い盛りなので男共はみんなその娘を狙ってる。
そんな中でさらりとその娘をさらっていったのがこの男、いつのころからか二人で手をつないで街を歩いてたりなんかして。
失恋にあけくれた男共が悲しみにくれて昨日一人、今日一人、ボチャーンボチャーンと真冬のワカティプ湖に身を投げる始末。
この男が個性の塊のような仁でして、あたしもかなり個性は強い方ですが負けず劣らず、類は友を呼ぶと申しますな。
若い時にはずいぶんとがっていて、出る杭は打たれて出すぎりゃ抜かれてという具合で苦労もしましたが、今では千葉に新居を構えて夫婦仲むつまじく一姫二太郎という家族をもっています。
去年に日本に帰った時も成田にJCと迎えに来てくれて、ニュージーランドに帰る時には空港まで送ってくれたわけです。
え?JCって誰かって?
あーた、それをここで聞いちゃいけない。
それこそ話の収集がつかなくなっちまう。
そういうのはですね、『ああ、きっとJCという人の話もいずれ高座にでてくるんだろうなあ』というひそかな期待を持ちつつ、毎日をつつましく明るく生きるんです。
えー、その龍という友人がつけてくれたこの名前、清水亭聖笑。
好いか悪いかは別として、ついちまったものはあたしのものです。
ちなみにあたしの好きな歌手で竹原ピストルという人がおりまして。
この人の名前が友達につけられたそうです。
まだ無名だったころにつけられて、それでやっているうちにメジャーになった。
今さら変えられない、と本人はちょっぴり後悔しているようです。
きっと飲み会の席かなんかで酔っ払ってついちゃったんですかねえ、トーマスのように。
あたしも清水亭聖笑を襲名しましたから、いずれはこの名前で本でも出しましょうか。

さてウンの話です。
先日、犬の散歩に近所の公園に行った時のことです。
近所の公園と言ったってそんじょそこいらの公園とは違う。
広大な敷地には羊の牧場あり馬のパドックあり、池もあり野鳥もたくさんいます。
馬のパドックを通った時に馬糞がたくさん落ちていた。
これを肥料にしたらどうかな、などと考えました。
そんなおりにばったりと羊の移動にでくわしました。
そこでは時々おじさんが車で羊を移動させているのですが、この時はなかなか羊がいうことを聞いてくれずうまく動いてくれない。
あたしも長いことニュージーランドにいますし、縁あって牧場にも住み込みでいましたから羊の移動のやり方を知っている。
なので犬のココと一緒に羊の移動を手伝ったんです。
その時におじさんに聞きました。
「こんちやー。あのですね、馬のパドックに落ちてる馬糞、持ってってもいいですか?」
「おうよ、お前さんならかまわんよ、好きなだけ持ってきな」
「まあ一輪車に一杯ぐらいなんで」
「ああ、いいよ。勝手にきてやってきな」
「ありがとさん」
そんな具合に許可も得た翌日。



「兄貴、兄貴じゃありませんか。おはようございます」
「おお、八か、おはよう。」
「兄貴、犬の散歩ですか。それにしては妙なものを持ってる。ネコ車なんぞ押してどこへ行くんですかい?」
「ああ、そこの公園に馬のパドックがあるだろ。そこに馬糞を拾いに行くところなんだ。ちょうどよかったお前もついてこい」
「馬糞って馬のクソでしょ。なんでそんなものを?」
「庭の肥料にしようと思ってな」
「ほう、相変わらずマメなお方だね。まあ天気も好いですし、よござんしょ、お供します。」
小川にかかる橋を渡って公園に入ります。
「兄貴、兄貴、こんなところにうなぎがいるじゃないですか。ひいふうみいよう。いやあずいぶんたくさんいますな。食えるんですかい?」
「おお、その鰻は何年か前から住みはじめてな。いつか捕って蒲焼にしてやろうと俺も狙ってるんだ。ちょうどいい、お前川に入って何匹か捕まえて来い。」
「いやですよ。こんな寒い中に水に入るなんて。犬のココに捕らせたらどうです。」
「ダメだよこいつは。夏の暑いときは時々ここで泳ぐんだが、鰻の上をスーッと素通りだ。今度、罠を仕掛けようかと思ってる」
「じゃあその時は呼んでくださいよ。おっと、この先の茂みを抜けると、見えてきた見えてきた。白い雪をかぶった山が今日もよく見えるじゃないですか、兄貴」
「ああ、この遠くに山が見える景色が好きでなあ。」
「あそこがハットで、あの山がポーターズですかい。よおく見ればビッグママの斜面も見えるじゃないですか。それはそうとこの前ブロークンリバーに行ったんですって?ブログで読みましたよ。どうでしたかい?」
「そりゃ良かったさ。なんて言ったって待ちに待ったシーズン初日だよ。言うなれば初物だ。初物を食わねえのは江戸っ子の恥って言うじゃねえか?食ってきたさ、今シーズン初のパウダーさ。そりゃ旨いに決まってる。人が少なくて滑っても滑っても、あっちにもこっちにも残ってる。それをお前はみすみす逃して大馬鹿野郎だね」
「そう言わねえでください。あっしも野暮用がありましてね。でもやっと山も開いて冬らしくなりましたね」
「全くだよ。一時はどうなるかと思ったがな。おう、そこのゲートを開けてくれ。ネコ車を通してと、ココも早く入れ。八はそこを閉めて来てくれ。」
「へい、しかしこの牧場のゲート。まあニュージーランドですからどこもかしこも牧場で羊はいるんですがね。街の中で、それも住宅地のすぐ近くでこういう牧場がある環境ってなかなかないんじゃないですかい?いやあいい公園ですね、ホント。お日様もポカポカと気持ちいいや、へへ。お、見えてきた見えてきた、あれがクソ畑ですね。」
「なんだい、そのクソ畑ってのは」
「いえね馬のクソがあちこちにあって畑のような場所でクソ畑」
「くだらないことを言ってるんじゃないよ。第一お前はクソ、クソって言うけど、あれはウンコ。縮めてウンだ。ウンと言えば運。運がいいと言えば付いてる証。付いていれば何事も上手くいく。バクチでも丁と張れば丁が出る。半と張れば半が出る。今回はと見送ればさいころが重なるというように運が好いというのはそういうことだ。その運を拾いに行くんだ。こんなありがたいことはないじゃないか。それをお前はクソクソと言ってりゃ幸運だって逃げちまうよ。」
「あい、すみません。じゃあ、あっしもその運のおこぼれにあずからせていただきやす。それはそうと馬がいないじゃないですかい。」
「昨日まではいたんだよ。どこか別の場所に移したんだろ。ほら向こうの方で馬のいななきが聞こえるじゃないか。これならココを繋がなくても大丈夫だな。もし馬がいたら繋がなきゃと心配してたんだよ」



「あっ、兄貴、大変だ。ココが馬のクソじゃなくて馬のウン様をくわえてる。」
「なんだいそのウン様ってのは?」
「少しでも幸運にあやかろうと思って様をつけみました」
「馬鹿だねお前は。そんなところで様をつける奴があるか。」
「それよりさっきからココが馬糞をくわえてウロウロしてるんですが、あっ、あっ、ごっくん。飲んじゃった。食っちまいやしたよ、兄貴」
「ああ、たまに羊の糞とか馬糞とかくわえてて飲みこんじゃうことがあるんだ。後で吐いてたりするがな。」
「へえ、兄貴の家の夫婦喧嘩は食わないけど馬糞は食っちゃうんですね。すると兄貴の夫婦喧嘩はクソ以下ということですかい」
「馬鹿なことを言ってんじゃないよ。それより手を動かしな。この用意したスコップで馬糞を拾って一輪車に乗せるんだ。」
「へいへーい。♪犬の散歩に馬糞拾って積むのはネコ車、あチョイチョイと。あれ、兄貴、何か軽トラが来ましたよ。何か車の後ろに鎖のようなものを引っ張ってぐるぐる走ってる。何をやってるんですかね」
「馬糞というのは塊になってるだろ、そのままだと分解も遅いし、下の草も生えてこないからああやってばらけさせているんだろう。そこに前のヤツが転がってるだろう。」
「へえ、こいつですか、確かに乾燥して匂いもなく、干し草って感じですね」
「それに俺たちがここの馬糞の塊を持っていけば、あの人の仕事も減る、わずかだがガソリンも節約になる。一石3丁とはこのことだ。」
「ふうん、上手いもんですなあ。あれ、今度はこっちに来たよ。乗ってるのは若い女の子だ。可愛いね、へへ。あ、停まった。兄貴となんか楽しそうに話してるぞ。いいなあ。ココも頭なでられて尻尾振って喜んじゃって。あ、行っちゃった。兄貴、兄貴、何を話してたんですかい。『そこの素敵な御仁はどなた』なんて言ってましたかい」
「言ってねえよ、そんなこと。俺もよあの娘は今まで見たことは何回かあったが話をしたのは初めてでな。日本人ですか、はいそうです、って言ったらよ、お父っつあんはイギリス人、おっ母さんは日本の広島の出だそうだ。もっともここで生まれ育ったから日本語は少しだけだって言うがな。こちらのことも色々聞かれたからスキー関係の仕事をしています。ハットですかと聞かれ、いえいえ主にポーターズとかブロークンリバーなんぞに行ってますと言ったら、驚くことにクラブフィールドのこともよく知ってるじゃねえか。それでこの前のオープンの日のことでひとしきり話して盛り上がったってわけだ。わかったかい、こんちくしょうべらぼうめ」
「なんだい、その最後のこんちくしょうべらぼうめってのは」
「いやよ、あまりに一つの台詞が長かったから勢いでな。まあ後は向こうのパドックのどこそこに行けばもっと馬糞はあるよなんて話をしたのさ。どれ、あらかた馬糞も溜まったことだし、そろそろ帰ろうか。」



「兄貴、こうやって持ってみると案外軽いんですね。土なんかネコ車に一杯にしたら重たくてヨロヨロしちゃうじゃないですか。これぐらいなら楽勝だい。そんでこれを持って帰ってどうするんです?」
「うむ、地面に穴が掘ってあって、そこで堆肥をつくるんだが、今は一つ空いているのでそこに入れてイーエムで分解させようと思ってる」
「へえ、あのドイツの車、あれを使うんですか」
「何を言ってるんだね。そりゃビーエムだろうが」
「さいですか。ああコマーシャルのこと?」
「それはシーエム」
「ダイレクトメール?」
「それはディーエム。いい加減にしろ、全くお前は。イーエムのことを知らんのか?以前のブログにも書いたはずだぞ、何?読んでないって、しょうがないな、探してあげよう。どこだったかな、あれはだいぶ前の話だったな。あった、あったこの話だ。読んでみろ。」
「へえ、なになに、ふむ、ほうほう、それで、ふむ、なるほど、あらかたわかりました。しかしなんですな、これが世のためになるんですかい。」
「なる。それにな、お前が運んでいる馬糞、これも世界を救うのだぞ。それがお前には分からないのか」
「へえ、分からないので教えて下さい。」
「よし教えてやろう。まずはこうやって馬糞を使って土を作る。これが良い土になり、良い野菜ができる。特に大根なんか最高だな。さてここに仮に山田太郎くんという子がいるとしよう。この太郎君、不治の病を患い医者からさじを投げられてしまった。親御さんがたいそう悲しんでな、死ぬ前にしたいことはないのかと聞いたら、ニュージーランドに行きたい。それなら生きているうちにとニュージーランド旅行に行くことになった。ニュージーランドでは世話になったガイドさん、すなわち俺のことだが、そこに食事に招待された。そこでうちの大根を使って料理をしたら、あら不思議、どの医者も見放した病がきれいさっぱり治ってしまった。ありがとうございます、せっかく拾ったこの命、世のため人のために使いますと一生懸命働いて出世した。一度は死を覚悟したくらいだから世の仕組みもよく分かる。今のこの世を牛耳っている支配者とも対決してなんと改心させてしまった。そこからは争いや奪い合いのない世界となり、星子が言っているような地球人70億による地球祭へとなっていくのだ。さあ分かったか、この馬糞がゆくゆくはこの地球を救うのだ。」
「いや、兄貴、突っ込みどころがありすぎてどこからつっこんでいいのか分からねえけど、地球を救うなんて、なんでそんな大きな話になるんですかい?」
「そりゃお前、ウンの話だけに、小さいのはいけねえ」

ドンドドンドン



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誕生日

2016-07-22 | 高座
え、みなさん、毎度のお運びで。
今回もまたしばしのお付き合いをお願いいたします。
あたくし、もう昨日になってしまいましたが、無事に誕生日をむかえました。
今年で48ですよ、48。
だからなんだ、と言われてしまえばそれまでなんですが、自分が若い頃には自分がそんな歳を食うなんて考えられなかったんですが、いざこうやって歳を取ってみるとなんですな。
中身は全然変わっていないぞ。
外見は変わりましたよ、さすがに。
頭は禿げたし髭は白くなって顔にしわもできて、それなりの貫禄ができました。
こうなってくると面白いものでして中身は大して変わらないのですが、周りが変わる。
同じことを話しても、それまでは「若造が何を言ってやがるんでぇ」という態度から「ああ、こういうお坊さんみたいな人がそう言っているのだから、こころして聞かなきゃ」となります。
向こうが勝手に持ち上げてくれるのですから、まことにもって楽ですな。
早くもっと歳を取って、もっと楽になりたい。
そしていずれは歳をとりすぎて若い者に邪魔者扱いされる、そんなジジイになりたいものです。

えー、誕生日の昨日は仕事をしていまして、ポーターズという山へ行ってまいりました。
今日は写真はございません。
昨日と全く同じでしたから。
読者の皆さんも薄々感づかれたかもしれませんが、昨日のブログ、やる気ないですなあ。
なんですか、あれは。
写真をチョコチョコと乗せて、文も取ってつけたようなものを数行。
まるで仕事行く前にあわててアップしました、というのがありありと見えるような。
いいのか、それで。
みなさん、怒ってませんか?
いやね、言い訳するわけではないんですが・・・雪が少ないんです。
てっぺんまでオープンしていないんです。
そしてね、ポーターズって山は、ほとんどの場所が日陰で寒いんです。
ほとんど日陰だからあまりいい写真も取れない。
やっとTバーが開いて日当たりが好い場所に行って撮ったのがあの写真。
いえね、あたしだってたっぷり雪があって、まっさらなバーンでパウダーを滑った後の写真を撮って、いやみのように北半球のみなさんに見せつけたいですよ。
でもね、岩だらけの斜面を見上げて、はあ、とため息一つ。
文だって、気の利いた言葉もなくなります。
じゃあブログのアップをしなければいいじゃないか、というとそうもいかない。
夜、寝ていると聞こえてくるんです。
「早くアップしろ~、早くアップしろ~」
という全国350万の『あおしろみどりくろ』の読者の心の叫びが、怨霊の呪いのように聞こえるんです。
というわけで、やる気の無いブログ一丁できあがり。
もう削除しちゃいましょうか?
いや、でもこうやってネタになったのだから、パウダージャンキーの禁断症状の現れということで取っておきましょう。

えー、あたくしのお友達にマリリンというおばあちゃんがおりまして、かれこれ十数年のおつきあいでしょうか。
ブロークンリバーのメンバーでもあり、あたしがブロークンリバーのクラブに入るきっかけを作ってくれた人でもあります。
この人もぶっとんだおばあちゃんでして、ああこういう歳のとり方をしたいなあ、と思わせてくれる人です。
いずれこの人のことも長い話を書こうかと思っているのですが。
この人と昨日、山でばったりと会いまして、フェイスブックでも繋がっていますからあたしの誕生日を知っていまして。
会ったそうそう、「Happy Birthday」とハグをしてくれました。
夏の間はそうそう会えませんから、近況報告やら今の状況やら話して一緒に1本滑って。
下へ降りて休んでいたら今度はレネ一家が上がってきた。
レネは同じ年代の友達で日本人の奥さんに娘二人と末っ子の男の子という家族。
この奥さんのナオちゃんが作るパンとかお菓子が絶品でしてね、まあそんなことはどうでもいいんですが。
レネはこちらニュージーランドのお客さんを連れて日本でスキーガイドをしている。
まあ、あたしと逆のようなことをしているんですな。
こしてまた一緒に1本滑って。
他にもブロークンリバーのクラブメンバーがけっこう来ていまして。
まあ向こうが開かないからこちらへ来るしかないんですな、色々な人に会いました。
こうやっていると遊んでいるようですが、合間合間にちゃんとお客さんのケアという仕事もしてますからね。
ボスに読まれても困らないように、ちゃんと書いておかないと。
そんなこんなで1日が終わり、お客さんをみんな街まで送り届けて。
嬉しかったのがですね、お客さんでスキー初めての人がいたんです。
年は15ぐらいかなあ、北島からのお客さんなんですが、初めてだったからブーツの履き方とかスキーの持ち方とか面倒見てあげたんです、最初だけ。
他の人はみんな「楽しかったよ、ありがとう」と言ってバスを降りられたんですが、その人というかその子はね。
降りる時に「ありがとう最高だった」と言って僕の手をギュっと握ってくれて。
手を開いてみるとそこには1両小判が・・・なんてことあるわけないでしょ。
でもね、嬉しかった。
ああ、この仕事やっていてよかった、と思いました。
人を幸せにする仕事、人と幸せを分かち合える仕事って素晴らしいなあと。
世の中には人を不幸に陥れる仕事も存在しますから。
山に行って1日過ごしてお客さんが喜んで別れる。
一期一会ですが、そんななんてことのない日々が嬉しくもあり有難くもある。
誕生日だから余計にそれを感じたのかもしれません。

家に帰れば妻子がご馳走を作って待っていました。
ローストポークです。
皮をパリパリに焼いて、まるでおせんべいのようです。
これをつまみに自家製ビールをキューと、たまりませんな。
もちろん豚肉も美味いし野菜も美味い。
デザートは仕事場の先のケイコさんが焼いてくれたケーキ。
あたしはビールの後に今度はかみさんが作った梅酒なんぞいただき、酔っ払ってバタンキュー。
バタンキューって、今時こんな言葉使う人いませんが、いいんです。
こんな感じであたしの48の誕生日は過ぎまして。
数々の方々からフェイスブックなどを通してお祝いをいただきました。
この場をお借りして、御礼申し上げます。
ありがとうございました。
これからも清水亭聖笑、精一杯、力いっぱい、我武者羅に、無我夢中で、一心不乱に、え?もういいですか?
とにかく自分なりにやっていきますので、御ひいきにお願いいたします。

ドドン、ドンドン(太鼓の音)



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押し寿司

2016-07-02 | 高座
えー、唐突ですが、魚が好きです。
あたしゃ、生まれも育ちも駿河の国、清水次郎長で知られた清水という場所でして、通った小学校も清水小学校。
その近くには次郎長通り商店街なんてものがありまして、次郎長の生家があったんですねえ。
長さ500mぐらいの狭い商店街には八百屋とか肉屋とか本屋とか金物屋、瀬戸物屋、文房具屋、レコード屋、眼鏡屋、家具屋、時計屋、菓子屋というように、まあ色々ありまして、いわゆる昭和の田舎の商店街でした。
この次郎長通り商店街、魚屋さんの多いこと。
そんなちっぽけな商店街で5つも6つも魚屋さんがある。
まあ、近くに魚市場もありましたし、それぐらい清水の人は魚をよく食べたんでしょうなあ。
あたしの通学途中にも魚屋さんがありまして、天気のいい日にゃその店先で干物を干していて、その匂いがぷーんと漂う。
そんな環境で育ったものだからか、魚が好きでして。
それもあーた、鮪だ平目だ鯛だというような高級魚じゃありません。
鰯、鯖、鯵、秋刀魚というような近海魚、それも青い魚というようなものが好きだったんですね。
刺身もさることながら鯵の開きの天日干しなんぞは良く食卓にあがったものですし、秋刀魚のみりん干しなんてものも大好き。
ニュージーランドと日本を行き来するようになっても、帰って母親に何が食いたいか聞かれたら真っ先に鯖の味噌煮をリクエストするような、そんな具合でした。

えー、皆さんご存知の通りあたしはニュージーランドに長年住んでおりまして、今はもうだいぶ変わったのですが、あたしが住み始めた頃、まあ30年近く前なんですがね。
当時は移民の数も少なく、白人それもイギリス系の人達が大多数を占めていたのですな。
このイギリス系の人達は基本、青魚というものを好まない。
まあ独特の臭みと申しますか匂いと言うものがあります。
「何言ってやがんでえ、それが旨えじゃねえのか。そんなのが嫌いだなんてぬかすなら江戸っ子なんてやめちまえ!」
いえいえ、もともと江戸っ子どころか日本人でもない白人の話ですから。
この白人達も全く魚を食わないかというとそうでもない、れっきとした魚料理というものもございます。
フィッシュアンドチップスというやつでして、まあ簡単に言うと白身魚とジャガイモのフライです。
旨いことは旨いのですが、毎日食べれるようなものではない。
まあ、こちらの方々は毎日でも食べるのでしょうけど。
ちょいと小洒落たレストランに行きましてもメニューにあるのは白魚かサーモン。
魚屋へ行けばほとんどは白魚で、青魚なんて店の片隅に申し訳程度にちんまりと息をひそめている。
ああ、あわれ青魚よ。お前の基本的人権なんぞ、この国ではないのだよ。
もっとも魚だけに人権なぞありませんがな。

えー、人間というものは面白いものでして、歳を取ると食の好みがその人の子供の頃に食べていたものに還っていくそうです。
ですからマクドナルドを食べて育った人間が老人になるとマクドナルドに還っていく。
それが企業の戦略にもなっている今日この頃。
あたしもその例にもれず、歳を重ねるに連れ、ニュージーランドにいながらも青魚が食いたくて食いたくて。
でも今は30年前ではありません。
ここニュージーランドも移民が増えて、それに伴い食生活も豊かになった。
冷凍ですが秋刀魚やかたくち鰯や真鰯も店先に並ぶようになった。
秋刀魚がどこから来ているのか聞いたところ、目黒じゃないんです、残念ながら。
台湾から輸入しているのだと。
ちなみに鰯はメキシコから遠路はるばるやってきた。
ニュージーランド近海では取れないのかな、という疑問はさておき、魚屋にこういう青魚が並ぶようになった。
あーた、ありがたいことじゃあありませんか。
もともと料理は嫌いではありませんから、鰯は背開きにして塩に漬けてアンチョビを作ったり。
秋刀魚は大名おろしにしてフライパンで焼き、甘辛のタレでかばやきにしたり。
もちろん大根がある時には七輪で炭火の塩焼き大根おろしなんてこともします。
そしてニュージーランド産では、たまーにですが鯖も見かけますし、鯵は常にある。
まあ、鯵は常にあることはあるのですが、それが常に新鮮だとは限らない。
でも新鮮な時には刺身も旨いし叩きにしてもよし。
買ったみたはいいけど、おろしてみたらちょっと刺身にするにはなあ、なんて時には鯵フライ。
何より安いというのが嬉しい庶民の味方でございます。

最近凝っているのが締め鯖ならぬ絞め鯵。
新鮮な鯵を見つけると、おろして塩を降り、贅沢に北海道の昆布なんぞと一緒に酢に漬ける。
これが脂がのっていて旨いの旨くないのって、そこに頂き物の上物の日本酒なんぞチビリなんて。
あー、生きていて良かった。
手前で造って手前で食って喜んで、つくづく自分は幸せものだなと思うのであります。
我が家には14になる娘がおりまして、最近ではいろいろと和風の味もわかるようになりました。
静岡の新茶の旨味も分かるし、今まであまり好きでないものも食べてみたら「おっ、いけるじゃん」というような年頃になりました。
この娘がオヤジの絞め鯵が大好きで、毎日だと飽きるだろうけど1日おきならいけるなんてことを言う。
嬉しいじゃありませんか。
こうなると作る方も作りがいがありまして「よしそんなら、お父っつあんがたくさんこしらえてやろう」と多めに作りました。
普通に切って食べるのもよいが、そのままじゃ芸が無いってんで、もう一工夫。
押し寿司にしちまおう、と酢飯を作り鯵の押し寿司。
この日のために、というわけではありませんが、日本から取り寄せた枠はひのきの香りがぷーんといたします。
その枠に酢飯を詰めて、鯵をほどよい大きさに切り、ぎゅっぎゅっと押す。
作った人の特権で、出来立てをパクリ。
横にいた娘も一緒にパクリ。
うーん、旨いなあ、ともう一口パクリ、娘もパクリ。
おお、いかんいかん、出来上がりの写真を撮っておかないと、これはブログのネタになるぞと写真をパチリ。
パチリと撮ったあとは再び親子でパクリ。
この押し寿司、出来立てももちろん旨いのですが、時間が経つと馴染んでこれまた旨い。
もともと寿司は保存食ですし、どこかに笹はなかったか。
日本ならどこにでもありそうだけれど、ニュージーランドのどこで見たっけなあ。
どこかで見たことがあるので、次回は葉っぱをとっておきましょう。
笹の葉っぱも殺菌作用があるそうでして、これを笹寿司にしても面白いでしょうな。



「お前さん、ちょっとお前さん」
「なんだい、かかあじゃねえか、どうしたい」
「どうしたいじゃあないよ。それはこっちが聞きたいぐらいだよ。どうしちゃったのさ、急にこんな落語風にしちまってさ」
「ああ、これか。実はよ、最近ユーチューブってのか、あれで落語にはまっちまってな。あれ聞きながら魚捌いたり寿司造ったりしてたらこんなになっちまったんでい」
「何言ってんのさ、このブログ読んでる人だっていきなりこんなになってびっくりしてるじゃないか」
「なあに芸風が変わったんだって思ってるだろうよ」
「芸風ってお前さん噺家じゃあるまいし。この前だって裏店のお富さんに『旦那さん、しばらくガイドの仕事してないようですけどガイドあきらめて噺家の師匠に弟子入りでもするんですか?』ですって。あたしゃ悔しいやら恥ずかしいやら」
「しょうがねえじゃねえか、雪が降らねえんだから。雪が無きゃスキー場も開かねえ。自然の道理でい。言いてえヤツには言わしとけい」
「そうなんだけどさ、このままじゃうちはおまんまの食い上げだよ」
「でえじょうぶだって、7月になったら降るからよ。だいたいだな、この辺りじゃ雪が落ち着くのは7月半ばぐらい、運がよければ6月ぐらいから滑れる。スキー場も客もそれで永いことやってきた。それをどこかの大店が商売になるからって冬祭りを先倒しして6月におっぱじめやがった。それまでは冬祭りなんてものは冬の一番寒い最中の8月にやってたんでえ。それを何か『寒いさなかは黙っていても客が来るからヒマな時に祭りをやれば人集めにもなる』だとよ。ふざけんじゃねえぞってんだ」
「そうねえ、6月に冬祭りをしちゃうのはどうかと思うわね」
「クィーンズタウン辺りの大店がそんな具合だからよ、他の所もこぞって早く早くって言い出しやがって。でえじょうぶだって7月になりゃ降るからよ」
「お前さんそんなこと言って、もう7月に入ってんだよ。それに覚えてるの?一昨年だってそう言いながら、6月も7月も8月も全く降らなくてさ、結局降ったのが8月の半ばだったじゃないのさ」
「かあ、そんな昔のことよく覚えてやがる。そういえばあの時は撮影の仕事があったんだ。親方は元気でいるかなあ。」
「この前だってユカちゃんを通してメッセージがあったんじゃないの。日本に帰ったら連絡をしろよってさ」
「ああ、そうだけどよ。なにせこちとら色々と忙しくて、親方には不義理をしちまって。まあ次の機会だな。」
「いつになることやら。それよりお前さんどうするのさ」
「どうするって、さっきも言ったじゃねえか。雪が降らなきゃしょうがねえって」
「そうじゃないよ、あたしが言いたいのは。この話をどうするのって聞いてるの」
「・・・どうするって、どうするんで?」
「どうするもこうするも、これだけ落語のノリでやってきて落ちはどうするのって聞いてるの」
「落ちだあ、そんなものは無え」
「無いって言ったって、みんな期待してるよ、きっと」
「期待されたってなあ。じゃあ落ちは次回ってのはどうだ?」
「ダメよそんな、締め切りに困った漫画家みたいなのは」
「じゃあ、落ちは各自で考えてくださいってのは?」
「そのうちにみんな怒り出すよ。困った人だねこの人は」
「なに言ってやがんでえ。こちとら清水生まれの江戸っ子でい。ノリで始めたこの話、ここらでプツンと終わりにいたしますでいいじゃねえか」
「まったく、わがままなのか押しが強いというのか・・・」
「ああ、そうよ、押し寿司だけに・・・退くに退けねえ」








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