あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

楽な仕事

2009-08-19 | 日記
お盆の時は一冬で一番忙しい時である。
この時にヒマだったら、それこそヤバイ。
忙しい1週間が過ぎ、ボクは一つの仕事を終えた。
お客さんはぼくと同年代から少し下。
船橋隠密忍者組織という、ふざけた名前の一団である。
ちなみにボクもそこのメンバーだ。
彼等は毎年帰ってきてくれる超リピーターである。
ボクは1年のうちに、色々な仕事をするが、この仕事が一番楽で一番楽しい。
何と言っても、全員がクラブフィールドの事を理解してくれて、自己責任というものを理解してくれている。
ロープトーの乗り方だって分かっているし、装備だって自分で持ってくる。楽だ。
ボクと彼等の関係は、ガイドとお客さんと言うより部活の先輩後輩のようだ。
ボクはありのままの姿をさらけ出して、彼等はそれを喜んでくれる。
何も隠すことなく、思ったことをずけずけ言える関係は楽だ。
楽なことは楽しい。同じ字だ。
1週間のツアーで、運転をして若い連中と一緒に滑り食事の用意をして、というのは肉体的には楽ではない。
が、精神的にリラックスしてできる仕事は、肉体的な辛さを充分カバーできてお釣りが来る。



彼等と会ったのは5年前、ブロークンリバーの入り口で立ち往生していた彼等を拾い、ガイドをしたのがきっかけだ。
それからというもの彼らは毎年8月になるとNZに戻ってきて、ボクと一緒にあちらこちらのクラブフィールドへ滑りに行った。
去年はテンプルベイスン、一昨年はチーズマン、ハンマースプリングスなどのレアなスキー場へ行った年もあった。
ボクがヘイリーやブラウニー達と行ったジャパントリップのイベントにも遠い所から駆けつけてくれた。
ヘイリーも彼らを覚えていて「おお、忍者達がまた来たか」と暖かく迎えてくれる。
参加メンバーは多少の変動はあるがほぼ同じで、リーダーのお調子者を筆頭に個性あふれる顔ぶれである。
一昨年ぐらいは初級者だった女の子は、今では軽々とロープトーに乗り、裏のアランズベイスンを気持ち良い~と滑ってくる。
今年初参加のクマさんという人など、初海外旅行なのに、クライストチャーチの空港からブロークンリバーへ直行、その後マウントオリンパス、クレーギーバーンなどを滑り、大聖堂はおろかクライストチャーチの市街を見ることなく帰っていった。
クマさんがこの1週間で見た信号は、クライストチャーチ郊外にある1カ所を行きと帰りで2回、それだけだ。
ちなみにクマさんのスキー技術はボーゲンがなんとかできる程度。その腕でこれだけのフィールドを回ったのだからたいしたものだ。
もっともクマさんのNZへ来た目的とは、ボクと一緒に飲むため、というのだから嬉しい限りである。



彼らとは部活の先輩後輩のノリだ。
「ひっぢさん、何か日本のもので欲しいものがあったら持ってきまス。何かないッスカ?」
「そうだな、じゃあ・・・モスバーガー」
「ええ?モスバーガーこの国にはないんスか?」
「ないよ。マクドナルドとケンタッキーはあるけどね。あれは日本のお店だよ。じゃあオレはモスチーズバーガーね。それも温かいやつ」
ニュージーランドは食べ物とか乳製品の持ち込みは非常にきびしい。
「えええ!それは無理ッスけど、他には?」
「じゃあ、日本酒持ってこいよ。ヘイリーやブラウニーも好きだぞ」
もちろんボクも大好きである。
「分かりました。日本酒持ってきまス。」
「1人一升瓶1本な。それも純米吟醸」
「えええ!そんなにたくさん持って来れないけど、とにかく持ってきまス」
まあこんな感じだ。



会話はタメ口だが、彼等はお金を払ってくれるお客さんである。
彼等からお金を貰って、ボクは生活している。
彼等をハッピーにさせるのがボクの仕事だ。
Make clients happy お客さんをハッピーにさせろ。
こちらの会社では、新入社員の教育でこれを徹底させる。
日本の旅行会社ではお客さんの為というより、会社のためお金のためが第一で、お客さんが二の次になっているケースも多々ある。
お客さんの方でも、お金を払うんだから自分は神様だ、神様は何をやってもいい。という人もいる。
クレーマーと呼ばれる、人のアラを探しながら旅をする人もいる。
幸いなことにボクの所に来る人でそういう人はいない。
今回のツアーは新雪には当たらなかったが、彼等は充分楽しみ満足したはずだ。
「来年また来ます」というありがたい言葉を置きみやげに帰っていった。
ガイドとしてこれほど嬉しい言葉はない。
自分としても納得のいく仕事ができた。
良い仕事の後に飲むビールがこれまた旨い。



ブロークンリバーにいる深雪に電話をかけた。
深雪は1週間学校を休みブロークンリバーに籠もっている。
初めてのスキー合宿だ。
「深雪、どうだそっちは楽しいか?」
「うん、ちょっとだけホームシックになったけど、楽しいよ」
「今日はお父さんはクレーギーバーンだった。ハミルトンピークの反対側にいたんだぞ」
「ふーん。こっちはねえアランズベイスンでアバランチがあったの」
「そうかあ、今は雪が不安定だからな。クレーギーバーンでも大きいのがあったよ。お父さんは明後日上がるから、マリリンの言うことを良く聞いて、楽しんでいろよ。」
「はーい」
アランズベイスンでアバランチか。いっぱしの口を利くようになったものだ。
ぼくはにやけながらビールを空けた。
ガイドという衣を脱ぎ、父親として山へ上がろう。
きっと山は、いつものように暖かく出迎えてくれることだろう。
満ち足りた気持ちで新しいビールを開けた。


コメント (2)
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アイデアとやる気と行動力

2009-08-08 | 
先週、友人のタイが家に来た。
タイは20代半ば、行動力にあふれる男で、西海岸で氷河ガイドをやっている。
数年前にヤツが氷河ガイドになった時にヤツに言った。
「オマエな、自分のことを日本人初の氷河ガイドとか日本人唯一の氷河ガイドなんて吹聴するなよ。自分でそんなことを言うことほどみっともないことはないからな。他人がオマエのことをそう言うのはよろしい。だけど自分では言うな」
というわけでボクはこの日本人初の氷河ガイドを高く評価している。
スキーの腕は一流、カヤックもバリバリ、ボルダリングをやるので筋肉ムキムキ。
アウトドア能力は高く、娘に言わせるとハンサムボーイなんだそうだ。
ヤツは自宅で蜂蜜は取る、網でカレイなどの魚を捕る、ホワイトベイトも捕る、家庭菜園ももちろん、鶏を飼って卵も取る。最近ではウナギも取りはじめた
そんなヤツが西海岸で採れたサーモン、鹿肉、ウナギなどおみやげに持ってきた。



最近の大ヒットはウナギ。
取れることは取れたが、捌くのだって大変だったと言う。
悪戦苦闘、試行錯誤、一致団結、有言実行、の末わが家に西海岸産のウナギが届いた。
燻製にして食べたというが、日本人ならやっぱ蒲焼きでしょう。
だが蒲焼きの道は遠い。
ボクが蒲焼きのタレを作り、タイが串を刺す。
串を刺すのだって楽ではない。皮は固く串が刺さりにくい。
「うわあ、こりゃ大変だあ。串差し3年って言うけど、ホントですわ」
「そんなに大変?」
「うん、まず串が太すぎる。それに先が尖ってないと上手く刺さらないッスよ。なんか滑って自分の手を刺しちゃいそうで怖い」
串もなんでも良いわけではないらしい。こうやって一つ一つ学んで人間は成長する。
それでもなんとか串を刺し終え、炭火をおこし焼いてみた。
一緒に焼くのはサンマ、鳥肉、野菜など。




最初はタレを付けずにあぶり、徐々にタレを塗りながら焼く。
焦がさないようにマメにひっくり返しながら焼く。
タレの焦げる香ばしい臭いが辺りに充満し食欲をそそる。
さあ、できた、気になるお味は?
「ウメ~!!!!!!」
泥臭さは全くなく、やや淡泊な白身。ウナギ独自の味が濃い。
固いかと思った皮は柔らかく、ほどよく脂がのり、甘辛のタレが全体を包む。
深雪が黙々と食べる。本当に美味い物を食う時のこいつの癖だ。
「こりゃうめえなあ。タイ、大成功じゃんか」
「次は串の刺し方ですかねえ。焼くときに皮が丸まるのでそれを考えながら刺さなきゃ」
ナルホド、向上心を持ち続けるのはいいことだ。



アイデアとやる気と行動力。
これで人間は幸せになれる。
新しいことを始める時に、先ず考えるのが「うまくいかないんじゃないか」という思い。
例えばウナギを食べるということだって
「泥臭いんじゃない?」「皮が固いって聞いたわ」「大味で脂っこいみたいよ」「そんなの美味しくないでしょう」
否定的な言葉は次から次へと出てくる。
少数の人は試してみてうまくいかないと知る。
その言葉を聞きほとんどの人は、やりもしないでダメだと決めつける。
それはどこから来るのか?
その人の心の中にある失敗を恐れる恐怖から来る。
その結果いろいろな言い訳を並べ上げ、行動を起こさない。

ボクは今、色々な物を作っているが、やってみたら意外と簡単だった、というものは多い。
行動を遮っている物は、自分の心だ。
失敗は経験であり、経験は財産だ。
これからも試行錯誤を繰り返しながらいろいろやっていくだろう。
うま~い蒲焼きを食いながら、そんなことを考えた。
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あるスノーボーダーの死

2009-08-06 | 
クィーンズタウンにあるコロネットピークのコース外で一人のスノーボーダーが雪崩に巻き込まれ死んだ。
アバランチトランシーバー、雪崩ビーコンも付けておらず、捜索に時間がかかり死んだという。
僕がコロネットで滑っていたのは10年以上も前だが、多分あの辺の斜面じゃないかという見当はつく。
今、これだけの情報があり、それでいてビーコンも付けずに山で雪崩に巻き込まれたのならしょうがない。
あきらめてもらうしかない。
「知らなかった」では済まない。
僕らから見れば自殺行為だ。

だが20年前はそうではなかった。
当時はスキーでパウダーなど滑る人はほとんど無く、ビーコンという物もあまり出回っていなかった。
エラソウに言う僕だって、真冬の磐梯山に装備もなく登って滑ったり、働いていたスキー場のコース外を滑ったりしていた。
よくあの時に死ななかったと思う。
無知とは怖い物だ。
ビーコンが普及し始め、パトロールで経験を積み、雪崩のことを知るようになると、簡単に山に入れなくなった。
同時に今までどれだけ自分が無謀な事をしてきたか、背筋の凍る思いを味わった。

スノーボードが出回り、スキーもパウダー用の幅広スキーが出て、バックカントリーというものに人々が関心を持ち始めたのが10年ぐらい前か。
事故も増え、僕はスキーパトロールをやっていて何回もイヤな経験をした。
山は人が死ぬ所だ。
先ずこれを徹底的に理解する必要がある。
体力、経験、知識、装備、全て揃っていてなおかつ山で事故は起きる。
これのうちどれかでも欠ければ事故の可能性は格段に高くなる。

今やバックカントリーの世界では、ビーコン、ゾンデ棒、スコップは当たり前の装備だ。
こんな物は使い方を知っていて、持ち歩いて、それでいて使わないというのが一番良い。
使わないだろうから持ち歩かないというのはダメだ。
たまたま今回はこの装備がなかった、というそのたまたまの時に事故は起きる。

だがスキーやボードを楽しむ上で誰もがそんな装備を持つわけではない。
ビーコンだって安い物ではない。
そういう時はどうすればいいか?
スキー場の中で滑れ。
その為にスキーパトロールはスキーカットをしたり、爆薬でアバランチコントロールをしたり、データを取ったり、間違ってコース外へ行かないよう看板を立てたりするのだ。
スキー場の中だってパウダーはある。
逆に言えば、スキー場の中のパウダーを、来る人により安全に滑って貰うためにパトロールは仕事をする。
少なくとも僕はそうだった。
できることなら、あの山だってあの沢だって全部滑って貰いたい。
自分が滑りたいから。
けれどパトロールの仕事量は限られているので、どこかで線を引かなければならない。
「その向こうは外海だよ。気をつけな」というアドバイスはできるが、人間の行動を止めることはできない。
人が入りそうな所に立ち番をするわけにもいかない。そんなの労力のムダだ。
ロープ1本、看板一つあれば充分。読まないヤツや何の経験、装備もなくロープをくぐるヤツが死ぬなら仕方ない。
僕はそう思うのだが、昔この立ち番を本当にやらせたスキー場があった。
僕はこれに大反対して、その結果そのスキー場をクビになったが、そのスキー場も数年でつぶれてしまった。
当時一緒に働いていた人達は口を揃えて「ひっぢはあの時にやめてよかったよ」と言ってくれるので良しとしよう。
話がそれた。

プールで泳ぎを覚えた人が、いきなり波が荒れまくる外海に泳ぎ出す。
無装備で裏山に入るとはそういうことだ。
自然は甘くない。
人間が気を付けなければ痛い目にあう。
だが僕にはこのスノーボーダーを責められない。
この死んだスノーボーダーは20年前の僕だ。
この死によって一人でも多くの人が装備の大切さに気付く事を祈る。
コメント (1)
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